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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章5 平民トウニーはへこたれない

トウニー視点になります。

 

 本日のソーテルヌ総隊の訓練を終え、いつもの様にマディラとポートと家路に向かう。

 今日は珍しくララが、用事があると言って、訓練を先に切り上げて出かけて言ったけど……

 ディケム様とディックさん、ギーズさんも居ないから四人で出かけたのかな?

 あの四人は羨ましいくらい、いつも仲良し。

 あれほどみんな立場が変わっても、四人の関係が変わらないのが憧れる。

 私達三人もこのままずっと変わらず居られたらいいな……


「どうしたのトウニー、ニヤニヤして」


「いや…… ほら、ララは今日も四人組でお出かけなのかな? 仲いいな……と思って」


「ほんとよね。 普通、皆あんな有名になっちゃったら、色々な確執もあるだろうから気軽に遊びに行けないと思うわよね」


「うん。 私達もこのまま仲良しで居られたら良いなと思ったの」


「そこは大丈夫よ、トウニー。 私達……あんな有名になれないから」


「…………。 で、ですよね」


 三人でいつもの様に笑いながら帰る。

 厳しい訓練の後の、安らぎのひととき。



「それにしてもトウニー。 今日はいつもより楽しそうじゃない?」


「ふふ〜ん 今日はコルヴァス様がお父様のレイシート騎士爵と一緒にウチの酒場に来る日なの! 早く帰って水浴びしないと」


「へ〜 相変わらずトウニーはコルヴァス様一途なのね。 上手くいきそうなの?」


「それは…… コルヴァス様はお貴族様だし、私は平民でしかも居酒屋の娘だから。 遠くで見ているだけで良いの」


『そう……』 とマディラ達もそれ以上は深入りしない。


 貴族は下級と言っても貴族。

 いくら平民居酒屋を愛用するコルヴァス様と言っても、血筋の話になればそれは別の話になる。

 それは貴族のマディラ達なら十分知っている事。


 コルヴァス様と私では、軍での待遇は★三徽章の同位の立場だけれど、一度軍から離れれば、そこには相容れない貴族と平民としての身分差が存在する。


 コルヴァス様はレイシート騎士爵家の三男、そして今ソーテルヌ総隊精鋭部隊の小隊長を務めている有望株。

 娘しかいない貴族家からは注目の的。

 襲爵(しゅうしゃく)(爵位継承)権を持つお嬢さんの、婿として迎えられることは確実です。

 今年戦士学校を卒業して、正式な総隊員となられるコルヴァス様。

 普通の貴族なら、卒業と同時に婚約を発表するのが通例。

 下手な噂が流れてはいけない大切な時期のはずです。



 私がいくら軍で出世したとしても……

 平民が貴族に叙爵(じょしゃく)(君主より爵位を授けられること)される事は、普通はあり得ない。

 ララ、ギーズさん、ディックさんが特別過ぎるのです。




 マディラ達と別れ、やっと家(酒場)の前まで帰ってきた。

 少し遅くなってしまったけど……

 もしかしたらコルヴァス様はもう来てしまっているかもしれない。


 ⦅私だって女の子。 訓練で、汗かいた状態でコルヴァス様と会いたくない⦆

 ⦅水浴びしてからお会いしたい⦆


 正直、コルヴァス様とは総隊の訓練場では毎日顔を合わせている。

 けど…… 軍の訓練はとても厳しい。

 師事をして下さるラトゥール様の前では、みな緊張して空気が張り詰めている。

 そんな中、気になる異性とお話ししたい…… そんな事は無理に決まっている。



 そしてさらに今、ソーテルヌ邸での訓練は、王国騎士団の強い要望により、各騎士団が交代で訓練に来る事になっている。

 あれ程マナが満たされ、洗練された訓練場で、ラトゥール様という一流の師事を乞える。

『第一騎士団だけズルい!』となり、各隊の強い要望で実現しました。


 ですが、王国騎士団は王都常駐の第一部隊以外、各騎士部隊が王都に来られるのは三~四ヵ月に一度程度。

 しかも担当拠点の防衛を鑑みて、月交代で三部隊程が五〇〇人程度、部隊数の半分程度の騎士しか王都には来られません。

 もちろん王都に来る本分は『王都の守りを固める為』と『拠点防衛の報告』です。

 部隊の半分ずつしか来られないので、一人の騎士が王都に来られるのは半年に一度。

 しかも総隊の訓練場は一部隊二五〇人までとしているので、王都常駐のおり訓練できる日数は正味二週間のみ、半年に一回となっています。

 半年に二週間しか来られない、この特別な訓練!

 参加する騎士達は、怖いくらいに毎日真剣に此処を訪れます。


 そしてさらに最近、ついに王国騎士団第五部隊からマディラのお兄さん、ジャスティノ・ボアルさんがソーテルヌ総隊への転属試験に合格を果たしました。

 そしてそのニュースは、騎士団中を駆け巡りました。

 多くの騎士がソーテルヌ総隊への転属を希望する今、希望する総隊との訓練、チャンスに真剣にならない騎士など居るはずが有りません。

 少しでも自分の力を伸ばし、有能さをアピールしようと訓練場の空気はいつも張り詰めています。


 ただでさえ王国騎士団とはエリート中のエリート。

 そんな中……

 本当は只の平民の私がこの中で一緒に訓練する事がおかしいのです。

 なのに、私達は毎週入れ替わる、新しく来るやる気に満ち溢れた王国騎士団のエリート騎士達の目に晒されています……

 総隊員は常に訓練場が使える好待遇、さらに精霊宝珠の訓練のため特別訓練場まで使っています。

 とても怠けた態度など取れるはずがありません。


 人の目が人を育てる。

 健全なピアプレッシャーが水平管理(お互いに見張り合う事)を生み、皆が自発的に切磋琢磨してゆく。

 これが精鋭部隊を作り上げるとおっしゃっていた、ウンディーネ様の競争原理を応用したスキームなのかもしれません…… コワイ


 そんな皆が一生懸命の職場だから…… 訓練中にコルヴァス様と話す事など出来るはずが無いのです。




 コルヴァス様はもともとウチの酒場には、総隊に入隊する為、憧れのディケム様の情報収集として来ていました。

 でも、ソーテルヌ総隊への内定を許されてからも、週に一〜二回変わらずうちの酒場に来てくれます。

 コルヴァス様は入隊した後も変わらずディケム様の大ファン。

 ディケム様が情報収集の為に、時折ウチの酒場を使ってくれる事から、その時の情報を聞きたいそうです。



 ディケム様は週に一回は街を巡回しています。

 王都守護者として、直に街を見て回り、人々の話を聞きたいそうです。

 もちろんお忍びなのだけど……

 ディケム様は有名人。 街人はみんな気づいているけど、任務中と言うことで騒がない事にしているらしいです。

 そしてディケム様が巡回した後立ち寄る酒場がいくつかあります。

 そこにたまたま私の家の酒場が入っていました。


 初めてディケム様がいらっしゃった時は驚きました。

 私が訓練から戻ると、普通に他の冒険者とテーブルで食事を取っていたのですから。

 ディケム様も見て回る店は、情報に偏りがない様に下手な前情報を入れずに自分で歩きながら決めていると言っていました。

 その事がむしろ嬉しかったです。

 ウチのお店がディケム様のお眼鏡にかなったと言う事ですら。


 ウチの強みはいくつかあります。

 顧客を冒険者と割り切って、併設の宿も他の宿よりは安く設定しています。

 他の酒場が、女性が集まるようなお洒落なお店にしている中、うちの店は時代と逆行し、むさ苦しい冒険者向け居酒屋に特化させました。

 ⦅お金が無いだけとも言います……⦆

 料理もお酒も素朴、粗野な料理だけど味と値段と量だけは自慢できます!


 そして、冒険ギルドと連携して、パーティーメンバーの橋渡しをしています。

 これは腕がある冒険者ほど寡黙な人が多く、助人が欲しいパーティーとマッチングする事が難しい場合があるからです。

 そこで、酒も入り話しやすくなるこの酒場で、お互いを紹介し合うと言う事です。

 もちろん紹介料など取りません、うちで飲んで頂ければ。


 ですがなぜか……冒険パーティーのマッチングだけではなく、気になる男女のマッチングまでする事が増えてきたのはおかしなことです。


 ⦅まぁ……うちで飲んでくれれば良いですけど⦆




 私は早く水浴びをしてからコルヴァス様と会いたい!

 急いで店の扉を開けて中に入ると――……


 えっ! ディケム様!?

 ララとディックさん、ギーズさんも居る……


 『へ?』 四人に囲まれている女性――

 『……ウソ!』フュエ王女じゃない? 



「ですからララ様! まずは貴女にライバル宣言を致します――!!!」


 え!?

 フュエ王女が立ち上がり人差し指をララに向けて宣言してる……


 ⦅えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ―――!!!!⦆


「おぉぉぉぉぉ―――!!!!!」

「嬢ちゃんよく言った!!!」

「二人ともガンバレ! 兄ちゃんこんな美人二人に羨ましいぞ――!」


 突然! 店内の客が総立ちとなり、大声援が巻き起こる!

 店の常連が聞き耳を立てていたようです!!!



 ――ガタッ!!!

 唖然と立ち尽くす私のすぐ横で席を倒して立ち上がる人影が目に入る!


 ⦅コ……コルヴァス様!!!⦆


 コルヴァス様がフュエ王女へと駆けつけようとするレイシート騎士爵様を羽交い絞めにしている!!!


「トウニー! 頼む! 一緒に父を止めてくれ!!!」


 ⦅ひぃぃぃ~~~!!! わ、わたし! まだ水浴びしてないから!!!⦆




 レイシート騎士爵様を何とか(なだ)め……

 ディケム様と四門守護者の三人が居る事を伝え落ち着いてもらいました。



 食事を終えたフュエ王女とディケム様達をお見送りすると……

 コルヴァス様とレイシート騎士爵様は、フュエ王女とディケム様の事で大興奮でした。

 酒場の手伝いが一段落したところで、一緒のテーブルに誘われて、レイシート騎士爵様にお食事を御馳走頂き、楽しいお喋りの一時を一緒に過ごしました。


 それは…… それは嬉しかったのですが…………!


 ⦅せめて、水浴びしてからにしてほしかった!!!⦆





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