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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章4 ライバル宣言

 

 次々に運ばれてくる食事に舌鼓を打つ。

 ブロワ村の木馬亭の料理は格別だが、ここのトウニーの両親が作る料理もとても美味い!

 田舎育ちの俺達に凄く合う味付けだ。



「それでディケム、なんか俺達の式典の為に、会場作りの手伝いに行ってくれているんだって?」

「あぁ! 毎日トンカチで大工仕事だ!」

「バイト代でてるんだろ?」

「あぁ…… 聞いて驚け! 一日金貨一枚だ!!!」

「きっ、金貨一枚!!!」

「マジか! 俺も行こうかな!」

「ダメだろう! お前達を祝うための式典だぞ、主役が準備しちゃ」

「でも…… 金貨一枚……」

「なら今晩の支払いはディケムのおごりよね!」

「な、ナゼそうなる! これは俺が汗水垂らして働いた報酬だぞ!」

「俺達を祝うための仕事なんだろ?!」

「んなっ! ……し、しかたない。 今日は俺がおごってやる!」



 俺達の他愛ない日常会話を聞いてフュエ王女が腹を抱えて笑っている。

 今や大貴族のソーテルヌ卿が金貨一枚にはしゃぐ様がおかしかったようだ。


「アハッ、アハハハハ…… ソーテルヌ卿は…… 御三方と、とても気軽にお話されるのですね!」


「えぇ、彼らは幼少のころからの付き合いで、運命共同体のようなものです。 皆それぞれ立場が変わっても、親友で居ようと誓ったのです」


「…………。 とても羨ましいです。 私にはお友達と呼べる方は居ませんので」


「なら! 私達がフュエ様のお友達に――……」

「ララ様!」

「は、はい!!!」

「ララ様は…… 私の事をお嫌いじゃ無いのですか?」


「えっ……!?」


「平民と貴族では夫婦の在り方は違うと聞きます。 妻を何人も娶る事は無いと。 ララ様も皆様も貴族になられましたが、育った環境で身に染みついた風習はそう簡単に変えられるものではありません。 ソーテルヌ卿とララ様、ラトール様の事は誰もが知る周知の事、そこに生まれだけの何の取柄もない私が入り込もうとしている……」


「…………。 フュエ様は……ディケムの事好きなのですか?」

「はい! お慕い申しております」

「それは政略的に致し方なく? では無いのですか?」

「…………」


 フュエ王女が少し考え、沈黙の後、俺とララを見て口を開く。


「ソーテルヌ卿…… 今、人族六大国の内、ジョルジュ王国のルーミエ陛下、モンラッシェ共和国のジュリュック大統領、この二つの大国があなたと縁のある人がトップに立っています。 いえ、あなたがトップにしたと言っても過言ではありません」


「いえ…… そんな事は――……」

「ソーテルヌ卿、あなたはそれだけの力を持っています!」


「たとえ持っていたとしても…… 私はシャンポール王国をどうこうするつもりは無いですよ」


「ソーテルヌ卿は…… モンラッシェ事変のおり、シャンポールへの義理を果たし、先走しる事無く支援を強行しなかった。 父はとても感謝しておりました。 ですから私達はあなた様を信じております」


「ありがとうございます」


「ですが……来月から始まる魔法学校の新学期。 今年の魔法学校への新入生、入学応募の数をご存じですか?」

「いえ……」


「例年ですと応募は、魔法適性が低い人は戦士学校を選ぶことから、圧倒的に戦士学校の方が多いのです。 それが今年は…… どれほど魔法適性が低くても皆が魔法学校を志願しました。 もちろん定員人数がございますから、選考で落とされるのですが。 そして、魔法学校に入学が内定した生徒の、王族と登録されている女性が不自然なほど多すぎるのです」


「え……?」


「推測ですが、身分が高く魔法特性が高い見目の良い女性を王族として養子に迎えたのでしょう」


「そんな事を…… 何故でしょう?」


「各国がソーテルヌ卿との縁を結ぶために動いている。 自分達の血族に別の血を入れる事も(いと)わず、なりふり構わず魔法学校へ子供を送り出している…… と言う事です」


 さすがに俺達四人は絶句した……


「呆れていらっしゃいますが…… それが貴族としての戦い方、当り前の政略というものです。 そして各国が大々的に動き出しているこの状況下で、ソーテルヌ卿はわが国所属だからと何もしないのは怠惰と言うものです。 そこで私の存在が意味を成したのです。 私は今年から魔法学校に入学致しますから」


「そんな…… それで…… フュエ様はそれで良いのですか!? それでフュエ様は幸せなのですか?! 自分の幸せは望めるのですか!?」


 言葉は悪いが政略の道具……

 女としての幸せを捨て、国の為に自分の役目を果たそうとするフュエ王女を、ララは痛々し気に、いたわりの眼差しを向ける。

 俺も、ディックも、ギーズも、フュエ王女を勘違いしていたようだ。

 こんな少女が、この歳で国の為に身を捧げる……

 戦いとは剣を持って戦う事だけではない。

 政略と言う目に見えない力との戦いも存在するのだ。



「ララ様! 少し説明が過ぎたようですね…… なにか勘違いを招いたようです」

「えっ?」


「私は今までずっと…… ラトゥール様とあなた様に嫉妬してきたのです。 何の取柄も無い私には、お慕いするソーテルヌ卿の身を守る力も共に戦える力も無い。 ラトゥール様とあなた様の間に立ち、『私も居ます!』と高らかにライバル宣言をずっとしたかった!!!」


 ⦅へ……? フュエ殿下? ⦆


「私のその積年の思いが! それが今叶ったのです! 政略と言う戦場ならば、私はあの四門守護者のお二方とも戦える。 いえ! むしろこの戦場は私の土俵です! ラトゥール様は政略でもお強い事は知っています! ですからララ様! まずは貴女にライバル宣言を致します――!!!」


 フュエ王女が立ち上がり『ビシッ!!!』とララに人差し指を向け、ライバル宣言をする。


 ⦅な、なにこれ……?⦆ 


 『え――……』ララは口を開けたまま固まっている。

 それはそうだろう…… 可愛そうと思った事が勘違いで……

 その後直ぐにライバル宣言されたのだから。


 ……すると!

「おぉぉぉぉぉ―――!!!!!」

「嬢ちゃんよく言った!!!」

「二人ともガンバレ! 兄ちゃんこんな美人二人に羨ましいぞ――!」


 突如! 店内の客が総立ちとなり、大声援が巻き起こる!

 フュエ王女の高らかなライバル宣言に、聞き耳を立てていた店の客は大盛り上がり!


 ⦅ちょっ! この狭い店で目立つことは――)

 ⦅と、とりあえず誰も彼女を王女様とは気づいていないな⦆


 まぁそりゃそうだろう、フュエ王女はほとんど大衆の眼に触れられる事なく大切に育てられたのだから。



 俺は用心の為に店内と店の周囲に、魔力マナを薄く広げ気配感知を張り巡らす。

 俺の行動にディック、ララ、ギーズが反応したが、ただの用心の為だと落ち着かせる。


 ⦅ん? 感知に馴染みの反応……⦆


 店内入り口にトウニーが唖然と目を見開き口に手を当て俺たちを見ていた。

 訓練から帰ってきていたようだ…… ゴ、ゴメン


 そして違うテーブルには…… コルヴァスがいる。

 父親らしき人物が王女の元へ駆けつけようと暴れているが、コルヴァスに羽交い絞めにされて止められている…… ゴ、ゴメン


 これはどうしたものか……

 俺は一応トウニーとコルヴァスに口元に人差し指を立てて、目で「秘密だ」と合図を送っておく。



 この店内が収拾付かない大盛り上がりのなか……

 ライバル宣言を済ませたフュエ王女本人は……『ニコッ』と笑って席に着く。

 そして何事も無かったように美味しそうにご飯を食べ始める。


「…………」 「…………」 「…………」 「…………」


 俺達だけ、取り残された感じだ。

 この王女様は…… なかなか逞しくしたたかのようだ。


 今日の食事会はこんな筈じゃなかった……

 後でトウニーには謝っておこう。




 なんとか無事に食事会を終え、フュエ王女を王宮へと送り届ける。

 ソーテルヌ邸までは五人で帰り、そこから王宮までは俺一人で送り届ける。


「ソーテルヌ卿」

「はい」


「一つお願いがございます」

「私に叶えられる事でしたらお聞き致しましょう」


「夜宴の時に…… その場の興でソーテルヌ卿をディケム様とお呼びした事がございます」

「はい覚えています。 フュエ殿下から名で呼ばれた時は少し驚きました」


「あの時私は、拒絶されるのではないかと凄くドキドキしていたのです」

「そのような事は……」


「ソーテルヌ卿の親しい人たちは皆『ディケム様』と名でお呼びしていますでしょ? 私も…… 私も名前で呼ぶことをお許していただけませんでしょうか?」


「そんな事でしたら、どうぞいつでもお呼びくだ――……」


 フュエ王女が立ち止まり、悲しそうな顔で俺を見上げる。


「違うのです! そうでは無いのです! 社交辞令ではなく…… ララ様とのやり取りのように……もっと……」


「フュエ殿下。 私の事は『ディケム』と名でお呼びください。 私がララと話すように殿下と名で呼び合い自然に話せる様になるには、お互いの信頼と絆が必要なのです。 それには二人で築き上げた時間が必要です。 ですが、最初の一歩を踏み出さなければ始まりません。 これから少しずつ絆を育てていきましょう」


 フュエ王女は俺の言葉を素直に聞き入れ、『はい』と答えて笑った。






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