第一章27 転移陣
「ウンディーネ!」
俺は、一人で瞑想していた部屋から飛び出し、三人が訓練している訓練場まで駆けだす!
「ウンディーネ! ウンディーネ———!!」
「なんじゃ? 何度も叫ばなくても聞こえておる。 それとな、何度も言うが妾は個ではない、いつでもお前の中にいるから移動しなくてもすぐに会えるぞ!」
「あ………、そうでした」
「まぁ良い、それでどうしたのじゃ?」
「ウンディーネ! 打開策を見つけました! ラローズさん達を救える『勝つ見込み』を見つけました!」
ディック達が目を見張る!
「ディケム…… お前諦めていたんじゃなかったのかよ!」
「ディック! だから言ったじゃない! ディケムはそんな薄情じゃないって!」
「ウンウン、僕もディケムを信じていたよ!」
ウンディーネもニヤケながら聞いてくる。
「ほぉ~ その案、本当に有効か聞かせてみよ」
「ハイ! アルザス渓谷の地下、ちょうどカヴァ将軍陣営の真下にマグマだまりがありました。 そしてそこにサラマンダーが住んで居たんです!」
ん? ………なんかウンディーネの顔色が変わった?
「そのサラマンダーと契約して、マグマを一気に谷に噴射して、魔族軍を殲滅するのはどうでしょうか?!」
………あれ? なぜか、ウンディーネが目を見開き固まっている。
「ディケムよ……… 水と火は相性最悪なのは知っておろうな?」
「――っあ!」
「よりによって、妾が居るにもかかわらず、火の精霊サラマンダーと契約するなど………」
や…やばい! ウンディーネが凄い怒ってる~!
さすがにディック達にも呆れられている………
でも、ここで引き下がる訳にはいかない、怒られる事を恐れるよりも、ラローズさん達の命の方が大切だ!
「ウ、ウンディーネ! 確かにウンディーネには失礼な話だと思う! でもこれくらいの奇跡を起こさなければ、滅亡寸前の人族の未来などありえない!」
「………う~む。 正直、妾の感情を抜きにすれば、最善の策じゃろうな」
「なら―――ッ!」
「――感情を抜きにすればと妾は言ったぞ! 妾とサラマンダーは水と油、あ奴の天敵は妾じゃ。 妾が中にいるお前とサラマンダーが契約すると思うか?」
「それでも…… チャレンジさせてください! 俺はラローズさん達を助けたい!」
『……………………』
ウンディーネが凄く悩んでいる。
「もぅ…… 仕方ない奴じゃの~ だがディケムよ! オヌシ死ぬかもしれぬぞ?」
俺は黙ってうなずく。
「ふぅ…… 相反する属性の精霊と契約するなど、聞いたことがない。 ほんと呆れる奴じゃ」
「しかもディケムよ、お前が火の精霊に挑むことを、妾が否定できないことをお前は知っておるな?」
「最初にウンディーネと出会ったときに、四大精霊全員と契約した方が良いって言ってましたからね!」
「フン! 本当はもっとずっと先、お前がもっと成長して四大精霊の風と土と契約した後、最後なら火とも行けると思っておったのじゃ……。 最初から茨の道を進むとはバカな奴じゃ。 サラマンダーは妾の天敵じゃからお前を頑張っては守るが、かなり危険な賭けじゃぞ!」
「覚悟しています!」
「だが、もしもお前がサラマンダーを口説けたなら……… 相反する属性精霊の従属に成功すれば、その威力は計り知れぬか。 水蒸気爆発の火炎球がいい例じゃな」
「――ハイ!」
「よし、やるからには必ず勝つのじゃぞ!」
「――ハイ!」
「よし、改めて全員集合じゃ!」
「「「「――ハイ!」」」」
「予定が変わった! アルザス渓谷に皆で行き戦争見物じゃ!」
「「「「「おぉぉぉぉ――!!」」」」」
「なんだ、やっぱりウンディーネ様も助けに行きたいんじゃない!」
「ウンディーネ様は、本当は優しい方だと信じてました!」
「オ、オヌシ等……………」
「あッ………」
ウンディーネが怒っている。
「オヌシ等は言葉だけなのじゃ! 『助けに行きたい!』ただそれだけならば行かない方が良い。 行くだけ迷惑じゃ。 ディケムのようにしっかりと感情を抑え込み、冷静に現状を分析して、打開策を考えるのじゃ!」
「「「ッ――! ハィ………」」」
「いいか! ディケム以外は飽くまでも見物じゃ。 足手まといじゃから、指示が無い限り決して動くでないぞ。 だがしっかり戦場を見て来い。 直に見ることは何よりも大きな経験じゃ」
「「「――ハイ!」」」
「では、戦場のアルザス渓谷への行き方じゃが、歩いていくには時間が掛かり過ぎる。 ラローズ達が手遅れになってしまうかもしれぬ」
俺たちの住むサンソー村は、王都から西にある。
戦場のアルザス渓谷は、王都の東側、俺達のいるサンソー村からは真逆に位置する。
大人が馬で移動しても二~三週間、子供が徒歩で行ったら二カ月以上かかるだろう。
「そこでじゃ、前にお前たちに厳しいことを言ったお詫びに大サービスじゃ。 【転移陣】を使い移動する!」
「「「おぉぉぉぉ――!」」」
「ディケム! 転移陣の魔法陣は知っているな?」
「はい、本で勉強しました。 ですが…… 使うことが出来ません、前に試しましたが起動しなかったです」
ディック達が『試した事が有るのか?!』と目を見張る。
「当り前じゃ、まだお前の能力レベルが全然足りておらぬ」
「能力レベルとか有るんですね?」
「当り前じゃろ! 魔法使いになりたてで、上級魔法が使えないのは道理じゃ」
「たしかに………」
「そこでじゃ、神珠杉に力を借りる」
「――神珠杉!?」
「そうじゃ、神珠杉はマナとこの世界を繋ぐ神の木。 その神珠杉の力を妾が借り受け、転移魔法陣を起動させる!」
「「「おぉぉぉ!!」」」
「お前たち、時間がないからすぐに準備するのじゃ! ディケムは、騎士団からもらった剣を必ず持っていけ。 オヌシは戦いに行くのじゃからな!」
「「「――ハイ!」」」
俺たちはすぐに準備を整え、いつもの井戸に集まり、神珠杉に向かう。
皆、家族にはアルザス渓谷に向かうことを伝えてきた。
この一年半、軍と訓練を共にしてきた事もあり、家族は諦め顔で送り出してくれた。
「必ず一人も欠けることなく帰ってこような!」
『『『 うん! 』』』 全員で無事を誓い合う。
神珠杉に着いた俺は、初めてウンディーネと出会ったあの場所に、魔法陣を描く。
この場所の座標は分かるが、転移先、到着地の座標が分からない。
ウンディーネに聞くと、転移によさそうな場所を調べてくれて、その座標を書き込んだ。
ふと横を見るとみんなが「転移魔法って、出発地と到着地の座標が必要なのか……」と唸っていた。
魔法陣が完成すると、そこに、神珠杉から力をもらったウンディーネが魔力を注ぐ。
俺にはマナが、マナの大河から神珠杉へ流れ込み、その性質を変化させ、そしてウンディーネ経由で魔法陣へ注がれているのが、ハッキリと見える。
ララも訓練の成果で、ボンヤリとマナの流れが見えるようになっているようだ。
そして、しばらくすると魔法陣が金色に輝きだす。
「「「「おぉぉぉぉ―――!!」」」」
「よし準備は整った! 全員魔法陣に乗るのじゃ!」
「「「「――ハイ!」」」」
「よし、ディケム! 転移陣を発動させよ!」
俺は頷き、転移陣を発動させる呪文を唱える。
≪――――μετάσταση(転移)――――≫
呪文と共に魔法陣が強く光り出し発動する。
目の前の空間がゆらりと揺らめき光に包まれる。
ほんの数秒真っ白な光に包まれ、光が薄らいで視界が回復しだすと――
俺たちは、千メートルはあろうかという、谷の崖の上に立っていた。
面白ければブックマークや、評価を付けて頂けると励みになります。




