第六章12 ファイア・ウルフ討伐クエスト
みなの装備と魔法を確認したところで、俺達は出発する。
冒険者は普通、ファイア・ウルフ討伐依頼の森の最寄り村まで、乗り合い馬車に乗る。
貴族は自分の馬車で移動するが、もちろん俺達は乗り合い馬車に乗る。
まぁ…… 六人乗りの馬車に五人パーティー、ほぼ貸し切りだ。
ファイア・ウルフ討伐は、普通パーティーを組む冒険者には初級の討伐クエストとなる。
だが群れを作る魔物との戦闘は、パーティーの人数と魔物の数により、危険度は飛躍的に変化する。
どれほど低級の魔物でも、数が揃えば数の暴力となるからだ。
ファイア・ウルフが初級の討伐クエストと言われるのは、たいてい三匹 多くても四匹程度のコロニーしか作らない事から言われている。
しかし、もちろん物事には例外というものがある。
ファイア・ウルフの例外として有名なのが主に三つ。
一つはギーズが重傷を負ったはぐれファイア・ウルフ。
この個体に関しては、普通ならば群よりも単独の為扱いが楽な筈だ。
だからギーズもむしろはぐれファイア・ウルフを狙っていた。
でも、ごく稀に異常に強くなった個体が現れる事がある。
この異常変異個体の原因はまだわかっていないが、俺たちのワイバーンが突然変異したように様々な要因があるのだと思う。
変異種に関しては、その強さを討伐グレードで測ることは難しい。
そしてもう二つ目は、繁殖する為のコロニーが異常な規模になった時だ。
これは俺も戦士学校のダンジョン十二階層で経験済みだ。
数の暴力の前には、人は無力な獲物と化す。
あの草原のような広大なエリアで、数えきれない狼の群れに追われた恐怖は今も忘れられない。
そして最後の三つ目は、ごく稀に魔物のコロニーと他の魔物が共生する場合がある。
共生するということは、お互いの弱点を埋め合わなければ成立しない。
大抵は、数は多いが個としての弱者が、個としての強者と共生し、数の優位性を最大限に発揮させると言うものだ。
人族には良くある話だ。
数の優位が通用しなくなったとき、『先生お願いします!』と助人が出てくるアレだ。
俺は注意点を皆に話し、三歳ほどの年の功で無理をしない事を皆に約束してもらう。
この冒険の主役は彼ら四人だ、俺はあくまで助人で、あまり出しゃばるつもりは無い。
「ディケムさんは、ミスリル武器を持っているという事は、相当ランクの高い冒険者なのですよね。 ミスリルは冒険者にとって憧れの装備だと聞きます」
「いえシャルマさん、運が良かっただけですよ。 たまたま見つけたダンジョンで、たまたま宝を見つけただけです。 そのダンジョンは昔、竜が住み着いていたらしく、今は骨だけが残っていました。 もしマスターが居るダンジョンとかだったら、俺なんかが手になど入れられないですよ」
(嘘である。 そんな簡単にミスリル武器が手に入れられる筈がない)
そんなラッキーな事も有るのだと、冒険に期待値爆上りのミゲルとシャルマに心の中で謝罪する。
それにしても……
フュエ王女の指輪を見てから、フローラの様子が少しおかしい。
心からはしゃぐミゲルとシャルマとは違い、どこか上の空だ。
「ミスリル装備フルセットが冒険者の目標だと聞きます。 あの英雄ラス・カーズ 様ですら、フルセット持っていないとか」
今ウチの総隊では、アウラの力でミスリル鉱石の埋蔵地層を見つけ出し、鉱石を採掘しミスリルインゴットの作成に取り掛かっている。
だが問題はミスリルインゴットからミスリル武器を作れるのがレジーナだけだと言う事。
まだとても量産できるとかそう言うレベルじゃ無い。
俺がそんな事に物思いに耽っていると……
それまで俺にピッタリと張り付いて、中々自分から会話の輪に入る事を躊躇っていたフュエ王女が、少しずつ自分から会話に参加するようになっていた。
彼女にとって初めての友達。
シャルマもフローラも、そしてミゲルもフュエ王女を友人として接してくれている。
その特別扱いされない普通のことが、フュエ王女にはとても特別なことに思えているのかもしれない。
いつも自分を抑えて受け身だった彼女が、自分から積極的に話に参加している。
先日のライバル宣言の時は、全くいつもの彼女のイメージと違い驚いたが、本当の彼女はもっと、活発で積極的な女の子なのかもしれない。
この冒険で彼女たち四人の仲が、もっと深い仲になる事を俺は願う。
俺たちのパーティーで独占した乗り合い馬車が目的地に着く。
俺達がこれから向かう討伐エリアは、王都北の街道沿いの森。
この森は、オーヴェルニュ火山の麓、『魔の森』へと続く玄関口。
森深く立ち入れば、ポートの兄のティラー部隊が全滅したように、強力な魔物が住み着く、上級冒険者でも危険な場所。
しかし、この広大な『魔の森』は、三~四日歩く程度ではまだ、『魔の森』の玄関口でしかない。
森の玄関口に出没する魔物など、商人のキャラバンでも対応できる程度だ。
討伐目標のファイア・ウルフも、名前に『ファイア』と付いているが、そうは炎を吐かない、いや吐けないのだ。
ギーズが遭遇したはぐれファイア・ウルフは何度も炎を吐いたと聞いた。
それは本当に運悪くなのか、幸運なのかは分からないが、先ほども注意した、異常個体に遭遇してしまったのだろう。
ギーズはそのおかげで、『火炎の息』をラーニング出来たのだから、魔法師としては幸運と考えた方が良いかもしれない。
青魔法師界隈でも、なかなか『火炎の息』を使える魔法師は少ないからだ。
だから、『ファイア・ウルフ』討伐も、ほぼ狼の群れ三匹くらいの討伐と思えばいい。
炎を吐かれたとしても、普通の個体は人を殺せるほどの炎など吐けない。
白魔法師が居れば、問題無いだろう。




