第六章23 心の傷
アマンダ視点になります。
私の名はアマンダ。
田舎村で育った私は学も無く、腕っぷしだけが取り柄だった。
七年前の『アルザスの悲劇戦役』の時はまだ十四才、戦争に参加できず情報だけを聞き人族軍の不甲斐なさを嘆き、『自分がいれば!』と自分の力を過信していた。
そして三年後の『アルザスの奇蹟』戦役。
私は思い上がったまま参戦し、戦場で大ケガを負い、死を覚悟したさなかソーテルヌ卿のお陰でなんとか生き延びた。
私は少しだけ腕力に自信がある凡人だった。
人族の中では少しは強いかもしれないが、種族と言う超えられない限界を知ってしまった。
それでも私は強くなることをまだ諦めたくなかった。
でも騎士団に入隊できない私のような予備役軍人は、たまに開催される予備役用の訓練プログラムに参加するほか鍛える術は無い。
これではとても強くなれるとは思えない。
より強くなるためには傭兵か冒険家になるしか方法はない。
そして私は冒険家を選んだ。
冒険家になった私は、『黒い牙』のダーヴィヒと出会い。
ダーヴィヒの下で、私と同じ四人の駆け出し冒険者に出会った。
ジャレッドは責任感が強い奴だった。
ウィリックはいつも陽気で場を盛り上げてくれた。
シドニエルは寡黙だが、いざと言う時に頼りになった。
テイシリアは私と同じ女なのに、お淑やかで皆のアイドルだった。
私達五人は全く性格が違うのに、意気投合しパーティーを組むことになった。
パーティーリーダーは冒険者ランクが一番高く、一番勝ち気な私が引き受ける事になった。
私達のパーティーは呆れるくらい、ノッテいた。
難しい討伐依頼があれば、真っ先に私達が引き受けた。
この街で私達にこなせないクエストなど無いと奢っていた……
リーダーの私がそんなだから、みんな死んでしまった。
『死にたくない』と泣くテイシリア。
動かなくなったテイシリアを守るように抱えて息絶えたシドニエル。
最後まで私を守るように一緒に戦ったウィリックとジャレッド……
倒れていく二人の姿を見、絶望の中私の意識も暗転した。
死ねば魂はマナに帰り私は別の魂に生まれ変わる。
とても寒い真っ暗な暗闇の中、私はその時を待っていた。
氷のように冷たくなった私の体。
でも突然わたしの唇にぬくもりが灯る。
そしてその言葉を聞く。
……………… 『活性化』 ………………
唇から流れ込んだぬくもりが、荒れ狂う炎に変わり、私の全身をかけ巡る!
そして魂と肉体に力が注がれる。
⦅なに? これは…… 魔法?⦆
ボロボロだった私の魂と肉体が蘇生されていく。
そして私は目を覚ます。
そこは…… いつも仲間と入り浸っていた見慣れた冒険者ギルドだった。
自分の家に帰り水浴びをし、自分の体を見る。
『狐につままれたような気分』とはこの事だ。
私は致命傷を負いながらも、次の獲物をおびき寄せるメッセンジャーとして、ギリギリ生かされ、街の近くに放置されていたらしい。
発見してくれた人は、とても私が生きているとは思えない程の状態だったと言う。
でも、今の私の体には傷一つない。
これが本当に夢だったのなら…… あいつらも生きているのに。
一人の静かな時間が、私一人が生き残ってしまった罪悪感を大きくし、押しつぶされそうになる。
ベッドに横たわり、あの若い冒険者の事を思い出す。
なぜかあの青年の事を思うと、罪悪感が薄らぐ気がしたからだ。
あの若い青年がアーティファクト級の薬『エリクサー』を使ってくれたのだと聞いた。
でもどうやって…… 気を失った私に薬を飲ませられたのだろう。
そしてあの言葉『活性化』…… 私は唇に指をあてる。
あの青年は、私が今まで会ったことが無い、不思議な匂いがした。
翌日、居てもたっても居られなくなった私は、ダーヴィヒに頼み込み昨日の青年をギルドで待つことにした。
そしてやっと会えた青年は、一切『エリクサー』の事には触れない。
命と言う一番大切なものを救ってもらったのだ、私は何を要求されても断れない。
いや…… 私は青年に命令されたかったのだ。
それだけが一人だけ生き残ってしまった私の救いに思えたから。
せっかく彼が拾ってくれた命だけど、私はこれから何をすればいい?
仲間を死なせてしまった私に、生きて行く価値は有るの?
また罪悪感が膨れ上がり、頭の中をぐるぐると回る―― 誰か助けて!!!
青年に会えれば、もしかしたら私は救われるかもしれない。
そんなすがる思いで私は青年に会ったのに……
でも、そんな都合のいい答えなどやはり無かった。
青年の場所に私の居場所は無かった。
不思議な青年は、フュエと言う少女の保護者だった。
悔しく思ってしまうほど彼女を大切にしている事が伝わってくる。
私に救いなど一切なかったけど……
私は青年の近くに居たかった。
いや青年だけじゃない、この『レクラン』のメンバーと一緒に居られれば、私の生きる意味を見つけられるかもしれない。
レクランのメンバーとの冒険は、新鮮だった。
あの変異種のファイア・ウルフを二匹も倒したと聞いたから、どれ程のパーティーかと思ったけど、結局あの青年だけがずば抜けていて、後のメンバーは普通のビギナーだった。
でも…… 嫌な事など忘れてしまうほど、彼らと一緒に居ると楽しかった。
緊迫した戦闘中にも関わらず、腹を抱えて笑ってしまうほどだ。
それはあの青年が居てくれる安心感なのだろう。
その事を実際に実感したのは、『グレーターボア』との戦闘の時だろう。
私はあの時、また失敗を犯したと絶望していた。
このままでは確実にパーティーメンバーの誰かがやられる!
私のせいだ…… 私の不注意が招いた事だ!!!
しかしあの青年は、私の絶望など何と言う事も無いと……
『グレーターボア』を一撃で沈めてしまった。
私は青年から目が離せなかった。
青年の場所に私の居場所が無い事は分かっている。
だけど私の心を救ってくれる、私の希望は……
やはり彼のようだ。