第六章30 叙爵・陞爵式典1
今日は王城でララ、ギーズ、そしてディックの叙爵・陞爵式が行われる。
この日の為に俺は時間がある時は会場作りのバイトにも参加した。
そこからフュエ王女と冒険パーティーを組むとか……
『どうしてこうなった?』って感じになってしまったが、今日はそんな事は良い。
とにかく三人の『叙爵・陞爵式』が心より嬉しい。
今日はTPOを踏まえて、三人とも戦い特化の八属性オリハルコン装備ではなく、総隊隊員用の貴族軍服を着る。
この軍服も八属性のミスリル装備だから、それなりのモノだ。
俺も同じ総隊隊員用の貴族軍服で参加する。
ラトゥールも着たがっていたが魔神族来賓としてドレスでの参加となる。
俺達が馬車に乗り王城へと到着すると、大勢の貴族が集まっていた。
今日の式典が盛大に執り行われる事は、この貴族の人数と面子を見れば想像に難くない。
馬車を降り、俺を先頭にララ、ギーズ、ディックと続いて歩く。
ラトゥールは形式上、わざわざ魔神族大使館より別に入城する事になっている。
今日の主役の到着に、エントランスに集まっていた大勢の貴族達が道を開ける。
叙爵・陞爵式に褒賞される者に、式典前から話しかける無粋な者は流石に居ない。
だが、貴族たちが俺達に話しかけられない一番の理由は、いま王城の門の前で俺達を出迎えるフュエ王女が居るからだろう。
ふつう、王女自ら家臣の貴族を出迎える事は無い。
「ソーテルヌ様、カノン卿、フィジャック卿、ディック殿、お待ちしておりました。 式典が始まるまで、控え室でお寛ぎ下さい」
フュエ王女が控え室まで案内してくれる。
もちろん何度も来ている王城の控え室だ、案内されるまでも無いが……
それが通例と言うものだ。
控室の扉を開けると、すでに控え室には数人の人が居る。
俺の後から入ってくる、ララ、ギーズ、ディックが控え室で待機してる人物達を見て、目を見張る。
「お父さん! お母さん!」
「父さん! 母さん!」
「父さん! 母さん!」
そう、今日は三人が全員、晴れて貴族になれる記念すべき日。
俺は三人の家族に式典、授与式を見せてやりたくて、サンソー村から呼んだのだ。
「みんな、今日は式典会場に特別観覧室を作った。 貴族とは関わらないで授与式を見られるようにしている。 両親に晴れ姿を見せてやるといい」
「ディケム…… もしかして、それ作る為に会場作りのバイトに行ってたの?」
「あぁ! 貴族に一切見られないように作らなけりゃダメだからな、平民の気持ちなど貴族が理解できるはずが無い、俺が作らなきゃダメだろ?」
「ありがとう。 ディケム」
この控え室には三人の家族が緊張しないように、俺の両親、弟、ララの妹ルルも呼んだのだが……
やはりフュエ王女が居る時点で寛げるはずも無かった。
⦅さすがにここで外してくれとは言えない⦆
⦅もし言ったらフュエ王女、拗ねるだろうな~⦆
しばらく皆で寛いでいると、式典の進行係がフュエ王女を呼びに来る。
そして何故か俺までお呼びがかかる。
⦅ん? 今日の俺はただの来賓なはず…… 何も聞いてないぞ?⦆
断ることも出来ず、俺も言われるままに進行係の後をついて行く。
案内されるまま式典会場に着くと、すでにミュジニ王子、マール宰相が来ていた。
俺は通例通りの挨拶を済ませ、案内係に言われるまま、ついて歩く。
今日の式典の配置、玉座のすぐ右にミュジニ王子、その隣にマール宰相が居る。
通例通り玉座の左側にフュエ王女が案内される。
この流れだと俺も来賓ではなく主催者側になるようだ……
まぁ…… ディック達三人の晴れの姿を特等席で見られるのなら、それも致し方ないだろう。
だが俺は少し腑に落ちなかった。
マール宰相の立っている位置だ。
マール宰相は確かに俺の『貴族の父』的な存在、敬ってはいるが、式典などの公の場では、『宰相』と『王都守護者』は同格と言っても良い。
その場合やはり貴族位の高い方が上座に来る事が普通だ。
俺は公爵、マール宰相は侯爵、爵位は俺の方が上、だからフュエ王女の次に俺が上座に来る。
いつもだとミュジニ王子の隣は俺、フュエ王女の隣にマール宰相が来るはずだ。
だが俺はフュエ王女の隣に案内される。
⦅まぁ良い、俺はマール宰相を尊敬している⦆
⦅正直マール宰相より上座に立つ事の方が、どうかと思っていたほどだ⦆
そして俺がフュエ王女の左に立とうとした時……
『いえ、こちらにお願いします』と右に立つように言われる。
⦅ッ――――!!! いや待て! そこはダメだろう!!!⦆
王の左側…… そして俺の左側にフュエ王女が立つ。
その意味合いは非常に大きい!
俺が王子の次に位が高い事を示し……
そしてフュエ王女が左に立つ意味、それは俺が王女と同格以上と言う事。
王女の右に立つことが許されるのは、国王、女王、王兄殿下(王子)……
そして王女の婿(婚約者)となる。
⦅ちょっ! フュエ殿下!!!⦆ 俺が驚きフュエ王女を見ると。
無邪気な笑顔で嬉しそうに俺に微笑む。
⦅マール宰相――ッ!!!⦆ 俺の心の叫びに、マール宰相がニヤっとする。
俺がこのままでは不味いとオタオタしている間に――
来賓客入場の合図が告げられる。
⦅っな! やられた……⦆
もう、各国の重鎮が来賓するこの正式な式典でジタバタする事は許されない。
俺はシャンポール王国の公爵、王都守護者として。
そして―― フュエ王女の婚約者として各国の来賓を歓迎しなければならなくなった。