第六章32 叙爵・陞爵式典3
来賓の入場が全て終わり、やっと『叙爵・陞爵式典』が始まる。
始まる前からかなり疲れてしまったが……
ここからは気持ちを切り替えて三人を純粋に祝福したい。
マール宰相の式典開会の合図で、会場にファンファーレが鳴り響く。
そしてララ・カノン女准男爵、ギーズ・フィジャック騎士爵、ディックの名が呼ばれ、三人同時に入場し、シャンポール陛下の前に進み出る。
その後マール宰相より、三人の功績が読み上げられる。
ソーテルヌ総隊麾下近衛隊ララ・カノン女准男爵。
マルサネ王国にてアダテ領救済、神獣九尾様確保。
そしてモンラッシェ共和国にてヘルズ・ゲートの討滅。
ソーテルヌ総隊麾下近衛隊ギーズ・フィジャック騎士爵。
ジョルジュ王国にて蒼竜様確保、ヘルズ・ゲートの討滅。
そしてモンラッシェ共和国にてヘルズ・ゲートの討滅。
ソーテルヌ総隊麾下近衛隊ディック殿。
モンラッシェ共和にて国の救済、同盟締結に尽力、火竜様確保、竜騎士隊設立に尽力。
モンラッシェ共和国にてヘルズ・ゲートの討滅。
マール宰相が三人の功績を読み上げた後、シャンポール国王が三人に一人ずつ褒賞を与える。
「ララ・カノン女准男爵、よくやってくれた。 其方の功績をたたえ、ララ・カノン女准男爵を『世襲貴族』とし、『女男爵位』に陞爵(功績により爵位が向上すること)とする!」
ララがシャンポール陛下に傅き、恭順の意を示す。
会場の貴族たちは、盛大な拍手をララに送った。
ララがとうとう『世襲貴族』(子に貴族位を世襲できる)を与えられ、中級貴族位の女男爵位となった。
そしてその後ギーズもララに続き『世襲貴族』とし、『男爵位』に陞爵した。
ギーズは『準男爵位』を飛ばし二階級特進となった。
最後に陛下がディックに言葉を下さる。
「ディックよ! 其方はカノン卿、フィジャック卿と並び、ソーテルヌ総隊の近衛隊に相応しい働きを見せてくれた。 モンラッシェ共和国の救済、そして同盟への加盟は其の方がいなければ成し得なかったと聞いている。 また竜騎士隊の設立にも尽力したと聞いた。 さらには我らシャンポール王国の守護竜ファフニール様にも匹敵する火竜アジ・ダハーカ様をお連れした事にはもう言葉も無い。 その功績をたたえ、『世襲貴族』とし『男爵位』を与える。 今後貴族として『ディック・ベレール』と名乗るがよい!」
ディックが叙爵(爵位を授けられること)された。
世襲貴族の男爵位、ララ、ギーズと同格の貴族位だ。
マール宰相の気遣いで、三人をみな同じ爵位にしてくれたらしい。
三人の『叙爵・陞爵』が終わり、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
俺はこの会場二階に特別に作られた、家族用観覧席を見る。
俺が自らバイトし、今回の式典の為に作った観覧席だ。
ララ、ギーズ、ディックの家族が泣いているのが見える。
子供たちの成長した姿に感動してくれたようだ。
謁見の間での陞爵・叙爵の儀が無事終わり、休憩を挟んだ後、夕刻より王城のボールルームで舞踏会が開催される。
俺達は舞踏会用の衣装に着替える為、また家族が待っている控え室に戻る。
「ララ、ギーズ、ディックおめでとう!!!」
控え室に戻ると、改めて家族からお祝いの言葉が送られる。
三人共、謁見の間よりもこの控え室で家族から祝われる方が嬉しそうだ。
そして俺からも三人に言葉を贈る。
「ララ、ギーズ、ディック、おめでとう。 これで皆、中級貴族だ。そして男爵位からは貴族街に屋敷が貰える。 皆が王都に来た時掲げた目標、家族を王都に呼ぶ事が出来るぞ!」
「ディケム…… 覚えててくれたんだ」
「あぁララ。 だからお前たちの家族を呼んだんだ」
そう、この三人の夢、王都に初めて出てきたときに掲げた目標は、貴族になり自分達の屋敷を手に入れ、家族を王都に呼ぶ事だった。
「あの…… だけど、今まで通りディケムの屋敷に一緒に住むのはダメなの?」
「お前たちの部屋はそのまま使ってくれていいぞ。 ウチは部屋いっぱいあるし、お前達は総隊の近衛隊だ、訓練には来てもらわなければならないしな。 自分達の屋敷で家族と一緒に住んで、訓練に通ってくれても良い。 家族を屋敷に住んでもらい、お前らは今まで通りウチに住んでも良い。 自分達が手に入れた権利だ、自由に使うといい」
「うん」「うん」「あぁ」
三人は家族と話し合い、結局三人共今まで通りウチに住む事にしたらしい。
ちなみにララの妹ルルも、仕事があるから今まで通りウチに住みたいと言う。
そして三人の家族は、王都にも住みたいらしいが……
しばらくはサンソー村で今まで通りの生活を続けるそうだ。
ウチの家族のように、身の危険、周りに迷惑をかける心配が出てきたら、王都に移りたいと言う。
⦅やっぱりみんな、サンソー村が好きなんだなぁ⦆
だが…… 皆には申し訳ないが、ララ、ギーズ、ディックの名はかなり有名になっている。
近い将来、家族を王都に呼ばなければいけなくなるだろう。
三人の家族から今日招待した事を感謝され、『子供達の晴れ姿を見られて本当に嬉しかった』と皆、満足げに帰っていった。
そしてこれから舞踏会だ。
俺はフュエ王女、シャルマ嬢、フローラ王女の事を考え、頭を抱えた。
ララは俺のあの立ち位置を見ても、何も分かっていないようだ。
ややこしくなるからあえて説明はしないが……
やはり舞踏会とは恐ろしい場所。
様々な国や貴族の思惑が入り組んだ知略と策略の大人の戦場だ!
すると、控室のドアがノックされる。
そして先ほどの式典でフュエ王女と俺を呼びに来た進行係が入ってくる。
「ソーテルヌ公爵様。 フュエ王女の支度が整いました。 どうぞお越しください」
「は?」
「…………。 フュエ王女の支度が整いました。 どうぞお越しください」
⦅…………。 やはりそうなるのか⦆
今回の舞踏会はフュエ王女のお披露目の場でもあるのだろう。
お披露目の時に誰にエスコートされるのかは、女性にとって大きな事らしい。
決まった相手が居ない場合は宰相や大臣、上級貴族など出来るだけ格の高い知り合いにお願いするのが仕来りとなっている。
しかし相手が若いとパートナーと見られるため、エスコートを依頼する場合は年配者に依頼するらしい。
俺はララをチラッと見る……
「なによ…… 待たされる女性は不安になるものよ、早く行きなさいよ」
「良いのか?」
「良くないけど仕方ないでしょ? この状況で断れないことも分かるし…… 私も初めての舞踏会は心細かったけどディケムがエスコートしてくれたから安心できたの。 きっとフュエ王女は今、ディケムが来てくれるのか心配で震えているわ」
ララに『早く行けぇ~~!』と背中を押され、ドアの外に追いやられる。
ディックとギーズを見ると、『仕方ない』『偉くなるのも大変だな』と少し呆れた表情で見送られる。
進行係に連れられて、フュエ王女の控え室に到着する。
控室前で進行係がノックをし、フュエ王女に俺が到着した事を伝える。
「フュエ殿下、ソーテルヌ公爵様をお連れ致しました」
「はい。 お入りください」
控室に入ると――
真っ白な純白のイブニングドレスを着たフュエ王女が立っている。
頭には代々受け継がれた王族の証のティアラ。
胸にはティアラと対の豪奢なネックレス。
指には俺が肌身離さず付けてほしいと言った、ブルーダイヤモンドの指輪を付けている。
その汚れの無い初々しいドレス姿に俺は息を呑む。
「フュエ殿下、お待たせいたしました」
「はい、ディケム様。 もしかしたら来てくれないかもしれないと…… 不安で仕方ありませんでした」
⦅………………⦆
「式典で…… 何も相談せずに私の隣に立っていただいた事、怒っているのではないかと……」
「そのような事は…… 正直驚きましたが」
「ごめんなさい。 ディケム様がララさんとラトゥール様をエスコートしたい事は分かっています。 ですが……ですが今日のお披露目だけは、私の我儘を聞き入れて頂けないでしょうか?」
⦅………………⦆
「わかりました。 不肖の身ですが私などで宜しいのでしたら、エスコートをお引き受け致しましょう」
俺の了承の言葉を聞きフュエ王女は『ありがとうございます!』と満面の笑みを俺に向ける。
⦅この真っすぐな笑顔は反則だな……⦆
その笑顔を向けられて、俺は降参するほか無かった。