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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章28 アクティベート

 

 俺は魔法剣を解除し、玉藻に『よくやった』と視線を送る。

 九尾は満足げに直ぐその場から去って行った。


 戦場を見渡すと、そこかしこに負傷者が居る。

 そして死者も数人出ている。


「フュエ! 怪我人の回復を!」

「はい!」


 フュエ王女、シャルマ、フローラ、ミゲル達が怪我人の回復に走り回っている。

 戦場で『回復(ヒール)』を使える魔法師は貴重だ。

 そしてフュエ王女達を見ると、あれほど一生懸命教会で練習していた『回復(ヒール)』を、息を吸う様に自然に使えている。

 『発動しないのでは?』などと悩む余裕すらないのだろう、実戦を経験する事は何よりも得難い経験となる。


 ⦅姫様が戦場慣れする事はどうかと思うが……⦆

 ⦅今の世の中はそれ位の方が良いのかもしれないな……⦆



 俺が戦後処理の指示に奔走していると、聞き覚えのある叫び声が聞こえてくる。


「リーラ! しっかりしろ! こんな所で終わるな!」

 リーラのパーティーメンバー唯一の男、ギルベルトだ。


 リーラのパーティーは最も酷い有様だった。

 タンク職のギルベルトだけが軽傷。

 リーラは腹を貫かれ致命傷を負っている。

 その他のメンバーは即死だろう。


 リーラのパーティーは飛び出した後、変異種のボス青白いファイア・ウルフに単独で挑み壊滅したようだ。

 ギルベルトの叫び声を聞き、アマンダとダーヴィヒも駆けていく。

 だが俺は助けられる負傷者の処置を優先する。

 残酷な話だが、戦場では命の選別をするしかない。

 負傷者の手当てをしながら遠目でアマンダ達の様子を見ていると、リーラの状態は相当酷いようだ。



 負傷者の応急指示を済ませ、俺もリーラの元に駆けつける。

 ダーヴィヒとアマンダがリーラの鎧を脱がせ応急処置をしようとしていたが、そのどうしようもない深手を見て手当を諦め、傷口を隠すように服を掛けている。


「アマンダさん……ミスっちゃいました……。 ダーヴィヒさん……ごめんなさい。 わたし……忠告を無視して……みんな死なせちゃった……。 ギルベルト……ごめん、私のせいでみんなが……みんながぁ……」


「違うリーラ! 俺がタンクなのに、俺が守れなかったんだ! 真っ先に死ななきゃいけない筈の俺がぁ…… 一人生き残ってしまった……ごめん」


「ばかギルベルト……、そんなこと言わないで私達の分まで生きて…… お願い」


 ケガ人の処置を終えた、フュエ王女達もリーラの元へ駆けつけ、その惨状に目を覆った。


「ディケム様、負傷者の手当ては終わりました。 残念ですが深手を負った者はみな即死でした。 死者数はリーラさんのパーティーを含め七名です」


「クソ……死者七名って……そのうち三人がウチかよ! 私が死んで四人……私の判断ミスがアイツらを殺してしまった……情けない」


 リーラの後悔に、同じ思いをしたアマンダが唇を噛む。


 ⦅………………⦆


 アマンダの時のようにフュエ王女が俺の袖を掴む。

 何とかならないのかと……


 ⦅………………⦆


 アマンダもすがるように俺を見てくる。


 ⦅………………⦆


 この人たちは俺のポッケに『エリクサー』が何本も入っていると思っているのだろうか?

 まぁ『エリクサー』じゃないから何本も有るのだが……


 この『特製ポーション』は精霊魔法を使わなければ、その真価を発揮出来ない所が問題だ。

 見る人が見れば俺が精霊魔法を使っていることが分かってしまうだろう。


 俺はリーラを見る。

 まだ意識がある…… アマンダの時のように口移しで飲ませる必要はない。

 だがどうやって誤魔化す?

 『特製ポーション』だけ飲ませてもこの傷は治らない。

 そして『特製ポーション』を飲ませた後、精霊魔法を掛けるタイミングが実は最も重要なのだ。

 ただ魔法を掛ければいいってものじゃない。


 それに……

 『助けて!』って言う割にフュエ王女、ヤキモチ妬くしな〜

 何て事を考えていると、リーラが白目を剥き出す!


 ⦅あぁ〜 もう!⦆


 俺はアマンダの時と同じようにポーションを口に含みリーラに飲ませる!

 リーラはまだ少し意識があるようだ、突然の事に少しジタバタしているが――

 うるさい、静かにしていなさい!


 そして誰も見えない角度で呪文を口ずさむ。


 ⦅ ≪―――δραστηριότη(アクティベート)τα(活性化)―――≫ ⦆


 効果はアマンダの時のように劇的だった!

 みるみるリーラの傷は治ってゆく。


『えっ?! えっ!? うそっ! えっ?!』とリーラ本人も驚いている。


 『リーラァ“ァ”ァ“ァ”――――――!!!!』

 ギルベルトがリーラに抱きつくが、リーラに鬱陶しいと押しやられている……ヒドイ


 そして……

 やっぱり『ム〜!』と頬を膨らしてフュエ王女が俺を座った目で見てくる……

 それは酷くないか?



 そんなワチャワチャしていたが、まぁ何はともあれ、これで急がなきゃいけない事は終わった。

 少しホッとしていると――


「ディケムさん! 大変です!」


 ⦅…………。 今度はなんだ?⦆


「フローラが他のファイア・ウルフを追って一人で森に――!」


 やはりそうか……

 さっきまでの戦闘中、俺は遠くで様子を見ている別グループの変異種を確認していた。あれが残りのB級と三匹の変異種だろう。

 B級の方は別の変異種とコロニーを形成して、別行動していたようだ。


 だがどう考えても四匹の変異種はフローラ一人の手には余る。

 それにフローラの様子もこのところ少しおかしかった。

 玉藻も後を追っているようだし、手遅れになる前に対処した方がよさそうだ。




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