第五章4-54 閑話 グラン日記 『竜騎士の訓練 1』
グラン・モンラッシェ視点になります。
その日。
学校の授業が終わり、ソーテルヌ総隊の皆は、特別訓練のためにソーテルヌ邸に集まる事になっていた。
先ほど授業を受けていたラローズ先生も、ここからは私達と同じ生徒に変わる事が面白い。
そしてここにはナターリアをはじめ、ベルモット、セイゲル、そしてゲンベルク王国の竜騎士部隊隊長イゴールさんと隊員約八〇名も居る。
ゲンベルク王国はソーテルヌ卿の傘下に入り、ソーテルヌ総隊の竜騎士部隊として編成された。
私達がゲンベルク王国に居た時は、ワイバーンを扱える騎士は主力の二〇名程だったけど、今ではソーテルヌ卿の指示のもと、二軍騎士もワイバーンを扱えるようになり、すでにその数は八〇騎を超えていた。
そして恐ろしい事にこれからもその数を増やしていく計画らしい。
今日の訓練は竜騎士部隊の特別訓練、総隊の他部隊も合流しての合同訓練となっている。
今やソーテルヌ総隊の軍事隊員は皆、ワイバーンに乗れるので、他の部隊も定期的に竜騎士部隊と合同訓練を行っている。
そして、私は唯一ソーテルヌ総隊と関係のない部外者で竜騎士の訓練に参加させてもらっている。
『ワイバーンに乗るには特別な訓練を必要とする!』と言う名目で、特別枠で参加させてもらっているのです。
そんな事で、少しでもディックにお近づきになりたいフアンの女子達から文句を言われているのは知っています。
だけど……
恋愛も戦争と同じ! 舐められたら負け! 勝った者が正義!
私はフェアに闘う気などサラサラない。
今日の訓練は、ソーテルヌ総隊の竜騎士部隊がある程度形になったので、次の段階。
王国騎士団の隊長と副隊長を特別に交代で招集して、竜騎士とするため訓練することになったらしい。
私達がソーテルヌ邸の訓練場に到着すると、すでに十二人の隊長が集まっていました。
全員隊長と言う事は、みな無理にでもスケジュールを合わせて来たのでしょう。
副隊長に先を越されるのは癪ですからね。
歴戦の王国騎士団隊長、副隊長達は分かっている。
ワイバーンに乗れることは、戦場で物凄いアドバンテージになる。
竜騎士と一緒に戦ってきた彼らは十分それを知っている。
分かっているけど、自分達では到底実現できなかった事だった。
しかしそれがとうとう今日実現する!
しかも今は、ソーテルヌ総隊の隊員と、王国騎士団の隊長と副隊長にだけに許される特権として……
心躍らない者など要る筈も無い。
あの王国騎士団十二部隊隊長、生ける武人と言われたダドリー・グラハム将軍でさえ浮かれているのが見て分かる程だ。
隊長たちが大人気も無く、今日の日を副官に譲らなかった姿が目に浮かぶ。
『フフ……』 ついその姿を思い浮かべ、私はほくそ笑んでしまう。
ディックと『ロベリア』を捕まえた時、私もそうだったから……
ソーテルヌ卿の指示のもと、みな訓練場に描かれた魔法陣に乗る。
そしてラトゥール将軍が魔法陣にマナを注ぎ込み、転移魔法陣を起動させる。
少し前までは、ソーテルヌ卿しか気軽に使うことが出来なかった転移魔法陣を、今はラトゥール将軍も使えるようになっている。
これは戦力増強の意味でも凄い事だ。
⦅ディックも使えるようになったら良いのに……⦆
遠く離れていても、直ぐに会うことが出来る。
そんな事の為にディックに転移魔法を望む私は、ダメな女なのかもしれない。
⦅でっ……でも。 ソーテルヌ卿に会いたいだけで、ラトゥール将軍が転移陣を使っている事を私は知っています!⦆
転移魔法陣が起動すると――
目の前の空間がゆらりと揺らめき光に包まれる。
ほんの数秒真っ白な光に包まれ、光が薄らいで視界が回復しだすと……
私達は小高い丘の上に立っていた。
そこは天気も良くとても広大な場所で、遠くにはシャンポール王都そっくりな城が見える。
ここが地下の世界、地底都市ウォーレシアとか未だに信じられない。
ラス・カーズ様以外の将軍は、ここに来るのは初めてらしく、皆息を呑み固まっている。
事前の説明を受けていたらしいけど、実際にこの光景を見れば、皆が圧倒されるのは当り前だ。
私も初めは驚いたけど、モンラッシェ共和国の地下で、ここに似た世界、『火の神殿』を見ていたからまだましだった。
今日はなぜここ地底都市ウォーレシアへ来たかと言うと。
竜騎士の訓練は、シャンポール王都では難しいと言うことで、このウォーレシアで行なわれているからだ。
私達が到着すると、既にソーテルヌ総隊の竜騎士部隊と他の隊員もワイバーンに乗り、
一糸乱れず整列している。
今では竜騎士も総勢で一〇〇騎に迫ろうかと言う勢い、その竜騎士が整然と並ぶ様は壮観の一言だ。
私もその中に居られる事を誇りに思っている。
その一〇〇騎の竜騎士の前列には二〇騎程の特別な竜騎士が居る。
その竜騎士のワイバーンは体格も大きく、体色が違う。
特別なブレスを使える変異種だ。
そしてさらにその二〇騎の最前列に七騎の一際異彩を放つワイバーンが並ぶ。
その七騎は上位精霊の属性や、エンシェントドラゴン様の影響を色濃く受けたワイバーン達だ。
その七騎に私とナターリアのワイバーン、『ロベリア』と『スターチス』も居る。
正直誇らしくて仕方ない。
⦅凄いのはロベリアなんだけどね……⦆
私の『ロベリア』はグレイシャーブルーと赤を混ぜた紫色。
もう素敵過ぎて言葉もない。
ナターリアの『スターチス』は燃えるような赤。
そして同じ赤でも突出しているのがディックの『アキレア』だ!
赤のボディーにディックと同じ黒い炎の模様が入っている。
模様が入っているワイバーンはディックだけだ。 カッコいい!
ララのワイバーンは白色
ギーズは蒼色
ラトゥール様は黒に近い紫色、みな自分達の精霊属性の色にワイバーンも染まっている。
そしてやっぱり一番目を引くのはソーテルヌ卿のワイバーンだ。
色は黒一色なのに、光に当たると玉虫色に光る、属性の色の数だけ光るようだ。
そして体格も一際大きい。
もう…… あれはワイバーンじゃない。
普通に飛竜の上位竜になっちゃってるから!!!
ここで疑問が生まれてくる。
なぜ私とナターリアのワイバーンが変異したのか?
上位精霊との繋がりが一切ない私達のワイバーンの変異に、ソーテルヌ卿も驚いていた。
ディックの『アキレア』を含め、赤色が色濃く影響している事から、『火竜』様の影響を強く受けている事は疑いようもない。
その事を『火竜様』に聞いてみたら……
『ガモワとナージャの思いが指輪にこもったのだろう……』と言われた。
私には意味が分からなかったけど、ナターリアは指輪を『ぎゅっ』と胸に包み込みお礼を言っていた。
そんな訳で、私とナターリアのワイバーン『ロベリア』と『スターチス』は、火竜様の加護受けた指輪のお陰でスクスクと変異していった。
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