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第一章28 火の精霊サラマンダー


「アルザス渓谷!」

「ほんとに! あの一瞬で飛んできたのか!」

「凄い………」


 俺たちは千キロにも及ぶ距離を一瞬で飛んできた、その魔術の凄さに驚いていた。


「この崖の上なら安全じゃ、戦場も良く見えるじゃろう」


 俺たちは、アルザス渓谷が一望できる崖の上、西に人族軍、東に魔族軍の戦場を望む場所に立っている。


 俺たちがその展望に感動していると……、ウンディーネが突然、丸い水の幕を張り、大きな虫眼鏡のような望遠鏡を作くりだす。


「これで戦場がよく見えるはずじゃ、ディック、ギーズ、ララ、その方らはここから一切動かず、戦場だけを見ておれ! 一応心配じゃから、ディケムよ一体だけ妾をここに置いていけ!」


 俺は頷き、一体ウンディーネを作り出し、ララの肩に乗せる。

 ララはずっとウンディーネを肩に乗せたかったらしく喜んでいる。

 でもそれは、人形遊び的なニュアンスが強いようだ………。


「では、妾とディケムは行くぞ!」


 皆が心配そうな顔でこちらを見る。


「ディケム…… 皆で無事に帰るって、約束だからね!」

「あぁララ、必ずうまくやって帰ってくる。 期待して待っていてくれ」


 頷くララの頭を俺は軽くポンポンと撫でて出発する。


 俺とウンディーネは、しばらく森を走った後、精霊召喚でユニコーンを召喚する。

 水竜を呼び出し一気に飛んでいきたかったが、戦場で竜は目立ちすぎるからだ。 サラマンダーと契約するまでは、隠密行動に徹したい。


 ちなみに水竜は飛ぶ事自体は出来るものの、水属性のため飛ぶのが苦手で、遅くて敏捷性に欠ける。

 飛ぶ事に特化しているのは風属性の竜だ。


 召喚したユニコーンに飛び乗り、森の中を走り、崖を下り、温泉地帯の外れにある洞窟の入り口にたどり着いた。

 ここでユニコーンから降り、俺とウンディーネは洞窟の中に歩いて入っていく。


 ≪――φως(フォス)(灯り)――≫


 俺は灯り(・・)の魔法で洞窟を照らす……… 

「ッ――な!」


 そこは巨大なクリスタルの結晶が乱立する神秘的な洞窟。

 しかし、入り口付近でも温度が六〇度近くあり、湿度も九〇%以上あるだろう。

 そして温泉地特有の卵の腐った匂い、硫化水素ガスが噴出している。


 ここから奥は、さらにガスの濃度が上がり、温度と湿度がさらに上がることは想像に難くない。

 普通の生物はこれ以上進めば、死は免れないだろう。


『ディケム、水属性の膜で体を覆い、マナを循環させ、毒ガスを防ぎ温度調節するのじゃ。 これからもっと熱くなる、普通の人間はサラマンダーの住家までたどり着けぬぞ』


 俺は言われた通りに、水属性の幕で体を覆い、そこにマナを流し込む。

 俺の契約精霊が火精霊の天敵、水精霊ウンディーネで助かった、風・土属性ではこの灼熱の環境に対応出来なかっただろう。


 『しかし……… マナは何でもありだな!』

 『マナはすべてのエネルギー、魔法の本質じゃからな』


 洞窟を進んでいくと、道に沿ってマグマの川が流れだし、温度がぐっと上がる。


 そしてマグマの川の中に、タツノオトシゴのような、一m程の小さい火竜が見える。

 俺が倒そうか悩んでいると………


 『ディケム! これからサラマンダーと交渉に行くのだぞ! 奴の眷属を傷つけてはいかん!』


 ッ――あ、危なかった! 危うく攻撃するところだった………


 その後も、何度か魔物に威嚇されたが、刺激しないように早々に立ち去る。


 そしてやっと! 洞窟の最奥マグマだまりに到着する!




「やっと着いた。 ウンディーネこれからどうす――」

「――ゴォラ! トカゲ! 居るか?!」


(……え! ……チョット どうしてウンディーネ? トカゲはヤメテ――!)


 ウンディーネの声が響いた後、目の前のマグマ溜まりが盛り上がっていく。

 そしてマグマの中から、ゆっくりと火の上位精霊【サラマンダー】が現れる。


 サラマンダーは、全身灼熱の炎で出来た、形はトカゲ(・・・)だ………


「――お前、ウンディーネか?! ここに何しに来た?!」

「わざわざこんな暑苦しい場所まで、会いに来てやったのじゃ、感謝せいトカゲ――」


 (……ちょ! ウンディーネ挑発しないで!)


「――フン! ワシはおまえのその高飛車なところが大嫌いなのだ!」

「――フン! 今日は会わせたい者がいるから来てやったわ! ありがたく思うのじゃな!」


 (オネガイ……ウンディーネ ヤメテ オレ シンジャウカモ)


「――フン! お前の紹介など要らぬ! 目ざわりじゃ! とっとと帰れ!」


「なんじゃと――」

「――ごめんなさい! サラマンダー様! 俺は人族のディケムと言います。 少し話をさせてください!」


 このままウンディーネに任すと、怒らせる一方なので俺が変わる。


「ほぉ~。 人族がこんなところまで来られるのか、これは凄いぞ!」


 サラマンダーが俺のマナをしげしげと観察しているのがわかる………


「ん?! ウンディーネ……… お前、もしかしてその小僧と契約したのか!?」

「フフ、その通りじゃ」

「お前のような、高飛車な奴が人族如きと契約だと! なにを企んで居る!?」


「トカゲよ……… もう一度よ~くその子供を見てみるがよい」

「――ん? んん! ま…まさか! この小僧マナと繋がったのか――?」


「ほぅ~ トカゲ如きがよくわかったの」

 (ウンディーネ…… ホントヤメテ…… ソノイイカタ......)


「ウ~ム……… それで、そのマナに繋がる小僧がワシに何の用だ?」

「決まっておろう――! 妾の下僕に……ッグハ」

 俺はウンディーネを思い切り叩き落とした。


「――すみませんサラマンダー様! 俺に力を貸して頂けませんか?」


 ッ――グハハハハァ——


「あの傲慢なウンディーネを叩くとは! 面白いやつだ……… それで力が必要なのは何故だ?」


「いま、この上で人族と魔族が戦っています。 魔族の軍勢はデーモンスライム、人族では勝てません。 デーモンスライムと戦うための力を借してください!」


「――フン、戦争などに興味はない、人族も魔族も我々精霊には関係ない事だ!」


 (………ダメか!)


「………だが! マナに繋がる者よ、お前には興味がある! 火の精霊は力の精霊、強き者に力を貸すのはやぶさかではない! お前の力を示してみろ!」


「………力を示せとは?」


「そうよな、お前マナと繋がっているが―― まだまだ未熟だな! これからマナと繋がり、お前の前世、その【記憶の欠片】を取ってこい!」


「な、なんじゃと!! ディケムにはまだ早い! トカゲ―! お前なんてことを!」


「うるさいのう、ウンディーネ。 【欠片】で良いと言っているのだ。 ワシはその小僧がマナに繋がる資格があるのか見極めたい」


「資格なぞ、妾が契約しているだけでも、十分証明になろう!」


「ワシは自分の目で見たものしか信用せぬ!」


「――クソトカゲめ!」


「……ウンディーネ、やってみます…… いや、やります!!」


 俺の決意を見てサラマンダーがニヤける。

 ラローズさんは命を懸けて契約に臨んだ!

 俺だって覚悟を決めて挑まなければ、ラローズさんに合わす顔がない!


「ディケムよ、今までのマナのコントロールを忘れるな、マナに流され、我を忘れれば、戻ってこられなくなるぞ!」


「――うん、わかった!」


 俺はサラマンダーとウンディーネが見守る中、前世の【記憶の欠片】を見つけるため、マナの大河に沈んでいく。


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