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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章四節 それぞれのイマージュ  ディックと落日のモンラッシェ共和国
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第五章4-48 オリガとアレクセイ

アレクセイ・ブラドフ視点になります。

 

 俺とオリガとの出会いは馬車で移動中のオリガが、ワーウルフの群れに襲われているときだった。


 俺が駆け付けたとき、馬車の護衛として雇われていた冒険者たちは既に息絶えていた。

 馬車の中で怯えるオリガを助けたとき――!

 俺は彼女に一目ぼれをしてしまった。


 その頃の俺は勇者を夢見るただの冒険者、モンラッシェ家のご令嬢と釣り合うはずが無かった。

 それでも俺は諦められなかった。

 毎日のようにオリガに会いに行き、ついにオリガから『YES』の言葉を勝ち取った。

 その日から俺は、毎日が幸せだった。

 ただオリガと一緒に居られるだけ、それだけで幸せだった。



 しかし、オリガは大きな夢を持っていた。

 このモンラッシェ共和国を本当の意味の平等の国、『民主的共和制』にすること。

 オリガは毎日のように俺に夢を語った。

 でも俺は…… そんなオリガの夢を表向きだけ賛同して、どうせかなう事のない夢物語と聞き流してしまった。


 俺がもっとオリガと向き合って、話を聞いていたら……

 オリガも、もっと俺を頼ってくれたに違いない。

 そうすれば、あの事件は防げたに違いない。

 オリガの遺体が川から上がった時、手を握り抱き合いながら死んでいた男は、オリガがよく頼りに使っていた情報屋の男……

 オリガが死を目の前にした時、傍には俺ではなくその情報屋の男しかいなかった。


 俺がもっとオリガの話を聞いていたら……

 死を前にオリガはどれだけ怖かったのだろう。

 オリガを殺したのは俺だ。



 オリガを失った俺は、悲しみに暮れ、人生の希望を失った。

 それなのに俺は自分の罪をから逃げ、罪悪感を紛らわすために犯人探しに奔走した。

 必死に事件を調べ、せめてオリガの恥辱を晴らし名誉だけでも回復させたいと……

 それだけが俺の生きる目的となった。




 毎日毎日、俺は必至にオリガの痕跡だけを探していた。

 そんなある日……

 ワーウルフの群れに襲われていた、小さな娘を助けた事が有る。

 驚く事にその少女は悪魔の子供だった。

 でも、なぜかその子からは懐かしい雰囲気がして、俺は助けずにはいられなかった事を覚えている。



 それから数年。

 俺はまだずっとオリガの恥辱を晴らすために駆けずり回わっていた。

 だが…… 心はすり減り、ボロボロのになり、生きる気力を失っていた。



 心がもう限界に達したとき。

 俺は自分の死を目の前のワーウルフに決めた。

 オリガと出会ったきっかけもワーウルフだったからだ。


『さぁ、俺を楽にしてくれ……』


 俺が目を瞑り、死の瞬間を待っていた時…… 突然! あの時助けた悪魔の少女が現れた。

 彼女は気まぐれに人間を助けたようだった。

 成長した彼女は俺に気づいていない様子だったが……

 でも俺は間違えるはずが無い、そのなぜか懐かしい雰囲気を。




 俺は悪魔の少女『シトリ』に助けられた。

 シトリは『色欲』の属性を持つ悪魔。

 『色欲』属性とは、会いたいと思っている異性の姿に見えるという。


 俺が彼女に感じた『懐かしい雰囲気』はその属性によるものかもしれない。

 俺にはシトリがオリガに見える。

 俺はシトリに夢中になった。



 しかし……

 シトリが俺を愛してくれていると思えるのは、『色欲』属性のため。

 俺だけがシトリに夢中になっている……


 その疑念が俺をまた狂わせた。

 疑念が嫉妬に変わり、嫉妬が憎悪に変わる。

 シトリが俺を利用しているのなら、俺もシトリを利用してやる。


 俺の思い込みが、全てを破滅へと導いてしまった……

 俺はシトリの力を利用して、オリガの復讐を決行した。



 俺はバカだった……

 シトリは俺に『魅了(チャーム)』などかけていなかった。

 俺はいつも手遅れになってから大切な事に気づく。




 青い炎で燃え尽きるシトリが……

 俺の顔を見て微笑む。


 ⦅アレクセイ。 あなたを愛しています……⦆


 燃え尽きるシトリに…… 俺はオリガの姿を見た。



「あぁぁ! あぁぁぁ――…… オリガ! そ、そんな……」



 なぜ気づかなかった!

 あれほど求めたオリガを……

 また俺はオリガを見ていなかったのか!?

 再び出会えた奇蹟を……

 こんなにも近くに居たのに、おれはその奇跡を掴むことが出来なかった。

 オリガは俺を見つけてくれて、再び愛してくれたのに……

 それなのに俺は彼女に気づいたやる事すら出来なかった。



 俺はオリガを二度も殺してしまった……



「オリガァァァ―――………!!!!」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

「アレクセイ・ブラドフ。 あなたは私をシトリの父親だと知ってここに来たのですか?」


「はい」


「人族は…… 悪魔には家族愛など無いと思っているのですか?」


「いえ…… シトリはいつも貴方の自慢ばかりしていました。 本当にあなたの事を愛していたと思います」


「それが分かっていて…… なぜ私の下で働きたいと? そんな事がシトリと私への罪滅ぼしになるとでも?」


「いえ…… こんな事で許してもらえるとは思っていません。 でも…… 私は()()も彼女を殺してしまった。 どれほど貴方に憎まれていようと、彼女の居た…… 彼女が好きだった場所、あなたの近くで彼女を感じていたいのです」


「私は貴方を許せません。 あなたを殺してしまうかもしれません」


「彼女が愛した貴方に殺されるのなら、それを受け入れます」


「………………」


「オリガの…… いえシトリの思い出の場所に居させてください」


「…………。 私も……同罪ですか……。 ヨハン、兄弟子としてこの男に仕事を教えてやりなさい」


 俺はメフィスト・フェレスに深く頭を下げた。




『オリガ。 三度目の奇蹟なんて起こるはずが無いと分かっている。 でも俺は…… もう一度君に会いたい。 今度は必ず俺が君を見つけて見せるから! 君が俺に気づかなくても…… 必ず俺が君を見つけて見せるから!』



 第五章 それぞれのイマージュはこれで完結です。


 さらっと終わらせるつもりが…… 話が膨らみ過ぎて長くなってしまいました。

 長くなったついでに、もう少し幕間をお付き合い頂けたら幸いです。


 『アホの作者! メイン主人公のディケムはどこ行った?』


 アゥ……

 すみません。 第六章からはちゃんと書きます。

 m(_ _)m


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