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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章3 初めてのお出かけ

 

 今日の会場作りのバイト仕事を終え、フュエ王女と二人でバイト代を貰い、仕事場を後にする。


「それでは殿下! 今日はお疲れ様でした。」

「はい、お疲れ様でした」


 ⦅…………ん?⦆

 フュエ王女がそのまま立ちつくしている。


「殿下、お帰りにならないのですか?」

「お父様から今日のお夕ご飯はソーテルヌ卿と一緒に食べてきなさいと言われているのです」


 ⦅んなっ!!!⦆


「し、しかし…… 今日私はこれから、街に出て幼馴染たちと食事をする事になっていまして……」

「はい! ご一緒させてください」


 ⦅っちょ!⦆


「で、ですが…… 私達が向かうのは、街の冒険者が集まる居酒屋です! 殿下がいらっしゃる様な場所では…… それに警護の面でも……」


「いえ! お父様からは色々見て来いと言われています。 それに『王都守護者』のソーテルヌ卿と一緒なら、これ以上安全な警護などないでは無いですか」


「はぁ…… なるほど」

 そこは自分が言うのもなんだが、誰よりも殿下を守れる自信はある。


「あ、あのぉ…… やっぱり私がご一緒ではご迷惑でしょうか……?」

「い、いや! そんな事は有りません! むさ苦しい所ですが…… ご一緒にどぅぞ」

「はい! よろしくお願いします♪」


 ⦅…………。 目上の人からの『ご迷惑ですか?』は断れないヤツだ……⦆


 俺はフュエ王女の一切諦める気がないその様に……『これは断れないな』と諦める。


 いや……冷静に考えれば、王宮で育った生粋の王族フュエ王女が街の居酒屋に馴染めるはずがない。

 これはむしろ好機!!!

 俺はフュエ王女を伴い、街の酒場に行く事を決心する。



 俺とフュエ王女は、バイトの作業着のまま街に繰り出す。

『門番が止めてくれないかな……』などと少し期待したが、既に宰相の手が回っているとしか思えないほど、皆がフュエ王女をスルーする。


 王女かかりつけのメイドとすれ違った時など……

 ⦅ガンバって下さい!⦆のガッツポーズを送られていた気がした。



 広大な貴族街を『公共乗り合い馬車』に乗り移動する。

 次に貴族街を出て別の『乗り合い馬車』に乗り換える。

 自家用馬車でしか移動した事が無い王女には、この乗り継ぎは疲れる事だろう。


 しかし…… フュエ王女は馬車の窓に身を乗り出して外を見ている。


『街を見るのは楽しいですか?』 他の人に気づかれないように小声で話す。

『はい。 私はまだ就学前の未成年ですから、貴族街から外に出た事は無いのです』


 自由に野山を駆けまわり育った俺には、それはとても窮屈で……

 何不自由無く育ったお姫様なのに、誰よりも不自由に生きてきたのだなと思ってしまった。


「私、前に招待いただいた、ソーテルヌ邸での夜宴は本当に感動したのです。 あんなに綺麗なものがこの世に有るのだと…… まるで夢のようでした」


 それからもフュエ王女は、窓から街並みを食い入るように眺め、俺が設置しているクリスタルの彫像ゴーレムに声を上げて喜んだり、街を流れる水路の綺麗さ、魚が泳ぐ様に歓喜し、人々が暮らす街の明かりに見入ったりしていた。



 俺達は街の中心地で馬車を降り、興味津々の王女の願いを聞いて露店ひしめく商店通りを歩く。


「あれはなんですか?」

「これはどんな味わいなのですか?」

「わぁ~ すご~い~」


 フュエ王女の興味は尽きない。

 見ている俺がドキドキするくらい走り回る。

 しかし…… その一挙手一投足の表情にドキッとさせられる。

 俺なんかの政略婚に巻き込まれなければ、引く手数多の美人姫だろうに。



 そして俺達は目的地の酒場に到着する。

 ここは学友で総隊隊員のトウニーの両親が営む酒場だ。

 今日はララ、ディック、ギーズ、俺の四人だけでお忍びの予定だったから、予約も入れずの飛び込みだ。

 変な気を使われたくないからトウニーにも話していない。


 酒場に入ると、ララ達はまだ誰も来ていない。

 夕食時にはまだ少し早めに城を出た、俺とフュエ王女が一番乗りの様だ。

 飛び込みで席が確保できるか少し心配だったが、まだ時間も早い事から席に余裕がある。

 だがあと一刻ほどすれば、酒を求めてこの酒場は客で溢れかえる人気店だ。


 座れば後ろの人と背中がつきそうな小狭いテーブルが並ぶ。

 女将は、お客の間を掻き分け料理や酒を運ぶ。

 王族や貴族には縁のない場所だろう、平民でも富豪商人は来ない庶民の憩いの場だ。


 取り敢えず俺は壁側の席に陣取り、フュエ王女を、壁を背に座らせる。

 護衛的な意味も含め極力他の客からは隔離する。


 王女が『こんな狭い酒場なんて!』と憤慨する計画だったが……

 フュエ王女の目が興味津々でランランと輝いている!


 そこにギーズが入ってくる。


「お待たせディケ――…… えっ!?」

「ギーズ様、今日はご一緒させていただきます。 よろしくお願いします」


 目を見開き言葉を無くすギーズにフュエ王女は気さくに挨拶をする。


 そして次にディックが入ってくる。


「ゴメン、もうみんな揃って――…… えっ!? ララじゃない!?」

「ディック様、フュエです。 今日はご一緒させていただきます。 よろしくお願いします」


 座っているフュエ王女をララだと勘違いしたディックが、目を見張り言葉をなくす。


 そして最後にララが入ってくる。


「ゴメンゴメン! マディラ達と訓練に熱が入っちゃって――…… えぇぇぇぇぇ!!!」

「ララ様、今日はご一緒させていただきます。 よろしくお願いします」


 三者三様の驚き方で面白かった。


 全員揃ったので、皆食べたい料理を次々オーダーしてシェアして食べる。

 もちろん俺達はまだ学生なので酒は飲めない。


 フュエ王女は少し戸惑って料理をつまむ……

 王宮で育った彼女は。皆で分け合って食べるなど、経験の無い事だろう。


「美味しいです!!! 私こんなにおいしい料理初めて食べました!」


 それはこの環境がそうさせるのだろう。

 どう考えても王宮料理の方が美味しいに決まっている。

 でも彼女には皆で分け合って食べる事が、何よりの調味料になったようだ。


 ⦅あれ? 王宮で育ったフュエ王女が街の居酒屋に馴染めない作戦は?⦆


 ダメだ! フュエ王女はなかなか強者かもしれない。



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