第六章21 G級クエスト
アマンダの冒険者の基礎講義を受けた翌日、夜も明けぬ早朝に皆で集まる。
午後に冒険者ご用達の店を紹介してもらう前に、簡単なクエストをこなす事になったからだ。
もちろん今危険と分っている『魔の森』へは行かない。
シャンボール王都の直ぐ近く、西に広がるロワール平原でのクエストだ。
クエストは今日アマンダから紹介してもらう酒場が依頼している食材調達クエだそうだ。
依頼内容は『ホーンラビット十匹調達』。
もし『ワイルドボア』が出たらそれも一匹ほしいとの事。
ワイルドボアは主に森や隠れるところが多い場所に住んでいるが、平野でも背の高い草が生えている所には住んでいる。
ちなみにホーンラビットはG級、ワイルドボアはF級の魔獣になる。
ロワール平原に着くと、まずアマンダが地面に残された足跡、フン、餌を食べた痕跡からホーンラビットを探している。
サンソー村に住んでいた頃、よく父に仕込まれたアレだ。
今の俺ならば、マナの感知を薄く広げて一帯を探索することも出来るが……
野暮な事は止めておこう。
しかし、アマンダの獲物を探し出す嗅覚は『本当はシーフ職なのでは?』と言うくらい素晴らしかった。
アマンダが次々にホーンラビットの痕跡を見つけ出し、追跡していく。
そして、今俺達の前には六匹ほどのホーンラビットの群れがいる。
『さぁホーンラビットはG級の魔物だ、変異種のファイア・ウルフを狩ったアンタらなら問題無いだろう? とりあえず、まずはアンタらのお手並みを見させてほしい』
アマンダはまずは俺達の戦いを見て、これから自分がどのようにパーティーに貢献できるのかを見たいそうだ。
「フン! 良いだろうアマンダ! G級のホーンラビットなど、C級の変異種ファイア・ウルフを倒した俺達の敵じゃない!」
そう叫びミゲルが突然飛び出す!
『あのバカ!!!』 アマンダの叫びも、もう間に合わない。
ミゲルの叫び声に反応したホーンラビットが一斉にミゲルを見る。
そして…… 一斉にミゲルに向かって襲い掛かってくる!
「えっ!? ひぃぃぃ――!」
ミゲルは、逃げ出すホーンラビットを追いかけるイメージだったのだろう。
だがホーンラビットはG級とは言っても、れっきとした魔獣だ。
それが六匹まとまっていたら、ミゲル一人では危ないだろう。
こちらに向かって逃げてくるミゲルを援護する為に、フローラが魔法を放つ!
「火炎球――!!!」
『火炎球』に直撃したホーンラビット一匹が燃え上がり倒れる。
そしてフローラが二発目の『火炎球』で二匹目のホーンラビットを仕留めたとき……
ミゲルがフローラの直ぐそばまで逃げてくる。
焦ったフローラもミゲルと一緒にホーンラビットに背を向け逃げ出す。
そんな感じで次々とシャルマ、フュエ王女と逃げ回り……
いま俺とアマンダが見ている先で四人がホーンラビットから逃げ回っている。
「…………」 「…………」
「あ、あいつら本当にやる気あるのか?」
「はぁ……すみません」
呆れるアマンダに、とりあえず誤っておいた。
「ディ、ディケム様! 見てないで助けてくださいよ~!」
俺に助けを求めるフュエ王女を護る為に、俺が剣を抜こうとしたとき。
アマンダが素早くホーンラビットを瞬殺した。
昨日までアマンダの言葉に乗せられて、直ぐにでもDクラスの昇格審査を受けようなどと息巻いていたが……
⦅うん。 彼らは間違いなく『Gクラス』だ⦆
「お前ら…… ふざけているのか?」
「ちょっとアマンダ! 私はしっかり二匹倒したわよ! ミゲルのアホと一緒にしないでよ!」
「いやフローラお前もダメだ。 依頼はホーンラビットの食材調達だ、丸焦げの肉など誰が引き取ってくれる?」
「あぅ……」
食材調達クエは何気に難しい。
丸焦げは論外、食べる肉に大きな傷があれば価値は半減。
もちろん毒や腐食などもダメだ。
それに獲物が苦痛を味わえば味わうほど、肉の旨味が減ると言われている。
だから最上級の肉は、罠よりも急所を一撃で仕留めた物が良いとされている。
アマンダの仕留めたホーンラビットは急所を一突き!
とても鮮やかなお手並みだった。
それから何度も同じようにホーンラビットの群れを見つけて狩った。
半分以上のホーンラビットの肉は丸焦げや売り物にならない状態だったが、何とか依頼分の十匹分を確保することが出来た。
「まぁ…… 多少はマシになったようだな。 これで一応依頼分の獲物は確保できたが、さっき『ワイルドボア』の足跡を見つけた。 ついでに頑張ってみよう」
「「「はい!」」」
すっかりアマンダが良い先生役になっている。
結局俺は今日、何も仕事をしていない。
アマンダが『ワイルドボア』の足跡を追い、草原から少し足がぬかるむ水場にたどり着く。
ここは背の高い葦が生え、見通しが悪くなっている。
先ほどまでの開けた草原とは戦い方は少し違ってくる。
すると……
「う~ん」
「どうしたの? アマンダ?」
「ワイルドボアだと思ったんだけど、その上位種のグレーターボアだ」
「そのグレーターボアは強いの?」
「E~D級、私も本気にならないと危ない場合がある」
アマンダはCクラスの冒険家だ。
逆を言えば一人ではC級の獲物が限界になる。
もしグレーターボアがD級相当の力を持っていたら、アマンダも油断すれば危ないだろう。
やるのか、逃げるのかアマンダが思案していると……
バッキ!!!
「へ……?」 「おまえ!」 「うそ!」 「ッ――!!!」
ミゲルが、おもむろに倒れていた倒木に腰かけた瞬間、倒木が折れ凄い音がした!!!
すると……
シュー
カッカッカッ
クチャクチャクチャ
なんか聞こえる……
そして!
ブギャアアアア―――――!!!!
背丈ほどの葦の向こうから、もの凄い雄叫びを上げてグレーターボアが向かってくる音が聞こえてくる!
「きゃあああああ――!!!」
「ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!」
「アマンダ! どうするの?! 勝てるの!?」
さすがのアマンダも『ヤバイ!』と言う顔をしている。
これはもう俺がやらなきゃダメだろう。
俺は皆の前に立ち、ミスリルの盾を構える!
そして――
ドガッンンンンンン―――!!!
猛烈な勢いで突撃して来たグレーターボアの巨体が、俺の盾にぶつかり……
そこで止まる!
まるで崖に衝突したかのように、グレーターボアの首の骨は折れ、そこで絶命した。
「うそ……」 「…………」 「…………」 「…………」
うん…… ちょっとやり過ぎたかもしれないが、王女の護衛としてホーンラビットくらいなら笑えたが、グレーターボアはダメだ。
「アンタ…… 一体なんなんだ。 いくらグレーターボアがD級だといっても、戦い方ってものがある。 B級のダーヴィヒだってグレーターボアの突進を正面からなんて止められない」
「タンクに少し自信があるだけですよ」
「自信があるってレベルじゃないだろう!」
「ん……?」
「あ…いや…… まぁいい」
俺は少しだけ強い視線でアマンダを見ると、アマンダは直ぐに引いてくれた。
この話はもうこれで終わりだ。