第六章43 ガーディアンゴーレム戦
俺はミスリルの盾を構える。
ちなみに今日の俺のミスリル装備(剣と盾)は『風』属性の物を持ってきた。
もちろんウチの軍装研究部隊『鍛造師レジーナ・シャレル』に作ってもらった物だ。
ソーテルヌ総隊が魔法武器の製造に成功したことは既に『人族五大国同盟会合』で公表済みだ。
しかしまだ軍事機密として一般には公開していない。
もちろんミスリル装備を作れることも秘密だ。
ゴーレムとは、土属性魔法で術者によって生み出された物。
土属性は水・雷属性に強く、風・木属性に弱い。
戦闘態勢に入った俺達を確認して、銅色のガーディアンゴーレムが動き出す。
座るように道を塞いでいたゴーレムがゆっくりと立ち上がり俺達を見下ろす。
(デカッ!!!)
「ちょっ――ディケムさん! ゴーレムでかい。 でかすぎるから!」
「こ、こんなのと本当に戦うんですか!?」
「勝てるのかコレ……?」
立ち上がったゴーレムは四メートル近く有るかもしれない。
初めてゴーレムを見たシャルマ、フローラ、ミゲルが泣き言を言う。
だがもう泣き言に付き合っている時間の余裕もない!
ガーディアンゴーレムの岩のような拳が振り上げられる。
そしてその重量のある拳が俺に振り下ろされる――ッ!
ゴガァアアアア―――――――――ンッ!!!
さすがゴーレム。 一切の躊躇無い全力の攻撃が飛んでくる!
ゴーレムはただの作り物だ、自分が傷つく恐怖も敵への警戒も無いから牽制など無い。
ゴガァ―――ンッ!!!
ドゴォ―――ンッ!!!
ズガァ―――ンッ!!!
『ヒィィ………』 『………』 『………』 『………』
ゴーレムの攻撃の迫力と、それを俺が受け止めている光景が少し刺激が強過ぎたようだ。
せっかくの攻撃のチャンスに皆が呆然と立ちつくしている。
俺は盾でゴーレムの全力の攻撃を全て受け止めている。
皆に種明かしは出来ないが……
正直、見た目は派手だが風属性を纏ったミスリルの盾が衝撃を殺してくれている。
ゴーレムと言えどCランク程度では属性有利を取ったウチの魔法装備の敵ではない。
さて……
皆には銅ゴーレムの攻撃を俺が受け止められる事を証明した。
そろそろ立ち直ってもらい反撃に出て貰わなければならない。
問題はどう攻撃するかだ。
ゴーレムは物理攻撃に圧倒的に強い。
普通は比較的通用する攻撃魔法で倒すのが常套手段だが……
戦士と回復魔法特化のうちには難しい。
だがゴーレムには決定的な弱点がある。
それは『核』だ。
ゴーレムは製作者によって『核』を中心として作られている。
その『核』を破壊すればゴーレムは崩壊する。
それを踏まえて銅ゴーレムを見てみると……
額に明らかに別の素材の球体が埋め込まれている。
マナを探ってみるとそこにだけマナが凝縮しているのが分かる。
そしてその球体から体全体に根を張ったようにマナが供給されている。
(あれが『核』で確定だ!)
「みんな、ゴーレムの額の『核』を狙え、それ以外の攻撃はほぼ意味が無い!」
「「「「了解」」」」
タンクの俺がゴーレムの攻撃を受け止め、その隙に皆で攻撃を仕掛ける。
直接『核』を狙いたいがゴーレムの体長は四メートル近い。
まずは足を攻撃してゴーレムの体制を崩したい。
「アメリー黒魔法と弓は使えるか?!」
「はい」
「お前は直接『核』を狙ってくれ! 当らなくても良い。ゴーレムの気を『核』の防御に向けさせ足元に隙を作りたい!」
「了解です!」
アメリーが魔法と弓をタイミングよく『核』に放つ!
ゴーレムが『核』を守るように両手を上げたところで、戦士職が片足に攻撃を集中させる。
ゴーレムの体制が崩れた所で『核』に集中攻撃を仕掛ける。
『ビシッ――!!!』
ゴーレムの『核』にひびが入る!
「よし皆もう少しだ! 勝ちパターンにハメた。この攻撃で押し切れ!!!」
「「「「はい!!!」」」」
よし良い感じだ、効率は悪いがゴーレムとの初戦はこんな感じだろう。
だが、全員がゴーレムとの戦闘に勝利を確信したとき……
皆の気が緩む。
あと一撃でゴーレムの『核』を破壊できる!
その一撃をリーラは勝ち急いだ。
ゴーレムが体勢を崩す前に、リーラが先に飛び出しゴーレムに飛び掛かるように攻撃を仕掛ける。
普通ならばそれでもゴーレムを仕留められたかもしれない。
しかしこの時リーラに運が無かった。
ゴーレムが苦し紛れに振り上げた腕がリーラを襲う。
『リーラ危ない!』シャルマの叫び声が響く――!
だがリーラはすでに飛び出し、ジャンプして空中で攻撃体勢に入ってしまっている。
もう自分では避ける事は不可能。
そして後ろに居る誰かが今から飛び出したところで、誰もリーラのリカバーに間に合う筈もない。
(チッ! しょうがない!)
どうにか出来るとすればタンクとしてゴーレムの目の前に立っている俺だけ……
俺は苦し紛れにゴーレムを蹴り飛ばす!
ドガァアアア――――――ンッ!!!
「へ………?」「………」「………」「………」
空中で、せめて相打ち狙いで攻撃を仕掛けていたリーラの剣が空を切る。
そして先ほどまでゴーレムが立っていた場所に着地し安堵のため息をつく。
「ありがとう……ディケム。 で、でも……あのぅ……ゴーレムを蹴ったの?」
「蹴ってない。 スタンの魔法だ!」
「え……? スタンってあんな感じでしたっけ?」
「スタンだ!!!」
「あ、はい………」
『おい…… 今の見たか? ゴーレム蹴って倒したぞ!』
『ウソだろ? そんな事出来るやついるか普通……… レクラン凄げーな!』
『スタンだ!!!』 野次馬もうるさい!
「なに呆けている。 ゴーレムはスタン中だ! 早く『核』にトドメを刺せ」
「「「は、はい――!」」」
仰向けに倒れて動かなくなったゴーレムに、戦士職のアマンダ、リーラ、ミゲルが殺到しトドメを刺した。
少し不本意だったが悲劇が起こるよりはまだマシだ。
微妙な空気が流れたが戦っていれば皆すぐに忘れるだろう。
『核』が砕け崩れたゴーレムの中から宝箱が出てくる。
その宝箱をアマンダが鑑定する。
「罠は無いようね。 それで…… 中身は情報通りクリスタルだわ。 でも属性付きのクリスタルみたい。 種類を『土』・『水』・『火』・『風』から選べって、どうする?」
「四大元素の属性クリスタルか。 杖の触媒として上級品だ。 できればこれから魔法学校に行くシャルマ、フローラ、フュエの三人に優先して渡したい」
他の皆も賛成してくれる。
どのみちこれから銅ゴーレムはたくさん狩るつもりだから。
分配は問題なくなるだろう。
最初は『土』属性のクリスタルを選択する。
すると……
『杖』用ではなく『スティック』用の小さなクリスタルが大きな宝箱にポツンと入っている。
「小っさ!」
「これは杖用じゃなくスティック用サイズだな…… まぁ学校の授業で作るのスティックだからちょうど良いんじゃないか」
シャルマ達は少しガッカリしているが……
アマンダ達ベテラン冒険者達は分かっている。
『属性付きクリスタル』の希少性、価値を。
この小さな『属性付きクリスタル』でも金貨三十枚はするだろう。
だが情報によれば、銅ゴーレムから極まれに杖用の大きな属性付きクリスタルが出る事が有るらしい。
それこそ鋼装備以上の幸運だ。