第六章35 その場所に立つ資格
『お披露目の儀』が終わると、舞踏会場はいつもと同じ流れに戻る。
『お披露目』の子達も、仮のエスコート役も舞踏会場)に散っていき、この後のダンスパートナーを求めて社交に励む。
俺の隣にはそのままフュエ王女が残り、今回の来賓客や貴族達が挨拶に殺到する。
大人との社交が終われば、俺達も皆と同じ子供同士の社交となる。
俺とフュエ王女の前に、モンラッシェ共和国のシャルマ嬢とロマネ帝国のフローラ王女が居る。
「シャルマ嬢、フローラ王女、ごきげんよう」
「「フュエ王女、ソーテルヌ公爵、ごきげんよう」」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「まぁ、これはどう言う事だと聞きたいが…… お互い様だな」
「ですわね」
「ええ」
「もちろんレクランの仲間には秘密にしておくのだろう?」
「もちろん」
「はい」
「最初から知っていて接触してきたのか?」
「まさか、本当に偶然よ。 私は今日知ったくらいだから」
「私はロートの時に確信したわ」
「そうか……」
「でもこんな偶然無いじゃない。 運命を感じるわ」
「私も、勅命でここに来たけれど、戦歴だけで想像してゴリラのような人かと思っていたわ。 ディケムさんでホント良かった」
「ゴ、ゴリラって……」
「それで…… やっぱりここに来た理由は同じか?」
「たぶん」
「同じでしょうね」
フュエ王女が身構える。
俺達が腹の探り合いをしていると……
『ソーテルヌ卿、久しいな』とマルサネ王国のシャントレーヴ王女が挨拶しに来る。
「ソーテルヌ卿、私の妹『アンナータ』だ。 今年魔法学校に入学する、よくしてやってくれ!」
すると今度はジョルジュ王国のルーミエ王子が挨拶に訪れる。
「ソーテルヌ卿、今年魔法学校に入学する私の妹『クルーラ』だ。 よろしく頼む!」
⦅これは………⦆
俺の前に、フュエ王女、シャルマ嬢、フローラ王女、アンナータ王女、クルーラ王女…… そして異変を察知したララも集まってくる。
⦅あぁ…… ダメなやつだ⦆
するとシャントレーヴ王女が横から俺に笑いながら囁く。
『ソーテルヌ卿、そなたも大変だな。 いっそ私がそなたを貰ってやろうか?』
俺の苦い顔を見て、シャントレーヴ王女は満足げに高笑いして去っていく。
いっそ、清々しくて俺の中のシャントレーヴ王女の株が爆上りした。
さすがにこの面子を前にララは黙って見ている事しか出来ない。
王女達は自分を娶る事で得られるメリットを口々にプレゼンしてくるが……
辛うじてフュエ王女が牽制して王女達の暴走を食い止めてくれている。
だが、このままでは収拾がつかない……
すると、会場の空気が一変する。
それまでざわついていた舞踏会場が静寂に支配される。
そしてドレスを着たラトゥールが舞踏会場に入場してくる。
いつもながらラトゥールには感嘆させられる。
どこの王族も貴族もラトゥールのその美しさと圧倒的な存在力に気後れしている。
それまで騒いでいたフュエ王女もシャルマ嬢もフローラ王女も他の王女達も感嘆しただ立ち尽くしている。
ラトゥールが一番に俺の元に来て、片膝をつき傅き挨拶をする。
いつもながらのラトゥール将軍の俺への絶対的忠義に皆息を呑む。
そしてラトゥールは立ち上がり、フュエ王女に向く。
「フュエ王女、私は別にそなたがディケム様を好いている事にどうこう言うつもりはない。だが…… その場所、ディケム様の隣に立つ事の意味は分かっているのか? 私達の主人の隣に立つ事の意味を?」
フュエ王女は勿論、その場にいる他の王女達、王子達も息を呑む。
「その場所は憧れや羨望だけで立っていい場所ではない。 それなりの覚悟、そしてディケム様の力になれる事を証明した者だけが立てるのだ。 ララをはじめ私に認められたいと想うなら、それなりのものを見せてみろ。 生まれの運で手に入れたそんな見せかけの力ではなく、お前が自分で手に入れた力を! 今のお前ではディケム様に釣り合わない」
⦅ちょっとラトゥールさん? 前にフュエ王女との婚姻推進派でしたよね?⦆
ラトゥールの王女に対しての物言いに誰も言葉を発する事が出来ない。
ラトゥールの辛辣で包み隠さない言葉に誰も反論する事が出来ない。
この場に居合わせたミュジニ王子ですら何も言えない。
それほど魔神族五将ラトゥールの力は絶大だ。
「ラトゥール…… 言い過ぎだ。 就学前のフュエ王女にそれは――……」
「いえディケム様、ラトゥール様の言葉は当たり前のこと! 私も努力無しに認められるとは思っていません」
お? フュエ王女の言葉に、他の王女達もみなラトゥールに向き直っている?!
「ラトゥール様! 私も、いえここに居る各国の姫君は皆、それ相応の覚悟でここに居ます。 此度のジョルジュ王国、モンラッシェ共和国の事変を見ても人族の国の脆弱さが分かります。 全ての国が生き残りを賭けて真剣に臨んでいるのです。 ディケム様の一番の臣、そして一番の妻たるあなた様に認められるよう励みます」
⦅ん? 一番の妻?⦆
⦅妻と言われてラトゥールが少し喜んでいるように見える……⦆
「フン、良かろう。 その言葉、口先だけでない事を証明してみせろ! 見届けてやる」
ラトゥールのあの強い言いようは、これから茨の道へ進むフュエ王女への激励だったのかもしれないが……
だが…… ラトゥールという強大な相手を前に、各国の姫たちが団結している。
これで本当に良いのか?