第六章16 冒険者ギルド
変異種のファイア・ウルフ二匹を倒した俺達は、荷車を借りて二匹の獲物を運ぶ。
男の俺が荷車を引いて、ミゲルが後ろから押す。
女性陣三人は、荷車の周りを歩く。
後ろの方から、『なぜ男爵の俺様が荷車など……』とブツブブと聞こえて来るが気にしない。
街中に入り、荷車に乗せられた変異種のファイア・ウルフ二匹を見た街人が騒ぎ立てて集まってくる。
すると今までブツブツ言っていたミゲルは、今度は意気揚々と自慢げに荷車を押し出す。
⦅まぁ、悪い奴では無いんだが……⦆
俺達は『冒険者ギルド』に二匹の獲物を持ち込む。
するとギルド内は大騒ぎになり、冒険者たちが集まってくる。
「おいあの獲物! いま討伐隊を編成している変異種のファイア・ウルフじゃないのか?」
「二匹も居たのか…… 被害者が多く出たはずだ」
「おぃおぃ嘘だろ!? あんな子供たちが討伐したって言うのか?」
俺達は全く知らなかったが、俺達が討伐した変異種のファイア・ウルフは、最近多数の冒険者の犠牲を出し、今冒険者ギルドで討伐隊を編成していたそうだ。
もし冒険者では手に負えなかった場合は、王国騎士団に討伐要請が来る。
そして王国騎士団でもダメな場合に俺の所に来る仕組みになっている。
あまり全てを何でも総隊が処理していると、冒険者ギルドの意味もなくなり、街のシステムが機能しなくなってしまうからだ。
その過程で起きた悲劇は、残念だが必要な犠牲だと言うしかない。
冒険者もリスクの上で覚悟と誇りを持ち、その職業を選んだのだから。
「おぉぉぉ!!! お前達はさっき森で会った学生じゃないか!」
俺達を取り囲む冒険者たちの中に、森で俺達に忠告をしてくれた男がいた。
俺は改めてその男に礼を言う。
あの時忠告を聞き、撤退を決め、周囲に注意を払いながら行動した結果、いち早くファイア・ウルフの襲撃を察知できたからだ。
もしあの時、気軽な気持ちのまま襲撃を受けていたら…… と思うとゾッとする。
あの時の最悪の事態は、四人がパニックに陥り、バラバラに逃げだす事だったのだから。
「いや~、すまなかった! こんな強者にアドバイスしたとか…… ホント恥ずかしい!」
この冒険者の謝罪に、ミゲルとシャルマは『ハン! 我々の力を思い知ったか!』と自慢げにファイア・ウルフを見せびらかしているが……
『あのしゃがみ込んで震えていたのは誰だったっけ?』と白い目で二人を見る。
正直、俺が居なかったら全滅は免れなかっただろう。
「いえ、アドバイス助かりました。 もし気が緩んだまま変異種に襲われていたらと思うと、背筋が寒くなります」
『ちょっとディケムさん! もっと自慢しなさいよ~!』
『ディケム殿! 我々の力なら大丈夫だったぞ!』
などと、外野がうるさいが、俺は丁寧にお礼を言っておいた。
「俺は冒険者パーティー【黒の牙】の『ダーヴィヒ』だ。 この界隈じゃ少しは名が通ってる! お前らに偉そうに言うのもなんだが…… 冒険の事で分からない事が有ったらいつでも頼ってくれ」
『はい!』と俺は素直に返事をしておいた。
それは、この縁は大切にした方が良いと思ったからだ。
【黒の牙】と言えば、結構有名な冒険者パーティーだ。
シャンポール王国では、【地勢方位四神相応】になぞらえて例えられる事が多い。
そして四神相応の色は『黒・白・赤・青』だ。
王都を守る四門守護者が、ソーテルヌ総隊の黒・白・赤・青の王と言われている。
そして民衆の守り手として、四つの冒険者パーティーがあると聞く。
それが【黒・白・赤・青の牙】という『牙隊』だ。
この『ダーヴィヒ』をリーダーとする冒険者パーティーがその『牙隊』の中の一つ、【黒の牙】らしい。
ダーヴィヒにお礼を言い、冒険者ギルドの受付に獲物二体を見せる。
「確かに変異種のファイア・ウルフ二匹、確認いたしました。 こちらが報酬になります」
渡された報酬は、金貨一〇〇枚。
変異種のファイア・ウルフの懸賞金が金貨五〇枚。
今回二匹討伐で金貨一〇〇枚。
平民の一ヵ月の収入が金貨五~一〇枚だから……
平民の収入一年分以上の金を得た事になる。
「あの…… 皆様、冒険者カードをお持ちでは無いと言う事は、冒険者ギルドには登録されていないのでしょうか?」
「あ、はい。 懸賞金を貰うのに、ギルドの登録は要らないですよね?」
「はい。 問題ありません。 ですが…… これほどの獲物を獲得されて、登録しないのはもったいないかと思いまして……」
「勿体ないとは?」
「はい。 冒険者カードには個人の戦績と参加されたパーティーでの戦績が記録されます。 この変異種のファイア・ウルフですとCランク級の脅威度は有ります。 冒険者ランクを得るためにはテストや推薦のうえ審査がありますが、今まで成し遂げた戦績、倒した魔物のランクが大きく影響致します。 今回このCランクの獲物を登録しておけば、いつか必要になった時の貯金となるでしょう」
うっ…… 俺以外の四人が爛々とした目で俺を見てくる。
しかし、俺はララ達と冒険者パーティーを組むと決めている。
弟のダルシュとも約束しているし……
「あの…… 『参加したパーティーでの戦績』と言っていましたが。 複数のパーティーに所属する事は可能ですか?」
「はい勿論です。 助人としてソロで活動する冒険者も多いですから。 冒険者カードは個人カードになります。 カードのパーティー欄に複数登録する事も、ソロとして参加したパーティー情報を乗せる事だけでも可能です。 載せた戦績を削除する事も隠す事も出来ますが、削除した場合は戦績の再登録は出来ません」
さらに四人が爛々とした目で俺を見てくる。
ま、まぁ…… ララ達とパーティー組めるなら良いか……
俺が頷くと、シャルマが『じゃ~お願いしま~す!!!』と意気揚々と申し込んでしまった。
「かしこまりました。 冒険者パーティーとしての登録はいかが致しますか?」
「お願いします!」
「おい! ちょっとま――………」
「「「お願いします!!!」」」
ちょっと! フュエ王女!!!
俺以外の四人が賛成することにより……
『パーティーの大切な決め事は多数決で』の決まりで可決してしまった。
「かしこまりました。 ではパーティー名はいかが致しましょう?」
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
名前なんて考えていなかったと困惑するシャルマ達だったが……
「あの…… 【レクラン】って駄目ですか?」
フュエ王女という意外な人から提案が出た。
「どう言う意味なの?」
「宝石箱って意味なんです。 このパーティーは私の夢が詰まった宝石箱ですから」
⦅………………⦆
「うん、良いんじゃない!」
「ウンウン良い!」
「なかなか平民にしては悪くない名を考えるではないか?」
「ありがとう!」
『私の夢が詰まった宝石箱』
今まで王女として不自由なく育てられたが、自分の夢を見る事を許されなかった王女。
それは自由に生きて来た俺からすると、絶望でしかない。
その言葉を聞いてしまったら……
『俺はこのパーティーには入りたくない』とは言えなくなってしまった。
「それではパーティー名は【レクラン】で登録致します。 リーダーはどなたにしますか?」
みなが俺の顔を見るが、さすがにそれだけは譲れない。
俺が首を横に振ると、さすがに皆俺の気持ちを察してくれたようだ。
「ほんとはディケムさんにお願いしたいけど…… 私達の保護者的な感じだもんね。 パーティーに参加してくれただけでも良しとしなきゃね! それでは私が立候補します!」
そう言い、シャルマが引き受けてくれた。
「それではリーダーは『シャルマ』さんで登録しておきます」
「あと…… この度【レクラン】がパーティーとしてギルドに登録されましたので、懸賞金をギルドのパーティー金庫に預けておくことが出来ます。 ギルド金庫に預けておけば、人族の各国のギルドで引き出す事が可能です」
「おぉぉぉ! なんて便利な!」
「お前達は庶民だからお金が必要なのではないのか?」
「問題ない」
「はい、私も問題ありません」
シャルマとフローラが問題無いと言う。
この二人…… やっぱり良いところの家柄なのだろう。
俺とフュエ王女も『問題ない』と言う事で、今回の懸賞金はギルド金庫に預けられることになった。
「最初の登録事項はこれだけですが、他の事は【冒険者カード】を受け取った後マニュアルをお読みください。 【冒険者カード】は明日には出来上がっておりますので、時間がある時に揃っておいでください」
「「「「は~い」」」」