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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章34 デビュタント(お披露目の儀)

 

 舞踏会場(ボールルーム)の扉が開き、大勢の貴族が見守る中、俺はフュエ王女をエスコートして入場する。


 舞踏会場(ボールルーム)には、自分の派閥に取り込むために、『お披露目』の子供達を品定めしている貴族達。

 自分の子供が上手く踊れるのか、派閥の上位者に気に入ってもらえるのか心配で気が気でない親たち。

 さまざまな貴族達が各々の思惑や利害を持ってこの『お披露目の儀』を見ている。


 万雷の拍手に迎えられ、フュエ王女を先頭に今年『お披露目』の子供たちがずらりと舞踏会場(ボールルーム)に並ぶ。

 女子は純白のイブニングドレス、男子は黒の燕尾服。

 エスコート役の男は黒のタキシード、女は黒のイブニングドレス。


 舞踏会で純白のイブニングドレスを着られるのは主役だけ。

 そう『お披露目の儀』の主役は女性達なのだ。

 『お披露目』される女性はみな、主役の証となる純白のドレスを着る事を許され、『デビュタント』と呼ばれる。



 この舞踏会場(ボールルーム)に、普段は一人しかいない純白のイブニングドレスを着た女性が、今日だけはずらりと立ち並ぶ、その光景は圧巻だ。

 この『お披露目(デビュタント)の儀』だけに見られる年に一度の特別な情景となる。



 一同に立ち並ぶ『お披露目』の子供達にシャンポール陛下より祝辞の言葉が送られる。

 次に宰相・大臣と年配の重鎮達からも祝辞をもらい。

 今後の社交の重要性を説明され、積極的に参加していくよう言い添えられた。


 ⦅マール宰相は俺に説明しているようだったな……⦆




 そして会場に『円舞曲(ワルツ)』の音楽が流れ、『お披露目』の子供たちが一斉に踊り出す。

 俺はフュエ王女をエスコートして踊る。


 『マナの本流』から前世のダンスの記憶と経験を引き出した俺は、人族の誰よりも上手く踊れる自信がある。

 魔神族の寿命は人族の数十倍。

 その長い年月、俺は魔神族の将軍としてそれなりの社交をこなしてきたからだ。

 踊って来た年季が違う。


 だが今は『お披露目の儀』、エスコート役が目立って良い場ではない。

 主役は『お披露目(デビュタント)』の彼女たちだ。

 そして子供たちが会場の貴族達に自分をアピールする場。

 俺はぐっとこらえて、フュエ王女を引き立たせるようエスコートに専念する。


 フュエ王女は円舞曲(ワルツ)に合わせて、おぼつかないステップで一生懸命俺に合わせようと踊っている。

 いや、フュエ王女だけじゃない、今日お披露目の子ども達は皆、足取りは覚束ない。


 今回の『お披露目の儀』が外国の要人、王族まで来賓する大きな舞台となった事は、親にとってはこれ以上ない最高の子供のセレモニーとなったようだが、当の子供達にとっては、必ずしも良かったとは言え無いようだ。

 失敗してはいけないと思えば思うほど、子供達の緊張感は次々伝染し、それが悪い方へ傾いて行く。


 親たちも皆、『まぁこの、そうそうたる来賓の中で踊るのだ、緊張するのも無理もない、次第に慣れて調子も上がってくるだろう』と最初はその初々しさに微笑ましく見ていたが……

 一向に子供たちの調子が上がってこない。


 俺も、いつものフュエ王女らしからぬ不出来な様子に眉を顰める。

 仮にも王女、社交に関わるダンスがこの程度な訳がない。


 ⦅おいおい、みんなこんなものじゃないだろう?⦆

 ⦅今日の日のために一生懸命練習してきたのだろう?⦆


 俺はフュエ王女をあらためて見てみると……

 いまだに緊張でガチガチのまま、おぼつかないステップで一生懸命俺に合わせようと踊っている。

 間違えないように足に力が入ってしまいダンス自体が縮こまり、バランスもバラバラだ。


 『フュエ殿下、もっと力を抜いて、足なんかリズムに合わせて適当に動かせばいいのです』

 『あ、あのっ…… でもっ、ごめんなさい…… あっ――……』


 俺のアドバイスに、さらに余裕がなくなったフュエ王女はいっそうテンパって萎縮して行く。


 ⦅ん? もしかしてフュエ王女は一生懸命俺に合わせようと踊っているのか?⦆

 ⦅フュエ王女の緊張はもしかして…… 来賓客じゃなくて俺か?⦆


 改めて他の子供達も見てみると……

 みな俺をチラチラ見て、一生懸命俺に合わせようとしている事が窺える。


 ⦅これは…… みな俺に良いところを見せようと意識し過ぎてるのか?⦆

 ⦅フュエ王女の派閥作りの弊害……⦆



 彼らの悲劇は『俺が一緒の舞台で踊っている事』か……

 ならば致し方ない。


 ⦅ ≪―――πτήση(フライ)(飛行)―――≫ ⦆


 俺はシルフィードの風魔法『飛行(フライ)』を軽くフュエ王女の足にかける。

 もちろん飛ぶほどの魔法じゃない、少しだけ軽くしただけだ。


 『えっ!?』 急に軽くなった足にフュエ王女が驚く。


「あ、あのっ…… ディケム様!?」


 俺は軽くフュエ王女に目配せをする。


 フュエ王女は『もぉ……』と少し頬を膨らませた後、自分以外の子供達も軽やかに踊り出した事に気づく。

『あはっ! ディケム様!』と今度は満面の笑みで俺を見る。


 俺も軽い笑顔で答える。


 あれ程ぎこちなかった子供達のステップは軽やかになり、ダンスは伸びやかに格段と美しくなる。

 一度きっかけを掴めば、後は簡単だ、みな今日の為に必死に練習してきたのだから。

 そして先ほどまでの負の伝染は、一転して今度は子供達の自信と喜びに変わり一気に伝染し、ボールルーム全体に広がって行く!


 そのあまりの変わり様に、会場の来賓も驚いていたが、とうの本人達が一番驚いている。


 人の感動とは感情の抑揚、ギャップにより巻き起こる。

 もし初めからこれ程のダンスを見せられていたとしたら、誰もこれ程に感動を覚える事は無かっただろう。

 子供たちの感情が絶望から希望に変わった瞬間、来賓の心も動かされる。

 それはまさに初めからこの結末が決められていた完成された演劇のようだ。

 人々の感情と気持も誘導され高ぶっていく。


 そして――

 『円舞曲(ワルツ)』の曲が終わりを告げる時!

 舞踏会場(ボールルーム)には万雷の拍手と賞賛の声援が子供達に向けられていた。


 『円舞曲(ワルツ)』を踊り終えた子供たちが、自信に満ちた笑顔で、胸を張って貴族達の声援にこたえている。

 その様を見ているフュエ王女の笑顔も輝いている。



 俺がそんなフュエ王女の笑顔を眺めていると……

「ねぇディケム様、なんの魔法を使われたのですか? 踊りが上手くなる魔法なんて有るのですか?」


「はは、そんな便利な魔法無いですよ。 皆が緊張で固かったので、少しだけ足が軽やかになるおまじないを掛け、きっかけを与えただけです。 本当は皆、これくらいは踊れるのです。 自信を持てば良いだけなのですよ」


 『まぁ』とフュエ王女が驚いている。


「ディケム様は本当に皆を勝ちに導くのがお上手ですね。 ファイア・ウルフの時もそう、ほんの少し皆の背中を押すだけで、後は波紋のように波は大きくなり皆を勝ちに導いて下さる」


「買いかぶり過ぎですよ殿下。 このダンスも皆の努力の結果です、私は少しだけ背中を押しただけですよ」



 万雷の拍手の中、子供たちは一斉に賓客にお辞儀をし『お披露目の儀』を大成功で締めくくった。




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