第六章41 新制レクラン始動
一気に五人のメンバーが加入して『クラン』に昇格したレクランだが……
その中心メンバーの冒険者ランクは未だにGランクのビギナークラスだ。
そしてこれだけ話題の『レクラン』も…… クラン(パーティー)ランクはGクラスだ。
レクランに入ったベテランメンバーの顔を見れば、『黒の牙』をはじめとする民衆の守り手と謳われている『四色の牙隊』と、同じパーティーランクCを狙えるのではないかと噂されている。
それほど冒険者界隈では『アマンダ』『リーラ』『アメリー(エメリー)』の三人が組んだことは衝撃的なニュースだった。
『レクラン』がどこまで駆け上れるのか冒険者達の噂は尽きないようだ。
だが正直俺は…… クラスとかどうでも良い。
そんな表面上の事よりもフュエ王女、フローラ王女、シャルマ大統領令嬢。
この三名をいかに守るのか、その事の方が頭が痛い。
「さて…… 今巷で噂の絶えない『レクラン』だが…… 中心メンバーがへぼ過ぎて笑えない」
「ちょっ……ディケムさん。 ヘボってなによ、ヘボってっ!」
「シャルマ。 一番怖いのは『レクラン』が有名になり過ぎて自分まで強くなった気になる事だ。 君たちの実力は疑いも無く冒険者ランクそのままのGランクだ」
「くっ…… は、反論できない」
「って事で、手っ取り早く装備を整えながら実績を積んでいこうと思う。 どちらかだけを重視すると苦行になりかねない。 両方できるのはやはり……『迷宮』だな」
「「「「ッ――迷宮!」」」」
冒険者と言えばダンジョンだ。
その響きに、名ばかりの建前だけは立派な冒険者に成りつつあるシャルマ達のモチベーションが爆上がりする。
「あぁ、ここシャンポール王国には国が管理しているダンジョンが幾つか有る。 一つは戦士学校が管理している『迷宮』だ。 昨年ララ・カノンがオリハルコンの弓を手に入れた事が有名だ」
「あのニュースは衝撃でした! 普通『オリハルコン装備』は国が管理するもの。 それを個人が所有すると言う…… まさにソーテルヌ公爵様の力を見せつけた出来事でした!」
⦅あうっ…… 俺の黒歴史だな⦆
⦅だけど、また見つけても同じ事しそうで怖い⦆
「ダンジョンは資源の宝庫のため国の財産になるが、いくつかのダンジョンが冒険者に解放されている。 なぜかと簡単に言えば人材育成の為だ。 ちなみにミゲル、ダンジョンには二種類あるのだが知っているか?」
「いや、分からぬ……」
「一つ目は天然の洞窟に強力な魔物が住み着いてダンジョンになった物だ。 そして二つ目はダンジョンマスターがダンジョンコアを使いダンジョンを作った物になる」
「ほぅ」 「へ~」 「なるほど」
「前者は魔物を狩りつくせばそれで終わりだから、効率のいい経験値稼ぎは出来ないが…… 強力な魔物が集めて来たお宝は希少なものが多いい。 アーティファクトが見つかるとすればこちらの方が確率は高い」
「アーティファクト装備! 冒険者として憧れるわよね~」
「そして後者のダンジョンマスターが居るダンジョンは、ダンジョンコアにより魔物も宝物も管理されている。 ダンジョンマスターのレベル以上の宝物は期待できないが、魔物も宝箱も定期的にリセットされ再ポップする! 俺達が挑むならこっちだ」
「おぉ! だけどダンジョンマスター以上のレベルの宝物が期待できないのは残念ね」
「安心しろ、ダンジョンマスターになれる存在など『S級以上の魔物』だと思って良い。 どこのダンジョンでもオリハルコン装備までは期待できるだろう」
「え、S級……?」 「オリハルコン装備!」
「今現在、人族の国でダンジョンコアを手に入れられた国はまだない。 各国は資源確保の為に軍隊すら送り込みダンジョン攻略を国の政略として推し進めているが成功した国はまだ無い」
⦅俺が戦士学校ダンジョンのコアを手に入れている事はまだ秘密だ⦆
「国の政略、軍隊とか使って挑んでもダメなんだ……」
「まぁそれは、ダンジョン攻略には軍隊の数の有利が向かない事が原因だけどな」
「少数精鋭の冒険者パーティーが適任って事ね!」
「そうだ」
「それで…… シャンポール王国周辺には今確認されているダンジョンは五つある」
「五つも有るの!!!」
「だがそのうち二つは難しい」
「と言うのは?」
「一つはさっきも言った戦士学校が管理するダンジョンになる。これは学生以外には解放していない」
「なるほど、なら私は今年から戦士学校で挑戦できるのだな?」
「あぁそう言う事だ」
「もう一つは、さっきも話した魔物が住み着いてダンジョン化した洞窟だ。 シャンポール王国の北西ロワール平原の北に『竜の狩場』という場所がある。 そこは『シューティングスター』と人々に恐れられる竜が住み着いて餌場としている場所だ。 その竜の寝床としている洞窟がダンジョンだ」
「竜の狩場はダメでしょ! シャンポール国民なら誰も近づかないわ!」
「シュ……シューティングスターは有名よね。 むかし王国騎士団が挑んで壊滅した話は子供の頃誰でも親から聞かされる話よ」
「りゅ、竜は無理!」
「あぁ、多分だがあそこの竜は『月竜』だと思う。 暗黒竜ファフニールと並ぶエンシェントドラゴンだ」
「エ、エンシェントドラゴン!」
「それ知ってたら騎士団も挑まなかっただろうに……」
「まぁそんな理由で二つのダンジョンは除外だ。 残るは三つ! 王都西のロワール平原の【ロワールダンジョン】、東のランス平原にある【ランスダンジョン】、そして南にあるモントリュー湿原にある【モントリューダンジョン】だ!」
「ディケムさんはどれにするか決めてるんでしょ?」
「あぁ。 アマンダ達とも話し合ったが『モントリューダンジョン』が近くて便利、初心者にはちょうど良いだろう」
「初心者向けって所が気に食わないけど…… まぁGランクだから仕方ないか」
「初心者向けと言ってもプロの熟練冒険者から見たならばの話だ。 それに上層エリアが比較的楽なだけで深層エリアにはまだ誰も到達できていない。 上層が楽でも下層、深層は難易度高かった…… なんて話はよく聞く話だ」
「おぉ~! なんかだんだん気分が乗って来た!」
「ウンウン! 冒険者っぽくなってきたね!」
『冒険者っぽく』って言葉に……
アマンダの顔が引きつっている。
「取り合えずみんな! ここで実力をつけて装備を整えるんだ。 見せかけの冒険者ランクやパーティー(クラン)ランクなんかどうでも良い。 そんな物上がった所で強さなんか変わらないのだから。 真に強い冒険者に育ってくれ!」
「「「はい!!!」」」
見せかけの冒険ランクと聞いて、リーラが少し泣きそうな顔をしている……
冒険者ランクは冒険者の地位であり強さの証明、心の拠り所でもある。
それを否定する事は冒険者にとっては酷な事だろう。
だがそれはある程度強くなってからで良い。
冒険者ランクだけ高くて、その中身が伴っていない冒険者が一番危ないからだ。
特に『レクラン』のメンバーは名前だけ独り歩きした分非常に危うい。
俺はリスキー(上級)クラスと呼ばれるCクラス冒険者のアマンダやリーラですら、まだまだ足りないと思っている。
俺がほっといても良い位の強さに皆なってもらわなければ困るのだ。
せっかく縁を結んだクランチームなのだから誰一人欠けてほしくない。
いつまでも一緒に行動出来るとは限らないのだから。