第五章4-47 忠臣
ナターリア視点になります。
アジ・ダハーカ様による『終末の炎』で『ヘルズ・ゲート』が消滅した空をただ呆然と見上げている。
「…………」 「…………」 「…………」
今見た事をすぐ言葉にする事は私達には出来なかった……
ただアジ・ダハーカ様のそのお力は、まさに我々が神と崇めるに相応しい御業だった。
「な…なんだったのだ……今のは……」
「こんなの…… 神話に聞く神々の戦いじゃないですか……」
「えぇ。 ですが……この戦いに参加できたことは竜騎士として大きな経験でした」
「あぁ……」
「たしかに……」
私達も『ヘルズ・ゲート』が五つも召喚されるという異常事態、この絶望だったモンラッシェ事変の緊張から解放され、しばらく街を見渡しまどろんでいました。
私達が遠目に見守るなか。
ディック様のもとにグラン様が駆け寄り――…… 抱き着く。
「あらあらまぁまぁ~」
「まぁ…… モンラッシェを救った立役者だ。 良いんじゃないですか?」
「ですね~ 羨ましい」
微笑ましく見守っていたその二人のやり取り。
そこに空気を読まない四門守護者のララと言う少女が九尾に乗り駆け付け……
ディック様の背中を『よくやった!』とバシバシ叩いて激励している。
「…………」 「…………」 「…………」
⦅あの子、やっぱり怖い子だわ……⦆
そして蒼竜に乗ったギーズと言う優男も合流する。
三人集まった四門守護者の後ろには……
九尾様、蒼竜様、火竜アジ・ダハーカ様が主人の後ろに控えている。
「なんか…… 凄い光景よね?」
「あぁ…… これだけの神と崇められる神獣様が集まる所はそう見られないだろう」
「シャンポール王都に行ったら、あの人達が私達の上官になるのだけれど…… 私達大丈夫かしら?」
「…………」
「…………」
⦅あの状況で一緒に居られるグラン様も普通じゃないと私は思う……⦆
そんな皆が勝利に浮かれていた時……
突然雷鳴が轟く!
ズドドドドドォ――――ン! バリバリバリ――――!!
「キャッ――!」
「なんだ!」
「ひっ! な、なんだ?」
戦闘が収束したはずの南地区に、突如落雷が落ち物凄いプレッシャーが伝わってくる。
「あれは…… ラトゥール様!?」
皆が急いで駆け付けるとラトゥール様とペデスクローが対峙している!
そこへ四門守護者の三人も駆けつけるが……
「あ、あれは…… ヤバイ!!!」
「ちょっ! どうするのよ? 今回ペデスクローは助けてくれたんでしょ!?」
「だ、だけど…… あんなにキレたラトゥール様を見た事が無い」
誰もラトゥール様を止められそうもない。
「ペデスクロッー――!!! 貴様――っよくもこの私の前に来られたものだな!!!」
「ラトゥール…………」
「貴様だけは許さん! ここは人族領だ。私はお前が魔神族領から出る時をずっと待っていた! お前だけはここで殺す!!!」
「ちょっ……待って下さい! ラトゥール様!」
「ラ、ラトゥール様! 今回ペデスクローは味方です」
止めに入ったディック様とギーズ青年が軽い電撃で弾き飛ばされる……
「うるさい! お前らは黙っていろ!!! こ奴だけは…… こ奴だけは許さない!」
雷帝と化した魔神ラトゥール将軍を止められる力を持つ者は此処にはいない。
今ここは魔神ラトゥール将軍が支配する領域。
「死ねっ――――!!! ペデスクロォォォォオオオオ――――!!!!!」
確実に起こる惨劇に私達は成す統べなく目を背ける。
しかし……
ラトール様が指を指し、ペデスクローに落雷を叩きつける仕草を取るが――
雷は発動しない。
「なっ! どう言う事だ――……」
「そこまでだ! ラトゥール!!!」
『ディ、ディケム様!!!』
あのラトゥール将軍とペデスクローが片膝をつき恭順の意を示している。
突然現れた、ここに居るはずのないソーテルヌ卿の登場に皆が目を見張る。
「悪いがラトゥール『バアル』の力は止めさせてもらった」
「はっ! ディケム様の前で見苦しい姿をお見せしました。 申し訳ありません」
「ラトゥール。 ペデスクローは味方だ。手を上げる事は許さない」
「し、しかし……ディケム様。 ペデスクローはラフィット様を――……」
「ラトゥール! ペデスクローは俺の一番の忠臣だ」
「そ、そんな……… ディケム様! 一番の忠臣は――……」
「ラトゥール」
「はいっ!」
「お前は…… 俺が命令すれば俺を殺せるか?」
「ッ――!!! そ、それだけは…… できません」
「そう言う事だ。 ラトゥール」
「………………」
「ペデスクロー。 お前には嫌な仕事をさせてしまった。それにより地位も名誉も全てを失わせてしまったな。 謝罪させてくれ」
「いえラフィット様。 俺の居場所、力、全てはあんたがくれたものだ。 あんたの為に捨てる事に異存はない」
「ありがとうペデスクロー。 これからも力を貸してくれ」
「はっ!!! 俺の力存分にお使いください!」
「ラトゥール」
「はっ!」
「ペデスクローは一番の家臣だと言ったがお前も同じだ。 それぞれに必要とするところが違うだけだ。 俺には成さなければならない事が有る。 お前の力を貸してくれ」
「はっ! 私の力、命、全てをディケム様に捧げお仕え致します。 存分にお使いください!」
「ありがとうラトゥール」
あの雷の化身と化した、恐ろしい雷帝ラトゥール様も……
あの圧倒的な剣技を見せつけた魔神ペデスクローも……
このソーテルヌ卿という青年の前に跪いて恭順している。
一見、この青年からは全くと言うほど強さが伝わってこない。
でもこの強者二人を跪かせている状況が、この青年の底知れぬ恐ろしさを物語っている。
このソーテルヌ卿が今後われわれ竜騎士隊のボスとなるのだ。
⦅この状況…… お世話になる前に見られてよかった~⦆
⦅見てなかったら…… うっかりやらかして、雷帝様に目を付けられたかもしれない。 アブナイアブナイ⦆
この日――
歴史に残るモンラッシェ事変は、同盟国シャンポール王国の援軍の活躍により。
『大公位悪魔シトリ』の消滅。
召喚された五つの『ヘルズ・ゲート』の破壊。
この二つの任務遂行によって終幕となった。
そして――
囚われていたグラン様の父、ジュリュック大統領と家族はペデスクローにより既に救出され、メフィストの隠れ家に匿われていました。
クーデターを起こしたモンラッシェ一族の『長老派』達は、事件の元凶となった事を問われましたが、悪魔の介入が有った事を考慮に入れ、命だけは助けられ権力の場からは更迭されました。
此度のモンラッシェ事変でこの国は大きなダメージを負いました。
その為復興を第一として、この事変を解決に導いたソーテルヌ総隊の派遣に尽力を尽くし、単独で人族同盟の加盟を成したジュリュック大統領のを現行維持とし、しばらくはこのままの政権で復興に尽力する事で決まったそうです。




