第六章46 王女の前衛装備
ラトゥール達との打ち合わせを終え、フュエ王女の居る武器庫へ戻ると……
部屋の中から二人の少女の笑い声が聞こえてくる。
「なにやら楽しそうな声が聞こえますね」
「ディケム様! お帰りなさいませ」
「レジーナと話が弾んだようで良かったです」
「はい。 レジーナさんとは一度ディケム様の『お茶会』でお会いした事がございます。 あの時はまだ総隊に入隊されていなかったのに、もうこのような重要な立場になられているので尊敬していたのです」
「レジーナは今、総隊の軍装研究部隊に無くてはならない人材に育っています。 いまフュエ王女が持っているメイスも彼女が作った作品ですよ。 それで…… そのメイスで決まりですか?」
「はい! 多分これが一番しっくりきます」
「ではそのメイスにしましょう」
「はい」
俺はフュエ王女が選んだメイスを受け取りマナを送り込む。
するとミスリルのメイスがほのかに光り出す。
メイスをフュエ王女に渡すと『何が起こっているのでしょう?』と不思議そうな顔で光りを帯びるメイスを見ている。
「フュエ殿下がお選びになったメイスは『セイクリッドスプラウトメイス』と名付けた聖属性が付与されている『木霊』の木属性メイスです」
「木霊様…… ですか?」
「はい。 このミスリルメイスは先ほども少し話しましたが、レジーナが鍛錬した魔法武器になります。 そのメイスには木霊の精霊結晶を含ませて作っているので『木霊の力』が宿っています。 ですがこの武器庫に保管しているときは、その力を眠らせておいた方がマナの吸収が良いので休眠(封印)させているのです。 今私のマナを流し込み木霊の力を起こしました。 今は起きたばかりで少し光っていますがしばらくすれば落ち着くでしょう」
「な、なにか…… 生きている武器みたいですね」
「生きている……ですか。 精霊とはマナそのもの。 その力だけを付帯させた武器は精霊の様にはそのメイスと対話すことは出来ませんが、大切に使っていただけると嬉しいです」
『はい』とフュエ王女がメイスを大切そうに腕の中に抱きしめる。
「あのディケム様。 このメイスを使っているときは、魔法はどうするのでしょう? 魔法の杖も持つのですか?」
「いえ殿下。 少し小さいですがメイスにも触媒としてのクリスタルは付いています。魔法を使う時はこのメイスを杖としてお使いください。 それに先ほども申しましたが、このミスリルメイスには素材自体に精霊結晶を含ませています。 きっと今までの杖よりも格段に魔法が使いやすいと思いますよ」
『まぁ!』とフュエ王女が宝物のようにメイスを目出ている。
⦅明日はそのメイスで魔物を殴るのだけどね……⦆
そして俺はそのメイスに合わせて、さらに『ガントレット』と『グリーヴ』を一つずつ選ぶ。
それから先ほどと同じようにマナを流し込み『ガントレット』と『グリーヴ』の力も起こしておく。
ほのかに光を帯びる『ガントレット』と『グリーヴ』にまたフュエ王女は見入っている。
「このミスリルの『ガントレット(籠手)』には水の精霊ウィルウィスプの力が宿っています。 木属性のメイスと水属性のガントレットはとても相性が良いです、合わせてお使いください」
「はい!」
「そしてこの『グリーヴ(足装備)』には風の精霊シルフの力が宿っています。 クレリック職は俊敏に動けなければなりません。 風の力が役に立つでしょう」
「はい!」
そしてさらに俺はフュエ王女に金属糸で編み込んだ『サークレット』とウンディーネの絵柄が彫り込まれた『カメオのネックレス』を手渡す。
「これは何でしょう?」
「サークレットは今着て頂いている体装備と同じ、八属性のオリハルコン糸を編んで作った私お手製の頭装備です。 ただの飾りの様にも見えますが…… 私が言うのもなんですがこのサークレットの防御力を打ち破る事はなかなか難しいと思います」
「まぁ!」
「そしてそのカメオのネックレスは…… カメオの中には『エリクサー』が入っています。 もし致命傷を負ったら直ぐにお飲みください、飲めなければ効果はございません」
「エリクサーって…… あのアマンダさんに飲ませた薬ですか?」
「いえ、あれはエリクサーではありません。 『薬』と『私の呪文』で初めて効果を発揮しますが、その薬は本物の『エリクサー』です。 それ単体で致命傷を回復いたします」
⦅ん? フュエ王女が少し残念そうな顔をしたような…… 気のせいか?⦆
フュエ王女に全ての装備を着てもらう。
『八属性の体装備』『八属性のサークレット』『木属性メイス』『水属性ガントレット』『風属性グリーヴ』『ウンディーネの指輪』『エリクサーのネックレス』
「あ、あのディケム様…… わ、私なんか過保護過ぎじゃないですか?」
「王女ですから致し方ありません!」
王女を前衛に出すなど聞いた事が無い。
しかも他国の王女を後衛に下がらせて、自国の王女を前衛に出すなど……
護衛として絶対にダメなやつだろう。
俺は全アイテムを装備したフュエ王女をあらためて見る。
最初、体装備は柔らかい清楚なイメージで作ったのだが……
今は袖口とスカートの裾から覗く金属製のガントレットとグリーヴで、一気に戦闘系の雰囲気に変わってしまった。
王女らしい可憐なヒーラーのイメージで服をデザインしたのに……
今の状況は少し不本意では有るのだが。
うん。 なんかこれも悪くない。