第一章2 小さな古本屋
俺は今日もいつもと同じ木こりの手伝い。
「この歳でここまでうまく木をあつかえるなんて、お前は天才だ!」
父さんにはそう絶賛されている。
木の節を見極め木に斧を叩きつける!
角度や力の入れ具合など自分で言うのもなんだが、父のアランよりセンスが良いと自負している。
今日もてきぱきと仕事を片付け、すぐに家に帰る。
そして午後からは俺の一番の楽しい時間だ!
村唯一の小さな古本屋に走って向かう。
村のほとんどの人は文字が読めないし、そして本はとても高価な物だ。
だから当然村唯一の本屋はほとんど商売になっていない。
どうして潰れないのか不思議でしょうがない。
本屋の店主の名前は【オーゾンヌ】。
昔とても有名な魔法使いだったそうだが、今は老後に趣味で本屋をやっているのだとか……。
そんな眉唾な噂を聞いたことがある。
そして、もちろん貧乏木こりの我家には高価な本を買うことなどできない。
だから俺は毎日毎日、本屋に通い入り浸っている。
ほとんど客の居ない趣味でやっている本屋だから、俺が本を買えない事を知っていても入り浸る俺をオーゾンヌは怒らない。
本好きは、本好きの事を嫌わないのだ。
俺が毎日まいにち本屋に通っていると、次第に俺はオーゾンヌと親しくなっていった。そしてある時から、稀に店番を頼まれるようになった。
オーゾンヌに俺の立ち読みは正式に許可されたというわけだ。
それから俺は木こりの手伝いの後は本屋に通い、本を読みたいが為に本を読みながら文字を独学で覚える生活を送り始めた。
本にはいくつかの言語がある。
殆どの本は現代語で書かれているが、古い書物の中には古代語で書かれているものもある。
好きこそ物の上手なれと言われるように、俺はどうしてもその本を読みたくてオーゾンヌに習ったり、文脈で理解しながら少しずつ解読して、いつしか古代語も読めるようになっていた。
大好きな本を読み漁る毎日は、店番を頼まれているものの客などほとんど来ないので、集中して本に没頭することができる。
いつしかこの店のほとんどの本を読み尽くし、お客が来たらオーゾンヌよりも本を探すことが出来るようになっていた。
今日も一仕事を終えて本屋に向かうため走り出すと、幼馴染達に声を掛けられた。
俺には生まれた年が同じの幼馴染が三人いる。
俺達三人はいつも一緒だった。
この時はまだ、まさかこの三人と村を出て共に世界中を飛び回り、様々な冒険をする事になるなど考えもしなかった。
武器屋の息子の【ディック】
道具屋の息子の【ギーズ】
パン屋の娘【ララ】
ディックは四人のリーダー的存在で、冒険ごっこではいつも勇者の役をやっている。
髪型は小麦色に近い金色で短髪、瞳は夕陽の様な朱色で、背はグループの中で一番高く、筋肉質タイプだ。
ギーズの髪は影の差した水の様な深い青色で短髪、瞳も同じ色をしている。背は普通の瘦せ型で気が弱く、ディックの後をいつも付いて回っている。
つねに一歩引いた視点で、四人組の調整役た。
ララは平均くらいの背丈で痩せ型。髪は晴れた空の様な澄んだ水色のロングヘアーで、お祝いの日にしか食べれないクッキーの様な薄茶色の瞳をしている。俺たちにとって妹的な存在だ。
実際はルルという一歳年下の妹がいるので姉なのだが、ルルよりも天然でおとなしく放っておけない感じだ。
ちなみに俺の初恋の女の子でもある……… いや俺たち三人の初恋の女の子だ。
そして俺は…… 黒髪の短髪で、瞳についてはララいわく近所に住む野良猫の、闇夜で光る金色の目に似ているらしい。
性格は奔放で我が儘を言いがち。
本当ならば皆に仲間外れにされてもしょうがない性格をしていると自覚している。
しかしディックは、むしろ俺が孤立しないように、いつも気遣ってくれていて、ほんとうに頭が上がらない。
村では午前中は皆、それぞれの家の手伝いをする。
手伝いが終わり、午後になると皆で集まりいつも遊ぶ。
勇者ごっこや近くの森の冒険に出かけるのが主だ。
俺も本屋に通うようになるまでは、いつも皆と一緒に遊んでいた。
でも今はどうしても本を読みたい! 一分一秒でも無駄にしたくない。
俺が本屋に向かい走り出すと、三人が集まっている。
『ディケムもたまには来いよ――!』とディックに声をかけられたが、俺は『ゴメン! また今度な!』といつものように謝って本屋に駆け出した。
三人とも少し寂しそうな顔をするけれど、俺に無理強いはしない。
俺はいつも自分のやりたいことのために、三人との付き合いを犠牲にしているのに、断っても、断っても、いつも誘ってくれる。
「またか! しょうがないな〜またな!」
少し不貞腐れるけど、今日もすぐに笑って見送ってくれた。
ほんと、俺には過ぎた大切な友達だ。
今日もまた本屋で店番という名の読書をする。
二時間ほど本を読みながら店番をしていると、入り口に人影が見えた。
珍しくお客さんが来たようだ。
「いらっしゃいませ! 店番のディケムです。 何かお探しの本があれば――…… なんだ! ララじゃないか」
お客さんだと思ったら、ララが店の中に入ってきた。
もちろん、俺と同じくお金が無いララがお客さんのはずもなく、ただの冷やかしだろう。
「どうした、何か用か? ララ」
ララが一通り店内を見回した後で言った。
「ディケムがいつも、楽しそうに走って向かう本屋って、どんなところなのかな~って」
「こんなところでがっかりしたか?」
ララは首を振り、なぜか嬉しそうに答える。
「ううん、本当は本屋に素敵な女性でもいるのかと思ったけど………、本当に本しか無いみたいね」
「悪かったな! 色気がなくって」
「よかった……」
「ん?何か言ったか?」
聞き取れなかったので聞き返したのだが……。
「な、なんでもない!」
そう、ララにはぐらかされた。
しばらくララは本を手に取って、中を見ていたが……
「やっぱり本は何書いてあるかさっぱり分からないから帰るね」
ララも他の人達と同じ様に、文字の教育など受けてはいない。
「あぁ、またなララ! 気を付けて帰れよ」
ララは手を振って帰っていった。
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