第五章4-52 閑話 グラン日記 『人族五大国同盟会合』
グラン・モンラッシェ視点になります。
ジョルジュ王国事変とモンラッシェ共和国事変。
この二つの大きな事変は、近年強種族の仲間入りを果たしたと、思い上がっていた人族の危機感を呼び起こし、大きな波紋を広げた。
そしてこの二つの事変を機に、『巨人族』と『魔族』の大国が裏で繋がっている事を知った各国の要人は、襟元を正しさらなる軍の強化を推し進める事になる。
そんな、各国が軍事強化に大きく舵を切っている中、もっぱら注目を集めているのが、ソーテルヌ卿の麾下となったゲンベルク王国の竜騎士部隊だった。
ただでさえこの十数年姿を現さなかった一騎当千の竜騎士が、突如としてモンラッシェ事変にて四〇騎もの編隊を組んで現れたのだ。
しかもその後、シャンポール王国のソーテルヌ卿麾下、総隊の竜騎士部隊として各国にお披露目となった。
その時の各国要人の驚いた顔を、今でも私は忘れられない。
人族同盟の各国は、人族の存亡をかけ、定期的に会合を開き、自国軍の状況や新たに開発している武器や兵器を各国に公表して、情報を共有している。
他種族との戦争と言う大事に、味方同盟軍の戦力を全く知らないのでは作戦の立てようが無いからだ。
もちろん、各国は自国の優位性を保ちたい野心を持っているため、全てを打ち明けていない事は言うまでもない。
今年の人族同盟の会合からは、新たに同盟に加わった我らモンラッシェ共和国も参加させてもらっている。
そして、普通ならばまだ学生の私など会合には参加させてもらえないのが当たりまえだけど、大統領の父の秘書として随行を許された。
それは今まで、シャンポール王都で情報収集を行い、再三人族同盟への加盟を促した判断力と、此度の事変で培ったソーテルヌ総隊との繋がり、そして私自身が『ロベリア』と言うワイバーンを駆る『竜騎士』だと言う事を鑑みての決定だった。
正式な場に親族を秘書として付ける事は忌避される事が多いが、私の今までの働きが評価され、共和国の重鎮たちの反対も起きる事は無かった。 正直本当に嬉しい。
しかしその人族同盟の会合で私が見たものは、ほぼシャンポール王国の……
いやソーテルヌ総隊の独断の報告の場と化した会合だった。
各国の報告と言えば、今なお『アルザスの悲劇』で失った損失の回復具合程度の事。
ジョルジュ王国に至っては、今回の事変で半壊した国の復興状況……
そしてそれは我々モンラッシェ共和国も同じ事、此度の事変での損害と復興状況のみだった。
そんな強種族と自負する、人族を牽引する大国が集まる会合とは思えない内容が続く中、シャンポール王国の報告の番が来る。
シャンポール王国のこの会合に参加しているメンバーは。
ミュジニ王子、ソーテルヌ公爵、マール宰相、ラス・カーズ将軍、そして広報としてソーテルヌ総隊側近のマディラ・ボアルが来ている。
もちろん中心に座っているのはミュジニ王子だけど、その右に座るソーテルヌ卿がこの場の主役な事は皆の周知の事実。
もし人族にソーテルヌ卿の事を知らない者がいたならば、このシャンポール王国の参加者を見て笑ったかもしれない。
中心に座る王子が飾りな事はどこの国も変わらない、しかしその右に座る会議のメインたる重鎮と広報担当者が若すぎるのです。
しかし、この会合で笑う者など一人もいない。
いやむしろ全員が、これから報告される話を一言一句聞き逃すまいと、襟を正して聞いている。
広報担当のマディラ・ボアルから話される報告は、各国の度肝を抜いた。
軍事報告一、破壊と雷の上位精霊バールの従属。
軍事報告二、神獣九尾の確保。
軍事報告三、エンシェントドラゴン雷嵐竜シュガールの従属。
軍事報告四、エンシェントドラゴン蒼竜の従属。
軍事報告五、エンシェントドラゴン火竜の従属。
軍事報告六、魔法武器の試作に成功。
軍事報告七、竜騎士部隊の創設。
正直、モンラッシェ事変を一緒にくぐり抜けた当事者としては……
【ゲヘナの炎】は?
【ペデスクロー】は?
とか……あまりにかいつまんだ報告に、突っ込みたいことは多々あったけど、どこの国にも報告できない事は沢山ある。
公の場での報告はしないけれど……
【ゲヘナの炎】はもう多くの人の知るところになってしまっているけどね。
このシャンポール王国の報告を聞き、この案件に関わらなかった国は素直に感嘆し、関わった国は感謝の意を示すとともに…… 内心では苦虫を噛み潰していた。
神獣もドラゴンも自分達に牙が向けられれば天災級の対処しきれない厄災となるが、味方に付けられればこれ以上ない強い戦力となる。
自分達では対処できなかった事を棚に上げ、シャンポール王国の強力な戦力になったことを悔しがっている。
そう言う私し自身、モンラッシェ共和国も数年前から火竜を見つけておいて、一切手が出せず、シャンポール王国の強大な戦力として紹介されて心穏やかでは無いのだから……
人間とは自分事になるとどれだけ自分が見えなくなるのかと呆れてしまう。
それでも各国は、神獣とエンシェントドラゴンの事については、人知を超えた力、自分達の手に余る力と直ぐに気持ちを切り替え、興味を『魔法武器』と『竜騎士』の報告に移した。
『魔法武器』に関しては、今はまだ試作段階で量産が難しい事、生産技術の流出はどこの国も嫌がる事、技術的にマネが出来そうに無い事から各国直ぐに諦めた。
その為、今回の同盟国の会合で、最も皆が興味を示した報告は『竜騎士部隊の創設』だった。
それは――
『竜騎士』がどこの国でも傭兵として馴染みのある騎士だった事。
その強さを誰しもが知っている事。
ソーテルヌ総隊以外に、私、グラン・モンラッシェも『竜騎士』として知れ渡った事。
これらの事が皆の興味を引いた理由だった。
特に私が『竜騎士』としてワイバーンを使役している事が、各国に自国での『竜騎士』育成の意欲を掻き立てたようだった。
その各国の安易に強力な『竜騎士』を手に入れたい意欲を、ソーテルヌ卿が一蹴する。
「ワイバーンを使役する事の難しさを勘違いすると大怪我を負いますよ。 我々は竜騎士育成のプロ、ゲンベルク王国の全面協力の元、やっと形だけ部隊を編成する所まで漕ぎつけたに過ぎない。 『竜騎士』育成を安易に考える事は止めた方が良い。 グラン嬢はたまたま、『竜騎士』としての適性が高かっただけです」
「……………」「……………」「……………」「……………」
⦅嘘である…… むしろソーテルヌ卿主導の元、ゲンベルク王国の竜騎士が再建された事を私は見て来た。 しかも形だけと言っているが、既にモンラッシェではその力を見せつけている⦆
しかし、勘違いした各国要人が安易に手を出せば、代償を負うのは下の兵士たちだ。
ソーテルヌ卿の言葉は正しい判断だったと私は思う。
人族五大国同盟会合が終わり、最後にシャンポール王国の『竜騎士部隊』がお披露目となった。
演習場に一騎当千の『竜騎士』が整然と並ぶ姿は各国要人の度肝を抜き、ソーテルヌ卿が言う『形だけの部隊』が建前で有る事を各国に印象付けた。
そして――
人族同盟の盟主シャンポール王国が盤石であることを皆に知らしめた。
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