第六章20 レクラン始動
アマンダが俺達のパーティーに加入したその夜、懇親会を兼ねて皆で食事に行く事にした。
「それで、なんでダーヴィヒさんまで来てるのよ?」
「いやほら、アマンダの保護者と言う事で……」
「どう見てもアマンダが私達の保護者って年齢なんだけど」
「ね、年齢の話は止めなさい!」
「アマンダは同じパーティーだから良いけど、ダーヴィヒさんは奢らないからね!」
「そんな~ 討伐報酬がっぽり貰ってたじゃないか~」
「なんで私達が大人におごらなきゃいけないのよ!」
アマンダは俺より七歳年上だけど、まだ全然若い。
だけどこの種族戦争に明け暮れる世界では、人族が最初に子供を産む年齢は十六歳~二十歳が平均だ。
弱い種族ほど早く子供を産む、死ぬのが早く、だけど戦士を増やさなければならないからだ。
それからするとアマンダが少し焦りを見せているのは分かるが、正直アマンダはとても美人だ。
それに焦っているようにふるまっているだけで、彼女は異性より強さを第一にしている事は明白だろう。
どう見ても美人のアマンダが目立たないのは、このフュエ王女、シャルマ、フローラの三人が美人過ぎると言う事だ。
フュエ王女が美人なのは当り前だろう。
どこの王族も、代々美人を嫁にし、美男子を婿としてきた。
どう転んでも容姿が整う要素しかない。
それからすると…… シャルマ、フローラは顔が整い過ぎていると思う。
「それで! 変異種のファイア・ウルフを二匹も討伐したあなた達が――…… 冒険者ランク初級のGランクって事なのね」
「「「「うん」」」」
「はぁ…… 私が強くなるために青春を捧げてきた事が馬鹿らしく思えてくるわね」
「すみません……」
「謝られると余計悲しくなるから止めて。 じゃ~少しだけ説明すると、冒険者には個人とパーティー両方にランク分けがある」
「「「「はい」」」」
「個人のランクはそのままの意味、個人の強さによって審査を受けてランクを獲得する」
「「「「はい」」」」
「パーティーランクについては、そのパーティーの実績によって、審査を受けてランクを獲得する。 いくら強いメンバーがいても実績が無けりゃ審査を受けられない。 『レクラン』は変異種ファイア・ウルフを二匹討伐した実績が登録されている。 変異種ファイア・ウルフはCランクの魔物、二匹一緒となるとBランクに匹敵する。 だけどまだまだ実績が少ないからC、Bランクは難しいとは思うけど、Dランクの審査は受けられると思うわ。 パーティーランクを上げる意味は、ランクが低いと大規模な討伐クエストに参加できない事もある」
「「「「はい」」」」
「ちなみに七人以上の冒険者が集まったグループは『クラン(組織)』として登録することも出来る。 『クラン』として登録できれば、参加できるクエストの幅も広がるという訳だから、うちは派手に目立った分、これから有力パーティーから合併の話がたくさん来ると思うわよ」
俺は今まで騎士団に囲まれていたから軍の事しかよく知らなかったけど、自由を好む冒険者にもいろいろ組織と決まり事があるみたいだ。
「大きな枠組みはそんな所だけど、ランクのだいたいの目安を言うと――……」
アマンダが冒険者ランクの目安を教えてくれる。
G、Fランクがビギナークラス、初級。
Eランクがノーマルクラスと呼ばれる中級。
C、Dランクがリスキークラス。 変異種を討伐出来る上級。
Bランク以上がマスタークラス。
A、Sランクになれば英雄・勇者と呼ばれるそうだ。
特にE~D、C~B、A~Sランクの間には、大きな差異があり、冒険者の格の違いとして区別されるという。
クラス分けの基準となる討伐する魔物の強さも格段に上がるからだ。
それにつれて懸賞金も跳ね上がるらしい。
Eクラスの懸賞金、金貨五枚に対して、Dクラスの懸賞金は二五枚。
Cクラスの懸賞金、金貨五〇枚に対して、Bクラスの懸賞金は二五〇枚。
Aクラスの懸賞金が五〇〇枚に対して、Sクラスは二五〇〇枚と格の違いが金額にそのまま現れている。
ちなみにSSと言うランクもクラスとしてはあるらしいが……
まぁ天災級の魔物を倒せなければいけないとか、普通の冒険者では無理だろう。
現実、人族の英雄ラス・カーズ将軍が唯一Sランクだったと言う。
各国のオリハルコン武器を貸し出される英雄は、だいたいA級だそうだ。
ちなみに『黒の牙』のダーヴィヒさんはBランク、アマンダはCランクなのだそうだ。
アマンダとダーヴィヒさんの間には途方もない格の差がある事になる。
皆で『ふ~ん』とか『へ~』とかいちいち驚いて聞いていると……
『アンタら本当に何も知らないビギナーなんだね』
とアマンダが改めて驚きの目で『レクラン』のメンバーを見ている。
「それで、あとは生き残る為に一番大切な装備を確認したかったんだけど…… 昨日見た格好と同じって事は、それがアンタ達の一番いい装備って事で良いんだね?」
そう……
これが俺の冒険者に対して『なぜ?』と思う不満だ。
なぜ冒険者は、街中でも自分の装備を自慢するかのようにフル装備なのか?
うちのギーズも『蒼竜刀』の『鞘』作るまで、刀を布で包んでそのまま持ち歩いていた危険人物だけど……
この『精霊結界』に守られた水と緑の国に、なぜ剣と盾を持ったフルプレートの冒険者が普通に歩いているのか?
かくいう今の俺も、服はカジュアルな革の装備だが、ミスリルの剣と盾を持ってきている。
冒険者の恰好をしていたいフュエ王女にせがまれて、合わせた感じだ。
渋々その格好で皆と会ったら、みな昨日と同じ冒険者用の格好だった。
⦅街では普通の恰好で居たいのは俺だけなのか?⦆
「う~ん…… ディケムとフュエはツッコミどころ満載だけど、まぁエリクサー持ってたくらいだから、私の範疇外で!」
「おいっ!」
「だって! ビギナークラスがミスリル装備持ってるとか、あり得ないし……」
「うっ……」
「それで、他の皆は論外って事で!」
「へ?」 「は?」 「なぜ?」
「他の皆は論外って言ったのよ! アンタらが着てるの一般人のお遊び装備だから! ギルドに登録するようなプロの冒険家はそんなの着ないから!」
「…………」 「…………」 「…………」
「あえてマシと言うならフローラがマシな位だけど、方向性が間違っている。 アンタが着てるのは剣士に向いている素材だ、何も知らない服屋がなんとなくで白魔法師っぽいデザインで作ったのだろう」
「え“……」
「そしてミゲル。 アンタが大切に持っているその派手な装飾の剣、ただの銅だから! 銅の剣にそんなに装飾しちゃったら重くって使えないでしょ! アンタはアタッカー、早く動けなけりゃ意味無いでしょ? 」
「うぐっ……」
「まぁいい。 最初は皆そうだから、気にする事は無い。 それでだ!」
「「「はい」」」
「アンタ達、きのう仕留めた獲物をギルドに渡したよな?」
「「「うん」」」
「あれはアンタ達の獲物だ、獲物の素材は懸賞金とは別。 いやむしろ懸賞金より素材の方が、価値がある! 昨日は私があんな状態だったからギルドが預かってくれていたようだけど、酷いギルドだとそんな間抜けな冒険者は足元を見られかねない」
「ゔぅぅぅ……」
「それでだ。 獲物は自分達で捌いて肉と素材に分けるんだけど…… アンタ達で出来る奴は居るのかい?」
居るわけがない……
このお嬢様達と坊ちゃまは料理すらろくに出来ないだろう。
俺は出来るが、このパーティーでは助っ人の立場で居たい。
「だろうと思った…… その担当は私がやるよ。 昨日のファイア・ウルフも、もう解体して置いた」
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
「Cクラスのリスキー魔獣で、数年に一匹現れるかどうかの変異種だ! 超レアな素材だ! 金出して買えるような代物じゃない。 そして肉も勿論レアだ」
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
その日はアマンダとダーヴィヒから冒険者のいろはを教えて貰った。
沢山のダメ出しを貰ったが……
アマンダ以外が全員、人族では希少な魔法師と言うのは『こんなパーティー見たこと無い!』と素直に驚かれた。
いろんな意味で、このパーティーは目だって行くだろう。
そして明日は素材を持ち込み、装備を作ってくれる冒険者行きつけの装備屋と。
肉を持ち込む料理屋を紹介してくれることになった。
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【クエスト褒賞(金貨/枚)】
Gクエスト:1
Fクエスト:2
Eクエスト:5
Dクエスト:25
Cクエスト:50
Bクエスト:250
Aクエスト:500
Sクエスト:2500
SSクエスト:言い値