第六章8 お友達との食事会
東の教会での講習会を終え、フュエ王女は仲良くなったシャルマとフローラと一緒に、二日後に開催される西の教会での講習会予約の申し込みを済ませた。
そして、あれほど最初に難癖付けていた中級貴族のミゲルも次回の予約をしている。
まぁ…… 思う所は有るけど、マディラ達の努力が認められたようで嬉しかった。
『さて、何処で夕ご飯食べる?』
⦅ん? シャルマさん? なんで当たり前のように食事に行く事になっている?⦆
「そうですね、この東の教会に来る途中に橋を渡ったのですが、そこの川沿いのテラスがあるカフェ、雰囲気良かったです。 教会とお城が見えるし、シャンポールの水路って凄く綺麗だからあそこ良いなって…… どぉですか?」
⦅ちょっとフローラさん? 『どぉ?』って言われても…… なぜ食事の下りに疑問を持たない?⦆
「良いわね、フュエとディケムさんも良いでしょ?」
⦅だから勝手に食事の話を進めるのは――……⦆
「はい! よろしくお願いします! いいですよね? ディケム様!」
「…………。 あ、はい……」
な、なんだ?!
当たり前のように食事に行く下りに違和感を覚えているのは俺だけか?
急に知り合いになったばかりのシャルマとフローラと一緒に夕食を食べに行くことになった。
すると……
「おいお前ら! 俺もつきやってやる、感謝しろ!」
突如、中級貴族のミゲルから声をかけられる……
⦅おぉ! マジかお前! 勇者か? 勇者なのか?!⦆
「はぁ? なんで私達があんたなんかと…… でも……まぁ、ディケムさん男一人だけだと辛いか!?」
「そうですね、ミゲルとやらも途中から講義、真面目に聴いていましたし。まぁ、良いんじゃないですか」
⦅ちょっ! 君達…… 良いのか? 本当にそれで良いのか?!⦆
そんな事で、俺とフュエ王女は、シャルマ、フローラ、ミゲルと『なぜこうなった?』と言いたくなるメンバーで一緒に食事に行くことになった。
それにしてもこのミゲル…… 何かを嗅ぎ取る才能でも有るのかもしれない。
俺達は橋の横にある川沿いのカフェに入る。
ここはカフェテラスがあるお洒落なカフェだが、夕食時にはお茶だけではなくしっかりした食事も食べられるそうだ。
俺達はそれぞれ好きな食事を頼み、話をする。
「それでは改めて、私はシャルマ! 才能は白魔法で――……って、今日の講習会は白魔法だから、みんな才能は白魔法よね! 一応、白魔法でも防御補助系を得意としているわ」
「私はフローラ。 同じく才能は白魔法だけど、攻撃補助系を得意としています。 黒魔法も少々使えるわ」
「俺はミゲル・ロッソ。 才能は剣士だ! 実戦用に白魔法も学んでいるから、本職の魔法師はどれほどの魔法を使えるのか見に来てみたが…… やはり大した事無かったようだな! もちろん俺は剣士としても一流だぞ!」
相変わらずミゲルの物言いは鼻に着くが、才能が剣士なのに『回復』を勉強していると聞き、みなそれなりに感心している。
「私はフュエ。 才能は白魔法だけど……まだ習い始めで全然ダメダメです」
そして皆が俺を見る……
「俺はディケム。 戦士のタンク職だ。 魔法も少々使える」
「…………」 「…………」 「…………」
フュエ王女以外の三人が、胡散臭そうな目で俺を見る。
「『魔法も少々』って…… なんでタンク職のあなたが、あんな『回復』使えるのよ! 正直あんな凄い『回復』見たこと無いわ!」
『ウンウン』とフローラとミゲルも頷く。
「まぁ、良いじゃないか。 あれはたまたま偶然にできただけだ。 偶然に!」
そんないい加減な言い訳は、もちろん三人共信じないが……
皆それぞれ隠し事があるようで、俺の事を根掘り葉掘りは聞かなかった。
しばらく食事を取りながらの雑談をした後、シャルマが話を切り出す。
「それで、次の講習会は二日後じゃない。 明日みんなで郊外に行って実践で練習しない? この時期は『ファイア・ウルフ』が繁殖の為にコロニーを形成するの。 行商人が襲われる被害が出るから、貴族に間引きの依頼が来るそうよ」
なるほど、シャルマはこの実践経験を積みたかったから、食事の下りで突然ミゲルも一緒でと意見を変えたのか。
実践となれば、男手は多い方が良いからな。
「お小遣いも稼げそうだし、良いわね」
「フン! 金など欲しくも無いが…… まぁ付き合ってやろう」
『…………』 フュエ王女が俺を見てくる。
正直、王女に魔物狩りなどやらせたくは無いが……
これがもし王女じゃ無かったらと考えると、行った方が経験にもなるし、友達との親交も深まる。
まぁ、俺がしっかりついて行けば、間違いが起きる事は無いか。
マルサネ王国のシャントレーヴ王女なんてダンジョンに入っているくらいだしな。
「まぁ…… 良いんじゃないか、フュエ。 その代わり、食事が終わったら少し俺の家で魔法の復習する事が条件な」
「はい!!!」
明日の早朝、王都の北門に集合する事で皆と別れ、フュエ王女と俺はソーテルヌ邸での訓練に取り掛かる事にする。
念のため、マール宰相に『言霊』を使い、今日の出来事、明日の事、明日の為にこれから訓練をする事を伝えると――
直ぐに『了承』の返事が返って来た……
⦅良いのか本当に…… 確かに【師事のやり方には一切口は出さぬ】とは言っていたが、王女が魔物狩りだぞ!? 本当に良いのか?⦆
一抹のモヤモヤを抱えながら俺達はソーテルヌ邸へと帰ってくる。
すると何故かフュエ王女は嬉しそうだ。
「夜のディケム様のお家は、『夜宴』の思い出があります。 また来られるのを楽しみにしておりました」
確かに、今ではここの常識となったが。
このソーテルヌ邸では、今の宵の口くらいの時間から、神木がほんのり光りを帯び、『ポワッポワッ』っと、精霊が遊び出す。
色とりどりの大きな蛍が飛んでいるようで、それは幻想的な雰囲気になる。
そして季節ごとに元気な精霊が異なり、今の時期だとフェンリルの眷属『真神』と呼ばれる青白い狼が群れで楽しそうに走り回る姿が見られる。
だが、フュエ王女には申し訳ないが、ゆっくりと幻想的な雰囲気に浸っている暇はない。
俺達は足早に訓練場に歩いて行く。
正直言うと俺は……
フュエ王女には、まだここの訓練場を使いたくなかった。
ここの訓練場はマナ濃度が濃く、経験値にブーストがかかる。
だが、初心者にブーストをかけた方が良いかと言うと……
俺はそうでは無い気がしている。
初心者に必要な事は、魔力でも、筋力でも無い。
例えるなら、何も知らない赤子に、アーティファクト武器を与えた所で意味が無い。
まずは基本的に立ち上がる事、しゃべる事から覚えるべきだ。
フュエ王女には魔法を使う経験、感覚、感動を覚える事の方が大切なはずだ。
だが、まぁ…… 明日実戦に行くとなると、それなりの準備をしなければ心配だ。
少しだけでもブースト使って、形だけでも作っておく必要がある。




