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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章33 貴族の社交

 

 シャンポール城の中心にある、一際大きく豪華な舞踏会場ボールルーム

 その大きな舞踏会場が狭く感じる程の大勢の貴族達が集まっている。


 これほど多くの貴族が集まっているのは、今日がララ達の『叙爵・陞爵式典』の為だけに開かれる舞踏会ではないからだ。

 外国の王子・王女・上級貴族が多く来場する事になったこの舞踏会で、フュエ王女を初めシャンポール王国の今年十二歳を迎えた子供たちのお披露目を兼ねる事になったからだ。



 『お披露目』とは、通常の貴族は十二歳で初めて社交の場に出る事を許され、お披露目の儀で他の貴族達に紹介される。

 貴族界での社交の始まりだ。



 その後、数々の社交をこなし、社交で気の合う相手、婚約者候補を見つける。

 この社交で側近候補や自分が仕える相手、取り入る派閥も見つける。

 そして十三~十四歳で婚約、十五~十六歳で最初の婚姻をするのが通例だ。

 少し早い気もするが、十六歳になれば、戦場(死地)に赴かなければならないこのクソったれな世界では、子孫を残す事、家督を存続させる事が最優先とされるからだ。




 フュエ王女をエスコートして、これから舞踏会場で『お披露目』される子供たちが集まる大きな控え室に入る。


 『お披露目の儀』で女性をエスコートする相手は、女性にとって特別な男性と決まっている。

 すでに婚約者が決まっていれば、婚約者がエスコートするのが通例だ。


 だが実際、『お披露目の儀』で正式な相手(婚約者)がすでに決まっている事は稀だ。

 普通は形だけのエスコート。

 エスコート役は年配の知人が務める事がほとんどだ。

 その為、控室には多くの子供たちが居るのは当たり前だが、それと同じくらいのエスコート役の大人が居る。


 俺とフュエ王女が入室すると、上級貴族が一斉に俺達の元に挨拶に来る。

 お披露目前のフュエ王女を知る貴族は少ない。

 式典では遠目で見ることは出来るが、『お披露目』前のフュエ王女に同国の貴族が間近で挨拶を許される事は少ない。

 だが、今日のお披露目の儀にフュエ王女が参加する事は周知の事実。

 そしてエスコート役の俺が居れば……

 『隣に居る女性が誰なのか?』を察する事は難しくない。

 貴族たちは一早く王女に挨拶をしたくて集まってくる。


 俺とフュエ王女の前に、挨拶待ちの列がずらりと並ぶ。

 お披露目前の緊張している子供達に何をやらせているんだ?

 と思いもしたが…… 貴族達には通例の常識のようだ。

 フュエ王女も事前に教えられていたようで、危なげなく対応している。


 挨拶は上級貴族から始まり、最後は有数な中級貴族となる。

 有数な中級貴族と言ったのは、王族が関わる式典・舞踏会には警備上の意味で人数制限がかかるからだ。

 特に今回のお披露目には他国の王族までが来賓している、警備が厳重になるのは言うまでもない。

 中級貴族は上から『子爵位』『男爵位』となるが、今回の舞踏会には半数以上の男爵位が参加できなかったらしい。

 残念ながらレクランのミゲルは参加できなかったようだ。


 もちろん貴族にとって『お披露目』は大切な行事。

 下級貴族には自分が仕える相手、取り入る派閥を見つけるはじめの一歩。

 上級貴族には自分の側近や派閥に取り込む貴族を見つける場。

 後日改めて、貴族だけで執り行われる事になっている。




 一人一人子供たちがフュエ王女に挨拶していく。

 いかに自分が有能かをフュエ王女にプレゼンしていく。

 プレゼンの足りない所をエスコート役の大人たちがさらに補足していく。


 だが……

 何故かプレゼンの内容が『いかに俺の役に立つのか?』

 とフュエ王女に説明している。


 ⦅なんのプレゼンなんだ? フュエ王女のお披露目じゃないのか?⦆


 だが、それも普通の事らしい。

 俺がエスコートしている時点でフュエ王女は俺の婚約者と認定されている。

 妻の社交手腕は『夫の力にいかになれるのか?』と言う事だ。

 それが派閥の拡大、貴族位の維持に繋がるからだ。


 社交界では俺が軍寄りの思考で、社交が苦手という事が知られている。

 社交は女性が中心で、どちらかと言うと男性は軍寄りと言う事もあるだろう。

 フュエ王女の真価は、

 『俺の苦手な社交をいかに補えるのか!』

 『俺の派閥を作り、いかに俺の後押しを出来るのか!』

 と言う事になるらしい。


 ⦅うん、貴族ヤバい…… 正直、貴族ってアホだと思ってました⦆

 ⦅この年でただ野山を駆けまわっていた俺の方がアホでした⦆


 フュエ王女は今後、俺の派閥を作り王兄殿下(ミュジニ王子)の派閥と争っていかなければならない。


 ミュジニ王子は、俺を王族に取り込まなければならず、取り込んだら今度は派閥で争わなければならない。

 矛盾しているようだが、もし愚かな王が立ったとしても、派閥が監視し合い、国を支えていく重要なシステムなのだ。



 今回の式典で、俺は強引にフュエ王女の婚約者的な立場で貴族達に印象付けられたが、それも必要な事だったようだ。

 派閥作りは学生時代にその基盤が出来上がる事が多いい。

 学生とは公の場ではあり得ない、学生同士の密な関係を築く事が出来るからだ。

 往々にして、王族の側近は学生時代から仕える者が多いい。

 卒業してしまえば、おいそれと王族に近づける機会は無いのだから。

 その為、学生時代は下級貴族、平民にも人生で一番チャンスがある時期ともいえる。


 今年から魔法学校に入学するフュエ王女は、学生時代に俺の派閥を作る為には、今日の式典で、皆にその事を示さなければならなかったと言う事だ。



 そう考えると……

 フュエ王女のお披露目なのに、『俺の派閥に入ってね』ってここに居るようで恥ずかしくなってきた。



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