第六章25 大規模討伐クエスト
変異種ファイア・ウルフ討伐の為、冒険者ギルドが招集をかけた大規模クエスト。
王都北門に三十を超えるパーティー、二百人ほどの冒険者達が集まっている。
軍隊で言うと中隊規模だ。
パーティーリーダーのシャルマを先頭に、俺達もその輪に入って行く。
今、冒険者界隈では、俺達の『レクラン』は色々な意味で目立っている。
初陣にてC級の変異種ファイア・ウルフ二匹討伐。
D級プラスのグレーターボア討伐。
有名人Cクラスのアマンダが加入。
そしてやはり男が圧倒的に多い冒険者の中で、女性が四人!
さらにみな見目が良い。
俺とミゲルが皆に妬まれるのも分かる気がする。
すると取分け俺達に敵意剥き出しで睨んでくるパーティーが居る。
そのパーティーも女性を中心にした五人パーティー構成、男が一人だけいる。
そしてシャルマを睨んでいたパーティーリーダーらしき女性が、アマンダに話しかけてくる。
「アマンダさん!」
「あぁリーラ、お前たちもこの討伐に参加するのか」
「はい……。 あのアマンダさん! なぜ私達の誘いを蹴って、そんな出来たばかりのパーティーなんかに入ったんですか!?」
どうやら、このリーラと言う冒険者は、アマンダを慕っているようだ。
アマンダのパーティーが全滅した事を悲しみ、もし冒険を続けるなら自分達のパーティーに来て欲しいと誘っていたようだ。
それを出来たばかりの『レクラン』とかいう新参パーティーに引き抜かれた。
『あいつら許さない!』って事らしい。
「リーラすまない…… 誘ってくれた事、嬉しかったよ。 だけど分かって欲しいのはリーラのパーティーが嫌だったわけじゃ無い。 ダーヴィヒにも『黒い牙』に来いと誘われたんだけど…… 今はどうしても馴染みの友に囲まれてしまうと、死んじまったあいつらの事を思い出しちまう。 それにこのパーティーには………… まぁいい、とにかく今はこいつらと一緒に居たいんだ」
「アマンダさん……」
リーラと言う冒険家は、本当にアマンダを心配しているようだ。
『手っ取り早く有名人が欲しい』『戦力が欲しい』とアマンダに声をかける奴らよりよっぽど良いが……
『ガルルルル――!』と俺達に敵意剥き出しなのはどうにかしてほしい。
「お前らアマンダさんが居るのに無様晒すなよ! 私らならアマンダさんに仲間の敵を討たせてあげられるんだ! アマンダさんに相応しいのはウチのパーティーなんだ!」
キャンキャン吠えるリーラを『はいはい』と軽くいなして俺達は討伐クエの説明を聞くために、冒険者達集団の中に入って行く。
「おう! お前らもやっぱり来たのか!」
「ダーヴィヒ! 今日はよろしくね」
ダーヴィヒに声をかけられ、シャルマがリーダーとして答える。
今日のダーヴィヒはいつもの軽装備とは違い【黒い牙】のメンバーと一緒にフル装備で来ている。
「来て早々『リーラ』に絡まれてたなぁ。あいつらも悪い奴じゃないんだ。ただ異常にアマンダを慕っていてな、許してやってくれ」
『ハーッハッハッハ!』とダーヴィヒは若者同士のいざこざを笑い飛ばす。
⦅ベテランの貫禄ってやつだな……⦆
⦅なんかラスさんに雰囲気が似ている気がする⦆
参加冒険者がだいたい集まったところで、ギルド長が説明演説を始める。
「今日は皆集まってくれてありがとう。 今回の依頼は変異種のファイア・ウルフ討伐です。 標的のファイア・ウルフは一〇匹!」
『なっ! 嘘だろ?』
『おい…… 一〇匹も変異種とか無理だろう!?』
『この前新人が二匹討伐したって聞いたぞ……』
ギルド長の話に場が騒然とする。
「それだけではありません。 その一〇匹のうち、六匹がコロニーを形成している事を確認しました。 そしてそのコロニーを率いるボスはA級相当と思われます。 特徴は毛色が青白く…… 普通のファイア・ウルフよりも格段に大きい。 このコロニーに三組のパーティーが壊滅させられました」
『ばかな! A級って……』
『ファイア・ウルフの毛色が青白いってなんだよ!?』
『C級の変異種五匹にA級が居るって…… 無理じゃないか?』
「そこで…… 今、王都に居る【牙隊】はダーヴィヒの『黒の牙』だけ、非常に危険な状態ですので助っ人を呼びました。 英雄ラス・カーズ様のパーティーメンバー『精霊使いのラローズ様』と『タンクのドーサック』様です!!」
『おぉぉぉぉぉ――!』
『ラローズ様――!』
『ドーサック様――!』
⦅ラローズ先生が来たって事は、ラトゥールが気でも利かせたようだな⦆
⦅ドーサック先生はとばっちりだな……⦆
冒険者達に囲まれるラローズ先生を初めて見たけど、その人気は凄まじく、先ほどまでの不穏な空気は吹き飛び、冒険者達の士気を大いに盛り上げた。
「皆様、今回は異例の大規模討伐依頼となりました、懸賞金も五割増し! C級は金貨七五枚、A級は金貨七五〇枚となります」
『おぉぉぉ!』 懸賞金の多さに冒険者達の士気がさらに上がる!
「ギルドからのお願いです。 全員が無事に戻って来てください! それでは皆さん、ここに大規模クエスト開始を宣言いたします――!!!」
「うおぉぉぉぉおおおおお―――!!!」
気合を入れた冒険者パーティーが次々と王都北門をくぐり、『魔の森』へと向かう!
俺達も出発準備をしていると…… ラローズ先生がこちらに歩いてくる。
「ダーヴィヒ久しぶり! まだ生きているようで嬉しいわ」
「はん! ラローズも元気そうで何よりだ。 お前がデーモンスライム倒す為に駆け回っていた時は死に急いでいるようで見ていられなかったからな」
「ラローズさん! お久しぶりです!」
「アマンダ…… パーティーの事は聞いたわ。 あなたの無事な姿を見られて安心しました。 皆で、心配してたのよ」
「リーラも元気そうね、みな見違えるほど逞しくなったわね」
『ラローズさん!』『ラローズ様!』 とラローズ先生の人気が凄い。
アマンダやダーヴィヒ、あの俺達に喧嘩腰のリーラもみなラローズ先生と知り合いのようだ。
『ディケム君!』 ラローズ先生の呼びかけに、周りが少しざわつく。
「ラローズ、おまえディケムと知り合いなのか?」
「ディケム、ラローズさんと知り合いなの?」
ダーヴィヒもアマンダも驚き、リーラがさらに俺を睨む。
「ディケム君は、今魔法学校で私の生徒なのよ」
「去年、魔法学校を代表して戦士学校に交流留学として選ばれた優等生だ、その時俺がタンク職を教えたんだぞ」
ドーサック先生も会話に参加して、俺の教え子談義で盛り上がっている。
「なによ、ディケムさん! やっぱり本職はタンクじゃなくて魔法職なんじゃない!」
「ちょっと、ヒール以外にもどんな魔法が使えるのか教えなさいよ!」
余計な情報でシャルマとフローラが騒ぎ出したので、ラローズ先生が『そろそろ行きましょう!』と話を誤魔化してくれる。
⦅いや…… 面倒くさい話始めたの、ラローズ先生だから⦆
初めての大規模討伐という大きなイベントに、『レクラン』メンバーは浮足立っている。
そんな事で俺達は『黒の牙』、リーラ率いるパーティー、さらにはラローズ先生、ドーサック先生と一緒に行動する事にした。