第一章31 閑話:ラトゥール将軍
ラトゥール将軍の目線になります。
人族軍と魔族軍の開戦一ヵ月前
魔神族を統治する帝国、その頂点に君臨するのが【ボー・カステル皇帝】
ウェーブのかかった腰まで届く銀髪が、皇帝に相応しく豪奢に見せる。
身長は高く、細身ながらも引き締まった体、肌の色は黒に近い褐色で、目は切れ長。
その鍛え抜かれた身体と思慮深い眼光が、凡人ならざる王であることを覗わせる。
そしてその圧倒的なマナ量が、見ただけで他の者を畏怖させた。
魔神帝国はカステル皇帝を頂点に、五将と呼ばれる五人の将軍が支配している。
筆頭:(故)ラフィット将軍、 次席:マルゴー将軍
ラトゥール女将軍、 オーブリオン将軍、 ムートン女将軍
筆頭のラフィット将軍が十年前の戦争で命を落とし、筆頭空席のまま代役の次席マルゴー将軍が五将をまとめている。
五将の一人、ラトゥール将軍はラフィット将軍の許嫁であった。
腰まで届く銀髪は豪奢で、その美貌を引き立てる。
身長は女性にしてはやや高く、細身で引き締まった体、肌は色白で、目は切れ長。
その気の強さが容姿にも表れている。
魔神軍の中でも実力主義の、自分にも他人にも厳しい将軍だ。
ラフィット将軍が戦死して一〇年、カステル皇帝は一切の軍事的行動を取りやめた。
次席のマルゴー将軍の再三の進言にも耳を貸さず…… ダラダラと過ごしていた。
「ボー・カステル皇帝―――!!」
静寂で荘厳華麗な玉座の間に、ラトゥール将軍の張りのある声が響き渡る。
「ラトゥール、お前ら五将は俺の友人だ、いつもカステルでよいと言っておろう」
「では―― カステル様! アルザス渓谷の戦いをご存じですか?」
「う~む……… 興味ないが…… たしか人族と魔族の戦いだったか?」
「そうです! 二年前アルザス渓谷にて、魔族デーモンスライムのカヴァ将軍に人族王国軍が大敗退した戦いです」
「フンッ…… デーモンスライムごときに大敗退とは、人族は脆弱だな」
「はい、その大敗退した人族の将軍がラス・カーズ将軍です」
「――なに! 我々のラフィットを打ち取った彼奴か!! なぜそんな奴がデーモンスライム如きに後れを取る!」
「――お言葉ですがカステル様! ご存じの通りラフィット様はラス・カーズ将軍に打ち取られたのではありません! 身内の裏切りで倒れたのです。 とどめを刺したのが人族だっただけです!」
「そうだな…… なぜ誇りを尊ぶ魔神族たる者が、裏切りなど……」
カステル皇帝は憔悴しきった様子で呟く……
「ラトゥール、俺はお前たち五人と楽しくやれていれば、それだけで良かったのだ…… お前ら五人と一緒に戦い領土拡大するのが楽しかっただけだ。 本当は戦いではなくても六人で楽しいことが出来れば、なんでも良かったのだ……」
ラフィット将軍を失ってからのカステル皇帝は、まるで恋人でも失ったかのように気を落としている。
「種族の危機でなければ、戦争などどうでも良い…… なぜ、ラフィットは逝ってしまったのだ……」
「はい…… 私も愛するラフィット様を陥れる罠を、なぜ事前に防げなかったのか…… 今も悔やみきれません!」
「そうだな…… 婚約者であったお前の方が、俺よりも苦しいだろう…… 裏切者は分かっているが、魔神族は誇りの種族でもある。 裏切りなど誇りにかけて有ってはならぬ、認めてはならぬのだ! 何もできない不甲斐ない俺を許してくれ」
「はい……」
カステル皇帝の、裏切者へ湧きあがった苛烈な怒りが、一気に引いていく……
「もうどうでも良い…… ラフィットを失った今、戦争も何もかも……」
「……ですがカステル様、カステル様はマナをよく感じていらっしゃいますよね?」
「あぁ…… それがどうした?」
「伝承では、死んだ魂はマナに帰り、新しく生まれ変わる。 そして神の決まり事で、倒された種族に生まれ変わるとか……」
「なんだと? ラトゥールおまえ…… ラフィットが死んで十年、こたびのアルザスの戦いに、ラフィットの生まれ変わりが出てくると言うのか?」
「わかりません、しかしラフィット様程の方ならば、十歳で戦場と言うのも有るのではないかと」
今まで覇気の無かったカステル皇帝が見る見る楽し気に変わっていく!
「ラトゥール! 仮にもしラフィットの生まれ変わりが見つかったとして、お前はどうするのだ? 人族と魔神族だぞ?」
カステル皇帝は少し嫌らしい笑みでラトゥールに問いかける。
「カステル様はラフィット様が魔神だったから友になったのですか?」
「いや、マナを感じていればよくわかるが、種族など関係ないのだ。 私も前世は他種族だったのかもしれん。 要はマナの在り方だけなのだ」
「はい―― 私は今もラフィット様をお慕い申しております。 それがもし人族だったとしても!!」
「お前は強いなラトゥールよ。 ラフィットを失い、ずっと塞ぎ込んでいる俺とは違い、お前はずっとアイツを探していたのだな………」
ラトゥールは黙って頷く。
「ラトゥールよ、このラフィットの愛刀【鬼丸国綱】を持っていけ。 そして必ずラフィットを探し出し、その剣を渡してくれ」
「カステル様、その剣はラフィット様の愛用の刀ですが……、魔神族国宝の一つです。 私は、もし人族に生まれ変わったラフィット様を見つけたら、魔神族を捨て、人族に行くかもしれません。 ラフィット様は私の全てですから! ですからこの刀は………」
「構わぬ! 先ほども言ったが、俺は国とか戦争とか種族とかどうでも良いのだ! お前ら五人と楽しく居られればそれでいい。 たとえ皆の種族が変わっても…… 皆、俺と友で有ってくれるだろう?」
「当り前です! 我らは例え生まれ変わって、国も、種族も、歳も違えども、いつまでもカステル様の友人です、ラフィット様もそうでしょう」
「礼を言うぞラトゥール! その刀をラフィットを探し出し渡してくれ。 その刀もあれから一切主を決めぬ…… またラフィットに使われる日を待っているのだろう」
「カステル様、ありがとうございます。 必ずやラフィット様を探し出して見せます!!」
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