第一章29 記憶
俺はマナに深く繋がるために瞑想に入る。
マナとは全てのエネルギーで、この星そのものだ。 人も精霊も全ての生き物が死ねばマナに帰る……。
俺も前世で死んでマナに帰り、また人族に生まれ変わったのか……?
前世では人族ですらなかったのかもしれない。
マナは全てのエネルギーであり、記憶でもある。
この膨大なエネルギーの中から、たった一人の記憶を探し出さなければいけない……。
そんな事出来るのか?
俺は深く深層に沈み込み、マナに繋がるラインをたどり、大いなるマナにたどり着く。
前世の記憶―― どうすればいい………?
前世と言っても基本は俺自身の魂だから、同じマナのエネルギーなはずだ。
俺がマナの本流に繋がっているように、俺自身も今までの俺の記憶に繋がっているはず。
そう言えば、ラローズさんがウォーターエレメントと契約した時、結界内のマナの濃度密度を高くしたな……
俺はもっと集中し、自分のマナの濃度、密度を上げていく……
どんどん自分のマナの密度を上げていく…… すると!
微かに自分のマナと繋がっている線が見えてくる!
――これか!?
俺はその微かなマナの線を、絡んだ糸をほぐす様に、慎重に少しずつたどる。
少しずつ、少しずつたどると…… 一つの小さなマナの【珠】にたどり着く。
その珠からはさらに線が繋がり次の珠へと、珠数のように連なっている。
俺はゆくりと珠に近づくと、珠からはとても温かく心地がいいマナの光を感じる。
(――この珠が俺の前世の記憶なのか?)
あまり悩んでも答えは出ない、俺は勇気を振り絞り、そっとその玉に触れてみる……
ッ―――!
一瞬、電気が走るように、俺の頭に記憶が流れ込んでくる!
(ッ――っわ!)
俺は弾かれるように、珠から手を放す!
な、なんだ今のは!! 今のが俺の前世の記憶なのか?!
ほんの一瞬、その一瞬で、俺の知らない記憶が膨大に流れ込んできた。
いや………、記憶だけではない、今俺に記憶と一緒に前世で培った経験も流れ込んできた!
過去の自分のマナから記憶だけではなく、経験まで引き出すことが出来るのか!?
こんなの…… だがもし出来たとしても、今の俺に前世の記憶と経験を全て受け入れられる魂の器の大きさが足りない!
十歳の魂に、前世の数十年、いやあるいは数百年分の記憶と経験がなだれ込んだら……
魂が壊れて廃人になってしまうだろう。
元は同じ魂、触るだけでその事を感覚で理解してしまう。
だが、そのリスクとは裏腹に、人の欲望は果てしない。
目の前に大きな力が有れば、その全てを手に入れたくなるもの……
ッ――ダメだ! 焦るな!
前世の経験は欲しいが、これは非常に危険だ。 魂の器の成長に合わせて徐々に行うんだ!
今は断片だけ……、 まずはサラマンダーが納得する程度だけ読み取れれば良い!
そして、俺はもう一度ゆっくりと【前世の珠】に触れてみる。
⦅………魔神………ラフィッ………将軍………死………人族………剣鬼………鬼丸国・金翅鳥王剣…………… …… …⦆
前世の記憶と、前世で培った経験が俺の中に雪崩れ込んでくる―――!
『ッ―――こ、これは!』
『こんな事が…… あり得るのか? 出来てしまうのか? 俺の前世は【魔神族】 そして剣士だった! 剣士だった時の記憶と経験が入ってくる――』
≪――――金翅鳥王剣――――!≫
『俺が好んで使っていた奥儀の1つ! ――もっとだ! もっと知りたい! もっと吸収したい――! ………グハッ!!』
弾かれるように俺は前世の珠から離れる。
………うっ、少し無理をしたようだ。 体がきしむように痛み、悲鳴を上げている。
これ以上は無理だ。 体、脳、魂が耐えられない。
これで俺は、マナの本流から離れ戻ることにした。
戻る前にもう一度、マナの本流を見渡す。
ここには、ありとあらゆる知識と経験が詰まっているのか……
ラフィット、あなたは俺に何をやらせたいんだ………。
ぶはっ―――! ぜぇ…ぜぇ………
俺は瞑想から目覚め、大きく息を吸い、呼吸を整える。
まるで水の中を、息を止めて深くまで潜っていたようだ。
落ち着いたところで、サラマンダーを見てニヤリと笑う。
「――ほほぅ~ やったのか?!」
「はい! だけど……… 今の俺には受け入れられる器が小さく、少ししか持ってこられませんでした」
「………ん? 持って来るとはなんだ?」
ウンディーネがサラマンダーを見てニヤリと笑う
「―――ま、まさか小僧! お前! 本流と繋がっているのか?! ウンディーネ! 持って来るとはどう言う意味だ、普通ならばマナの中の記憶を覗くことしか出来ぬはず! この小僧が前世の経験も引き出したというのか?!」
「少しだけですが………」
サラマンダーが目を見張る!
「俺は前世で魔神だったようです。 そして剣士でした。 好んで使っていた奥儀が金翅鳥王剣という技でした」
俺は荷物に入っていた、護身用の剣、王国騎士団第一部隊にもらった兵士用の剣を取り出し、壁に向かい構え、呪文を唱える――!
「天・元・行・躰・神・変・神・通・力………」
俺はマナの本流からマナを供給し、全身にマナを巡らせ、剣にマナを溜めて行く。
剣の刀身が光を帯び、臨界点まで達する。
剣とは別に、体を巡るマナから呪文による【氣】を練り出し、氣魄珠を一〇個ほど作り出す。
そして俺は奥儀を発動する――!
≪―――奥儀! 金翅鳥王剣!―――≫
マナから練り出した、氣魄珠一〇個が打ち出される!
それと同時に刀身に臨界まで蓄積されたエネルギーが必殺の斬撃として打ち出される!
ゴオッ──!!!! ドオオオン—————!!
氣魄球と斬撃が狙った壁でちょうど重なり共鳴破壊を起こす!
氣魄球一つ一つと斬撃が共鳴しあい、斬撃の威力は十倍、百倍、千倍と上がっていく!
膨れ上がった衝撃波で壁が爆散する。
ズッ——ガガガガガガッ———!!
(あああああああぁ……… ヤバイヤバイヤバイ————)
衝撃で地震が起きる……… 爆散した壁が崩れ落ち大惨事になってしまった。
瞬時にウンディーネが結界を張り、俺を爆風と瓦礫から守ってくれた。
「あ…… あれ?………」
撃った自分がビビる威力だった……… こんな大惨事になるなんて………
土煙が落ち着くと、洞窟は爆散し瓦礫の山だった。
俺たちは辛うじて結界に守られ難を逃れた。
「こ、これは………」
サラマンダーもウンディーネも目を見開き驚いている!
瓦礫の上で『やり過ぎじゃ……』とウンディーネが白い目で見てくる。
だけどこの惨状を見て、サラマンダーは満面の笑みだった。
「――合格だ! 気に入った! ディケムと言ったな、お前と契約をしよう!」
(おぉぉぉぉ――!! やった―――!)
「ウンディーネと一緒は気に食わぬが、それを補って余りある結果をお前は示した!」
サラマンダーは満足げな笑みを浮かべ、俺に向き合う。
俺は契約魔術の詠唱を行う
“サラマンダーに告げる!
我に従え、汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に! マナの寄る辺に従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう——!”
≪——συμβόλαιο(契約)——≫
サラマンダーから灼熱の炎が溢れ出る。
そして熱気が辺りを埋め尽くした。
『ディケムよ、オヌシとの契約を裁可する!』
サラマンダーの返答が聞こえると、自分のマナに燃え盛る炎のような力強い熱が灯るのを感じた。
精霊サラマンダーと俺のマナが繋がり、契約が成立した。
「ディケムよ、これからはお前がワシの主だ、サラマンダーと呼び捨てで呼ぶが良いぞ!」
「よろしくお願いします。 サラマンダー」
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