第五章4-55 閑話 グラン日記 『竜騎士の訓練 2』
グラン・モンラッシェ視点になります。
私達が地底都市ウォーレシアで竜騎士としての訓練を受けていたある日。
スクスク育っていたナターリアの『スターチス』が突然火を吹いた……
正直、私達は『でしょうね……』と思ったけど。
魔法の知識のないゲンベルク王国の竜騎士達は大慌てになっていた。
ソーテルヌ卿も当然予期していたらしく、『スターチス』用に用意していた総隊特製の『首輪』と『手綱』が支給される事となった。
この『首輪』と『手綱』を支給される隊員は、ワイバーンとの繋がりで、ワイバーンが特別変異した者に限られていた。
属性ブレスを使えるようになったワイバーンは、より強力な力を手に入れられるのだけど、その半面扱いも難しくなる。
それまでよりも緻密で慎重な扱いが必要になり、『主人』とのより深い絆も必要となる。
その事から、変異しブレスを吐ける様になったワイバーンの主人には総隊特性の『首輪』と『手綱』の魔法具がソーテルヌ卿より支給されるのです。
もちろん!
扱いは難しいのだけど、変異種のワイバーンの主になれる事は、最高の『誉れ』、騎士達の憧れ、目標でもある。
ナターリアが嬉しさのあまり舞い上がった事は言うまでもありません。
しかし現実はそんな甘いものではない……
私とナターリアの二人は、今までマナの訓練を受けていないので、毎日のようにここで厳しい訓練を受けている。
強い力を持つものは、その力を制御できることが義務となる。
その努力を怠ってはいけない……と。 ツライ
⦅『いつも特別扱いされて!』と…… 私に文句を言うディックのファン達にこの現状を見せてやりたい!!! ここに有るのは色恋の浮ついた空気などではなく、厳しい軍隊の特訓だけだ。 軍事機密上言えないのが悔しい……⦆
私とナターリアの訓練は、とても厳しいものでした。
それでも私は魔法使いだからまだ特性的に、適応する事は難しくなかったけど、純粋な騎士として育ったナターリアは非常に苦労している。
救いは、ゲンベルク王国は元々巫女も輩出していた事から、全く魔力が無いわけではない。
ただ魔法の訓練を一切受けて来なかっただけに、この歳で初めて習う魔法訓練とワイバーンの訓練の同時進行は優しい筈がない。
けれどナターリアは持ち前の明るさと、『スターチス』への愛情で文句ひとつ言うことなく頑張っています。
そして今日の主役は私達ではない。
ワイバーン部隊の前に、ラス・カーズ将軍を除く十一人の将軍達が並んでいる。
シャンポール王国が誇る王国騎士団を率いる歴戦の将軍達です。
十二部隊全ての隊長が揃う所などそうそう見られるものではない。
先頭には第二部隊のフォン・マクシミリアン将軍が居る。
そこにソーテルヌ卿が竜笛を吹く!
すると一〇〇匹程のワイバーンが降りてくる。
「さあ皆さん、自分と相性の良いワイバーンを探してください!」
歴戦の将軍達が恐る恐るワイバーンに近づく。
それはそうでしょう……
ワイバーンは討伐ランクA級相当の竜種だ、少し間違えれば大怪我だけでは済まされない。
だけど……
ワイバーンはそんな事は絶対できないことを私は知っている。
空を見上げれば、まだ数えきれないほどのワイバーン達が飛んでいる。
しかし、そのさらに上には――
『蒼竜様』 『火竜様』 『雷嵐竜様』 『暗黒竜様』が飛んでいる……
「今一番生きた心地がしていないのは、ワイバーン達じゃないかしら?」
私の呟きに、ナターリアも大きく頭を縦に振っている。
ここウォーレシアは、精霊アウラ様とソーテルヌ卿がダンジョンコアの力を使い、ダンジョンの更に地下深い階層に移されたと聞きました。
冒険者が辿り着いてしまった時の事故を防ぐ為の緊急処置らしい。
もう少し人族の考え方が成熟し、他種族、魔物、竜たちを受け入れ、共存できる心のゆとりが育つまでは、この場所は秘匿とするようです。
ウォーレシアは地底の深層に位置し、更に精霊の加護に守られている事から、神の呪いはここには届かないらしい。
広さもソーテルヌ卿とアウラ様が拡張し更に広大になり竜達にとって楽園となっている。
エンシェントドラゴン達は、主人の指示がない時は、この地で安らかに暮らしていると聞きました。
最初にここに来た時、頭が真っ白になった事を思い出します。
他種族が共存するモンラッシェ出身の私でも、魔物や竜までも一緒に暮らすウォーレシア王国には驚かされました。
でも…… ウォーレシアに住む人たちと接していると、地上のどこの国よりも人々が幸せに暮らしている事が分かります。
多くの種族、魔物、竜達が仲良く暮らすこの場所こそがソーテルヌ卿達が目指す国。
不思議と怖さや恐怖よりも素直に賞賛する気持ちが湧き上がり……
これが良き時代の神代の姿なのだと素直に感嘆させられました。
今、私が見ている先には……
リザードマンの騎士に、ワイバーンとの接し方を教わっている、人族の騎士達が居る。
空を飛び回る竜騎士に、獣人族の子供たちが声援を送っている。
遠くでその光景を見守るように眺めている、エンシェントドラゴンたち。
「確かにこの光景は…… もう少し地上の人族の考え方に余裕が生まれ、受け入れられる土壌が育つまでは、秘匿とした方が良さそうね」
だけど……
私もこの光景を見ている自分に、優越感を覚えてしまっている。
私も相当ソーテルヌ卿に毒されてしまったらしい。
これでこの章の閑話も終わりです。
主人公があまり出てこない中、ここまで読んで下さり読者の皆様には感謝です。
次章からはちゃんとディケムが主役で進んでいきます。
今後とも読んで頂けたら嬉しいです。
m(__)m




