表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
289/553

第六章6 教会講習会

 

 トンテン カンテン   トンテン カンテン

 トンテン カンテン   トンテン カンテン


 昨日の酒場は大変だった……

 まさかフュエ王女がララにライバル宣言するとか思いもしなかった。

 家に帰ってからララを(なだ)めるのが大変だった……

 その傍からラトゥールが大笑いして、ララの癇癪(かんしゃく)に火を注ぐ始末。


 そして今日、マール宰相に呼び出され――

「ソーテルヌ卿! フュエ王女は今年から魔法学校に入学する事は知っているな」

「はい」

「フュエ王女は今まで王族としての習い事が忙しく、魔法の勉強を殆どして来なかった。 其方も忙しいとは思うが、フュエ王女の魔法の師事を頼む。 ちなみに王女は白魔法の才能だ」

「ちょっ! マール宰――……」

「師事のやり方には一切口は出さぬ! だから頼んだぞ!」


 マール宰相は俺の貴族としての父親のようなもの。

 正直、俺は公爵となった今、正式には侯爵位のマール宰相よりも貴族としての格は上になる。

 しかし、爵位と官職は別になる。

 仕事上の上下関係と貴族位の上下関係は別になる。

 平民のトウニーとコルヴァスが職務上は対等な事と同じだ。

(正確にはコルヴァスは、親が騎士爵なだけで、爵位を持ってはいなのだが)

 マール宰相の宰相位とは、王の側近、参謀、王を補佐して政務を執り行う最高位の官職となる。


 まぁ、王都守護職を任されている俺が、宰相より官職の格が低い訳では無いのだが……

 どれだけ偉くなっても、父は父、子は子と言う事だ。

 俺はマール宰相には頭が上がらない。



 トンテン カンテン   トンテン カンテン

 トンテン カンテン   トンテン カンテン


「フュ……フュエ……」


 ⦅バイト中なので王女や殿下と呼称をつけられないが…… 王女を名前の呼び捨ては慣れない!⦆


「はい! ディケム様!」


 フュエ王女は俺に名前を呼び捨てされる事に怒りもせず……

 むしろ嬉しそうに笑顔で返事する。

 おれのディケムと言う名は、極ありふれた名だ、女性が男に様付けで呼んだところで違和感はない。


「明日、東の教会で白魔法師の講習会が行われます。 そこに行きませんか?」

「はい! …………。 あ、あの…… ディケム様は……?」

「もちろんご一緒しますよ」

「はい! 行きます!」


 正直俺は、フュエ王女への師事の仕方を考えあぐねいていた。

 ソーテルヌ邸で上級の白魔法師に至れり尽くせり指示を仰ぐ事も出来る。

 俺とララが、手取り足取り個人的に教える事も出来る。


 でも俺は、まずはララが王都に来た時と同じ、教会の魔法講習会に行くことにした。

 今、この時期の講習会は、今年から魔法学校に通う新入学生達で溢れている。

 特にお金の無い平民、下級貴族たちはここに来る。

 学校に行く前の今から、共に学ぶ生徒達と関われる貴重な学び舎だ。

 ララもここで、マディラ、ポート、トウニーという掛け替えのない親友であり切磋琢磨できるライバルと出会うことが出来た。




 教会講習の日、俺は王宮にフュエ王女を迎えに行く。


「殿下、お迎えに参りました」

「ディケム様! フュエとお呼びください!」

「殿下……お戯れを。 公の場でそのような呼び方は出来ません」

「ディケム様なら誰も文句など言いません」


 フュエ王女は頬を膨らませて、拗ねたように言う。


『それでは殿下、参りましょう』

 この話はこれ以上深入りすると面倒なので、先を急ぐことにする。




 教会に到着するとまずは受付けに行く。

 事前に予約を入れておいたので、受付のシスターが予約表の名をチェックする。

 二人分の募金を献金箱に入れて教会に入る。



 教会内には、俺の予想を上回る多くの学生達が学びに来ていた。

 俺とフュエ王女は目立たないように一番後ろの端の席に座る。


 すると、隣に座る少女から声をかけられる。

「初めまして、初めて見る顔ね。 わたしは『シャルマ』と言います。 よろしくね」

「はい。 俺はディケム、そして彼女がフュエ。 フュエはまだ魔法初心者だから色々教えてくれると助かります」

「フュエです。 よろしくお願いします」


 すると『シャルマ』という少女の隣に、別の少女が座り話に入ってくる。


「へ~、ディケムさんにフュエさんね。 私は『フローラ』。 よろしくね!」

「「よろしくお願いします」」


 お隣さんとの挨拶を済ませると、講師のシスターから、特別講師が紹介される。

 特別講師は昔この講習会で学び、魔法学校でも優秀な成績で、現在も魔法学校に在籍中にもかかわらず、既に王国軍の内定を貰っているのだとか。

 後進の育成と、お世話になったこの講習会の為に来てくれているのだと言う。


 そして特別講師が入ってくる。

 マディラとポートだった……


 『ッ――!!!』 俺の顔を見た二人が一瞬硬直したが、直ぐに知らないふりを通してくれる。


 このお世話になった教会への恩返し、特別講師はララとトウニーも参加しているそうだ。

 彼女たちは一回の講師は二人までと決めて、出来るだけ無理の無いスケジュールで、可能な限り毎回参加しているらしい。



「あの特別講師、曖昧に王国軍に内定と言ってましたが、あの精鋭部隊『ソーテルヌ総隊』らしいですわよ」


「へ~それは凄いじゃない! そんな精鋭が大衆の教会講習に来てくれるなんて、下手な家庭教師雇うよりよっぽど良いじゃない!」


 『ほ~』とか『へ~』とか誤魔化しておいたが、なぜこの『シャルマ』という少女はマディラ達の事を知っているのか不思議に思っていると……


「フン! 軍に内定と言っても、どれ程のものか!」

「むかし教会講習会に通っていたと言う事は、家庭教師も雇えない貧乏人だろ?」

「そんな奴が偉そうに……」


 講義室の中央に固まる貴族の子供たちからヤジが飛ぶ。

 その貴族の子供たちは、しっかり家庭教師を雇い万全の体制で学校入学を待つ身だが、世間の程度を見る為と、暇なので己の力試しとして、この教会講習会に来たようだ。


「あいつ等バカだね~。 ケンカ売ってる特別講師の二人。 マディラって人は、先日行われた『人族五大国同盟会合』でソーテルヌ総隊の広報を務めた人物よ。 もう一人のポートって人は総隊の精霊部隊の人。 あの歳で木属性の『木霊』様と契約していると聞くわ。 学校入学前の私達がどうこう出来る人たちじゃないのに」


 ⦅…………。 な、なんだ、このシャルマって少女の情報は!⦆


 俺は少しだけ警戒感を強めたが……

 会ったばかりの俺達に今の情報をべらべら話すって事は……

『まぁ、あれだ……』 それほど心配する事は無いだろう。



「君達。 もしここに学びに来たのでは無いのなら、帰ってもらえないかな。 今日の講義は回復魔法の『ヒール』と『ミドルヒール』です。 それ以外の魔法はやりません。 ここは力試しをする場所でも、自分の魔法を披露する場所でもありません」


「お、お前――! 生意気だな! 俺は『ミゲル・ロッソ』ロッソ男爵の息子だ!」

「お前! ミゲル様に失礼だぞ!」

「そうだそうだ――!」


 男爵位、中級貴族の息子とその取り巻きか。

 この教会講習会は、たいてい平民か貧しい貴族が利用する。

 ある程度裕福な中級貴族が来る事は稀だ。

 だからあのミゲルと言う少年は、自分以上の爵位の者など居ないと高を括っているのだろう。

 ミゲルはただの子共で、爵位は父親のものだと言うのに。


 フュエ王女が何か言いたげに俺を見る。

 だが俺は首を振る。

 こんな事にいちいち構っていたら、お忍びどころでは無くなってしまう。



 教会内にちょっとした緊迫した空気が流れるなか、タイミングよく巡回騎士が教会内に入ってくる。


「何か揉め事が起きていると聞いたが…… 大丈夫ですか?」


 ⦅カ、カミュゼ……⦆


 巡回に来たのは、ウチの総隊隊員カミュゼだった。

 カミュゼを見たとたん、先ほどから騒いでいる中級貴族の子供たちが青くなる。

 カミュゼの総隊専用の軍服と徽章を見たからだ。


 後から聞いた話だと、近頃の教会講習は大人気なのだそうだ。

 それは、『数年前、四門守護者のララ・カノンがここに通っていた』と言う噂が広まったかららしい。

 人が集まれば…… 横柄な輩も増える。

 だから、カミュゼ達は教会講習に合わせて街の巡回を行っているらしい。

 カミュゼは『グリュオ伯爵家』『総隊徽章★三』と色々こう言う輩にはちょうど良い。


 するとポートが『大丈夫ですカミュゼ。 もう解決いたしました。 巡回ご苦労様です』とカミュゼに伝えて小さく手を振る。


「それでは私は失礼致します。 何かありましたら駆けつけますのですぐ呼んでくださいね」


 カミュゼが去り際に、ポートに小さく手を振った事は見なかった事にしておこう。


 さっきまで騒いでいた中級貴族のミゲル達も、まさか教会講習ごときに、ソーテルヌ総隊の巡回が来るとは思わず、その小隊長と特別講師が名で呼び合う仲を見て、静かに講習を聞く姿勢になった。



「グリュオ伯爵家の御子息にしてソーテルヌ総隊、精鋭部隊小隊長カミュゼ・グリュオ。 彼までここに巡回に来るとか…… やっぱり教会講習の特別講師に来ている一人が『四門守護者のララ・カノン』じゃないかって噂も本当かもしれないわね」


 またも情報通のシャルマと言う少女の言葉に驚いていると……


「私もその噂、聞きました! だから一度お会いしたくてこの講習会に来てみたのですけれど…… 今日は外れだったみたいですね」


 フローラと名乗る少女も、ララを見に来たと言う。

 なんなんだ、この二人は……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ