第六章 閑話 意地悪な人
フュエ王女視点になります。
ディケム様はいじわるな人。
わたしの気持ちを知っていて…… 私を振っては下さらない。
ディケム様があのお二人、ラトゥール様、ララ様を深く愛している事が伝わってくる。
わたしでは、あのお二人には勝てない。
私を拒絶しないのなら……
もう少し気を許してくれても良いのに。
「フュエ、ソーテルヌ卿はどうなのだ?」
「お父様、お兄様…… あのお方は、あのお二人を愛していらっしゃいます。 私の入る隙は御座いません」
「フュエ! それでは困るのだ! 愛されなくても良い、とにかくソーテルヌ卿の妻になれれば――……」
「ミュジニ!!! そんな事を言うな! もとはと言えば、不甲斐ない我々の問題をまだ年端もゆかないフュエに押し付けているのだ! フュエが上手く出来なかったとしても私達が攻められる立場ではない」
「…………。 すまなかったフュエ。 他国の動きに焦ってしまったようだ」
「そうだミュジニ。 それこそが他国の狙いでもある。 ソーテルヌ卿と我々の間に溝が生まれれば、卿に取り入りやすくなるのだから」
「はい、お父様。 ですからソーテルヌ卿は私を拒絶しないのだと思います。 ソーテルヌ卿は私達に義理を立ててくれています」
「そうか、ソーテルヌ卿はまだ我々を見捨てないで立ててくれているのだな……」
「はい」
「だがフュエよ…… お前は辛くはないのか? こんな就学前の年だと言うのに、政治の道具として、親に言われた相手に嫁ぐなど……」
「お父様! お父様もご存じでしたでしょ? 私がずっとソーテルヌ卿をお慕いしていた事を。 私が悲しいのは…… ソーテルヌ卿が愛してもいない私を、政治的な圧力で拒絶できない事。 そしてソーテルヌ卿の気持ちを自分に振り向かせる事が出来ない自分自身にでございます」
大規模討伐クエストに参加する日、ディケム様が私に新しい服を作って下さいました。
ララさん達と同じ、私には過ぎた装備。
ディケム様は私を壊れ物のように大事に大切に扱ってくれる……
でもそれは、王女として。
私は王女としてではなく、一人の女として見られたい。
ララさんと過ごしているディケム様はとてもリラックスしている。
ララさんへの扱いが少し雑なのは、気を許しているから。
ララさんは私との扱いの違いに頬を膨らませるけど、私がなりたいのはそちら側。
ディケム様がベンチでララさんの隣で、居眠りをしている……
ララさんが話の途中で寝始めたディケム様を怒っている。
私の隣で気を抜いて居眠りをしているディケム様を見た事が無い。
ディケム様の心を癒しているのはララさんだ。
ララさんが羨ましい……
舞踏会ではディケム様とラトゥール様の息の合った華麗な踊りに皆が魅了された。
総隊への師事は、ラトゥール様に全幅の信頼を置いて任せている。
いつも厳しいラトゥール様が、ディケム様とお茶をしているとき、見た事の無い柔らかい表情をお見せになる時がある。
お二人の信頼し合い、尊敬し合った関係が羨ましい。
あのお二人は、ディケム様にとって無くてはならない存在になっている。
お互いに与え合い、お互いが高め合い、お互いが心から信頼している。
だけど私はディケム様に頂くばかり……
私は何もディケム様に与えられるものが無い。
⦅でも私は…… 諦めたくない⦆
あの時ディケム様に頂いた言葉が心に響く――
『自然に話せる様になるには、お互いの信頼と絆が必要なのです。 それには二人で築き上げた時間が必要です。 ですが、最初の一歩を踏み出さなければ始まりません。 これから少しずつ絆を育てていきましょう』
『これから少しずつ絆を育てていきましょう』
この言葉を信じて、私はあの方について行くと決めたのです。