第六章47 属性装備の真価
フル装備に着替えたフュエ王女と王宮に戻る。
「………」 「………」 「………」
側使いのメイド服に着替えたエメリー、ジェーン、エマが迎えてくれるが……
三人とも言葉を失っている。
俺から言わせれば…… 君たちも大概だけどね。
「それではフュエ王女。 今日はこれにて失礼いたします。 また明朝お会い致しましょう」
フュエ王女が眠りに着いた頃、俺はエミリーたち王室護衛騎士三人を呼び出す。
「エミリー、俺が警備の為にここに来ている理由を聞いているか?」
「はい、マール宰相より聞いております」
「なら、俺は今度行われるミュジニ王子の『王位継承選定の儀』に立ち会いたい」
「『王位継承選定の儀』は王族に近しい者しか立ち会えません」
「だが、オリヴィエ・グリオット侯爵令嬢は立ち会うのだろ?」
「はい、王族の婚約者は特別に許しが出ております」
「俺は正式な婚約者ではないが、式典ではフュエ王女の右に立ち、お披露目の儀ではエスコートを務めた」
「はい、ソーテルヌ公爵様の参加を申請すれば…… 参加は可能かと思われます。 反対する者も居るかもしれませんが、マール宰相がどうにかしてくれるでしょう」
「よろしく頼む」
エミリーは『はい』と俺の願いを受けてくれたが……
少し考えて『一つだけよろしいでしょうか?』と俺に訊ねてくる。
「王家の儀式で何かが起こるとお考えなのですか? もしかして……ミュジニ王子が【ヒュプノスクリス】に認められると?」
「いや、それは違うような気がするが……… お前は王子が認められる事は嫌なのか?」
「………はい、正直申せば。 我々はフュエ王女に仕えてきましたので」
「だが、時期国王はミュジニ王子と決まっているのではないのか?」
「いえ、そう言う流れでしたが、フュエ王女がソーテルヌ公爵様と婚姻されれば、その流れも変えられるかと。 今まで中立だった多くの貴族がフュエ王女の派閥に来る事でしょう。 そしてミュジニ王子の派閥からも鞍替えしてくる貴族が居るかもしれません」
「俺は王配(統治女王の配偶者)など御免だぞ……」
「…………。 我々人族全て、長い間弱者として虐げられてきた苦しみから開放してくれる、英雄王に導かれることを望んでおります。 ミュジニ王子にその様な力は御座いません」
「フン。 お前達はフュエ王女を『女王』にしたかったのでは無いのか? 今の話では意味合いが違ってくるぞ! 下らない感情誘導は止めるたほうが良い。それともマール宰相に何か言われているのか?」
『…………』エメリー達三人の顔色が悪くなる。
「まぁいい。 今は『フュエ王女を守る』という事でお互いの旨意は一致している。 余計な詮索は止めておこう。 とにかく『王位継承の儀』の立ち合いの件、手配を頼む」
「はい……」
翌朝、フル装備のフュエ王女を連れて、王都南門へと向かう。
メイド服のエメリー、ジェーン、エマに見送られ……
冒険服のアメリー、ジューン、エラに迎えられる。
三人が急いで間に合うように、こころなしゆっくり歩いている自分が可笑しい。
アマンダ達も迎えてくれるが――
「………」 「………」 「………」 「………」
やはり皆、フュエ王女の装備を見て固まっている。
『聞きたい事は沢山あるけど…… まずフュエの恰好はどういう意味?』
シャルマが代表して聞いてくる。
「昨日の戦闘でフュエの適性は『クレリックでは?』と言う事になった。 『クレリック』は前衛もしくは中衛だ、だから近接戦用の装備に変えて来たと言う事だ」
皆が『えっ?!』と驚く。
「それで、体装備は変わってないけど…… その『メイス』と『ガントレット』と『グリーヴ』ってもしかして?」
「わからん、冒険で見つけたものだ!」
「………」 「………」 「………」 「………」
俺のあまりにも苦しい言い訳に、みな見なかった事にしてくれるらしい。
これは……
たぶん、アマンダ、リーラ、ギルベルトも薄々俺の事気づいているな。
ミゲルだけは相変わらずだが。
あとからシャルマとフローラが『過保護っぷりもここに極まれり!って感じね』とちゃかしてきた。
俺達は、昨日と同じ馬車に乗り、『モントリューダンジョン』に向かう。
昨日と全く同じパターンで、一階のガーディアンゴーレム(銅)に一気にしかける。
ゴーレムが起動し立ち上がる前に、一気に『核』にダメージを入れる!
それで二割ほどの体力を削れればラッキーだ。
ゴーレムが起動してからは、俺がタンクとしてタゲを取り、アメリーが魔法と弓で陽動。
皆でゴーレムの片足を狙い、バランスを崩したところで『核』を責める。
昨日と違う所は、前衛にフュエ王女が『クレリック』として参加した事だ。
だがその効果は劇的だった。
アメリーの陽動にゴーレムが『核』を守る為に両腕を上げる。
ヒュッ――!!!
『えっ?』皆が目で追えない速さでフュエ王女がゴーレムの足元へ滑り込む!
そして――その勢いのままフルスイングでメイスをゴーレムの足にたたきつける!!!
ガッゴォ―――ン!!!
フュエ王女のメイスが、ガーディアンゴーレム(銅)の片足を粉砕する!
『ちょっ! ウソでしょ!!!?』
一撃でゴーレムの片足を粉砕して見せたフュエ王女にみな唖然としている。
もちろんこれ程劇的なパワーアップは、フュエ王女が『クレリック』の特性だったからだけじゃない。
土属性のゴーレムにとって、『木属性のメイス』は弱点そのもの。
土属性の弱点は木・風属性だ。
そしてさらにゴーレムは剣などの斬る攻撃に強く、メイスなどの打撃攻撃に弱い。
さらにフュエ王女の装備には相乗効果でバフがかかっている。
木属性のメイスは属性相性のいい水属性のガントレットにより、その威力が増幅される。
風属性のグリーヴの速さで、素早く潜り込み的確にゴーレムのウィークポイントを突くことも出来た。
そしてさらに自分が言うのもなんだが、俺の八属性のオリハルコン装備がヤバイ。
この装備は金属精霊アウラの加護で金属武器・防具の性能を大幅に上げる。
さらにこの八属性装備に含まれる属性と同じ属性の装備には加護が付与される。
その加護により『木属性メイス』、『水属性ガントレット』、『風属性グリーヴ』へとバフがかかり、相乗効果で力が増したと言う事だ。
我ながら恐ろしい装備をフュエ王女に着せているが……
別に銅ゴーレムを瞬殺したくてフュエ王女にこの装備を着せているのではない。
フュエ王女が前衛に出ると決めた時点で銀ゴーレム、最悪は金ゴーレムと対峙する危険性に対処しなければならなかったからだ。
この装備ならばもしS級の金ゴーレムと対峙したとしても生き残る事は出来るだろう。
片足を粉砕されたゴーレムが、片足では自分の重さを支えきれず倒れる。
そこにはすでに『核』に狙いを付けているフュエ王女が立っている。
バキッ――ン!!!
フュエ王女のメイスが一閃でゴーレムの『核』を粉砕した。