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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章13 異変

 

 俺たちは森へ分け入って行く。

 ひたすら獲物を探して、森を歩くが……

 一向に『ファイア・ウルフ』どころか他の魔物とも出くわさない。


 魔物とは出くわさなかったけど、この広大な森の中で何人かの冒険者パーティーとすれ違った。

『ファイア・ウルフ』討伐はこの季節の風物詩だ。

 王都の露店も『ファイア・ウルフ』の肉と毛皮で席巻される。

 それくらいこの季節の魔の森の玄関口、森の表層エリアには冒険者と貴族のハンターで溢れかえっている。

 正直、魔物の危険を心配するというより、獲物争奪戦の様相を呈していた。


 ⦅でも……これは少しやり過ぎじゃないのか? 間引きと聞いたが、これじゃ蹂躙だ⦆


「これは…… 戦果無しの確率高そうだな」

「そんなぁ~ せっかくお小遣い使って装備も色々買って来たのに~」


 ⦅そんな遊びに来たみたいに…… 一応ファイア・ウルフ討伐は多少なりとも危険をともなうクエストなんだが⦆


 シャルマとミゲルが、魔物と遭遇出来ない事に駄々をこねだす。

 俺は、癇癪(かんしゃく)を起す子供をあやすように、二人を宥めながら歩いていると、先ほどすれ違った冒険者とまた出くわす。

 すると突然冒険者から声をかけられる。



「おうお前ら、さっきも会ったよな。 お前ら学生だよな?」

「なによ! 学生じゃダメだと言うの?」


 獲物と出会えないシャルマが、癇癪(かんしゃく)そのままで冒険者に食って掛かる。


「おぃおぃ、喧嘩したいわけじゃ無い。 ただ少し気を付けろと言いたいだけだ」

「なによ! 気を付けるどころか、一匹も魔物いないじゃない!」


「あぁ、そうだ。 こんな事はおかしい! 例年の狩りはこれほど狩りつくさない。 森のバランスが崩れるからな。 それに見慣れない冒険者も多数見た。 なにかおかしな事が起こっている」


「おかしなこと?」


「あぁ。 何事も無ければいいが…… とにかくお前らはまだ経験が浅い。 出来れば狩りは中止する事をお勧めするぜ」


「わかった! 忠告ありがとう」 


 喧嘩腰のシャルマに変わり、俺はその冒険者に丁寧にお礼を言って別れる。



『………………』 俺は少し考える。


「ディケム様?」

「引き上げだ!」


 『えっ!』 シャルマとミゲルが『ウソでしょ?』と不満を漏らすが、フュエ王女とフローラが俺に賛同し、多数決で引き上げる事になった。


「ディケムさん、あなたは私達より戦闘経験豊富だから従うけど…… 『おかしな事』が起こっているなら、それを突き止めてやろうとか考えないの?」


 狩の中止に不満げなシャルマが聞いてくる。


「もしこのパーティーが何度も死線を共にしたベテランパーティーなら、そうしたいが…… 一度も一緒に戦った事が無いこのパーティーで挑むのは、思い上がりと言うものだろう」


「…………。 危険から逃げてたら、死線なんて共に出来ないじゃない」


 シャルマ、ミゲルは文句を言いつつも、最終決断は俺に従ってくれた。

 チームリーダーはシャルマだ。

 しかし危険を感じた時の決断は多数決で決める。




 だが、撤退はすでに遅かった!

 俺達が急ぎ来た道を引き返していると……

 崖の上に一匹の『ファイア・ウルフ』が姿を現す!


 ⦅はぐれファイア・ウルフ!? 嫌な予感しかしない……⦆


 その『ファイア・ウルフ』が、俺達からかなり遠い崖の上に居るのにも関わらず、『チラリ』と俺達を見た!



「ッ――! 戦闘態勢!!!」

「「「っえ!?」」」


 俺の号令に、皆が戸惑う。


「ちょっと! ディケムさん? 流石にあんな遠くのたった一匹の『ファイア・ウルフ』が襲ってくるとか…… 向こうが逃げ出したんじゃないですか?」


「いや…… あいつは確かに獲物を狩る目で俺達を見た。 みんな気を引き締めろ、あれは()()()の可能性が高い!」


 『ゴクッ……』 ()()()の言葉に、みな息を呑む。


 戦闘陣形

 前衛は俺がタンク、そして戦士ミゲル。

 後衛がシャルマ、フローラ、フュエ王女。


 白魔法師中心のパーティー。

 正直、こんな編成あまり聞いた事ないが、タンクの俺がしっかりしていれば問題ない。

 特に今回は変異種のはぐれファイア・ウルフだ。

 数で来られるより強い一匹の方がよっぽど守りやすい。



 チリッ……


 突然何もない俺たちの前に、火の粉が爆ぜる。

『え?』 シャルマが怪訝な顔をした次の瞬間!


 ゴォォォォォォォ―――………!


「きゃあああ!!!」


 俺の構えた盾に強力な火炎が吹き付ける!


 だが、俺のミスリルの盾が完全にファイア・ウルフの『火炎の息(ファイア・ブレス)』を防ぐ。

 シャルマ達が『ほっ』と安堵の息を吐いた瞬間!


 ゴォォォォォォォ―――………!

 ゴォォォォォォォ―――………!


 連続で『火炎の息(ファイア・ブレス)』が盾に叩きつけられる。


「気を抜くな!  連続の『火炎の息(ファイア・ブレス)』とこの火力! 変異種確定だ!」


 変異種確定の言葉に、みな息を呑む。


「で、でも…… なんでそんな変異種が私達学生を狙って来るの? たまたまとか出来過ぎじゃない?」


「いやむしろ学生だからだ! 魔獣も猛獣も狩りをする時は弱い子供を狙う! 食べるためには、より狩の確立の上がる弱いものを狙うのは動物の本能だ!」


 ゴォォォォォォォ―――………!

 ゴォォォォォォォ―――………!


 説明している間にも、二度三度と『火炎の息(ファイア・ブレス)』が俺の盾に吹き付けられる。


「それにしても…… なんでさっきからディケムさんの盾ばかりに攻撃を?」

「バカミゲル! ディケムさんが『火炎の息(ファイア・ブレス)』の来る場所に動いてくれてるの! 見てればわかるでしょ」


 ミゲルの質問をシャルマが一蹴する。

 俺は周囲のマナを感知し、ファイア・ウルフの位置を正確に把握している。

 他に魔物がいない事もわかっている。

 あとは『火炎の息(ファイア・ブレス)』は直線攻撃。

 来る方向がわかっていれば防ぐのは簡単だ。



 さて、問題はどうやってファイア・ウルフを倒すかだ。

 俺が倒してしまったら…… ダメだよな。

 俺がソーテルヌ公爵だと気づかれる危険は避けるべきだ。

 フュエ王女の素性も知れてしまうかもしれないからだ。


 などと俺が悩んでいると、フローラが『凍結(フリーズ)』の魔法を放つ!

 しかし小さな氷の球は、ファイア・ウルフに届く事も無く、途中で失速し消滅した。


「………」 「………」 「………」 「………」


 学生の魔法などこの程度だと分かってはいたが……

 この程度の魔法では到底ファイア・ウルフは倒せないだろう。


 そして次にシャルマが俺たち全員に『防御(プロテクト)』の魔法をかける……

 だが、シャルマの魔法が不発する!


「っえ?! うそ………」

「シャルマ、焦るな! 落ち着けば大丈夫だ!」



 しかし……


 ワオ――――――ン!!!

 ワオォォォォ――――――ン!!!


 ファイア・ウルフの遠吠えに、遠くから答える声が聞こえてくる。


 そして……

 俺のマナ感知が、もう一匹のファイア・ウルフを感知する。


「みんな、悪い知らせだ! ファイア・ウルフがもう一匹来るぞ!」

「そ、そんな!」

「まさか…… もう一匹は普通の個体よね!?」


 だが、もう一匹のファイア・ウルフからも火炎攻撃が飛んでくる。


 ゴォォォォォォォ―――………!


 その威力と規模は、先ほどと同じ……

 変異種に違いない。

 俺が防いだ『火炎の息(ファイア・ブレス)』の威力を見て、説明しなくても皆、理解する。


「え……? うそ! 嫌ッ!!! 『凍結(フリーズ)!』」

 今度はフローラの魔法も不発する。


「………」 「………」 「………」 「………」


 このパーティーはメンタルが弱い。

 シャルマ、フローラ、ミゲルが見る見る顔色を青くする。


 ⦅マズいな…… みなパニック寸前だ⦆



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