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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章四節 それぞれのイマージュ  ディックと落日のモンラッシェ共和国
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第五章4-45 卓越した力

ナターリア視点になります。

 

 魔神ペデスクローが『火球(冥府の門)』を前方に飛ばす。

 そしてその火球の後を追う様に私達も疾走する。


「グラン、ナターリア。 置いて行かれるなよ!」

「うん!」

「は、はぃいいいい」


 先行して飛ぶ『火球(冥府の門)』からは次々と『火炎の矢』が射出され悪魔を追尾し滅してゆく。

 その『火炎の矢』は追尾が無ければただの火矢にも見える。

 でもその威力は、私達が先ほど東地区で苦戦した中級悪魔すらも一瞬で焼き尽くしている。


 (凄い…… あんな簡単に中級悪魔が……)


「みんな絶対にあの炎に触れるなよ! あの火矢の炎は地獄の炎だ。火が付けば消滅するまであの炎は消えないぞ」


 『ひっ……ひぃいいい――っ!』 ディック様の説明に私は震え上がらずに居られない。


 (え、なに? 消滅するまで火が消えないってなに? なに――!?)


 ペデスクローはもの凄い速さで地上を疾走している!

 ワイバーンに乗っている私達でもついて行くのがやっと。

 いや、ペデスクローは悪魔を滅しながらもその走りに余裕がある。

 それなのにそのペデスクローに私達はついて行くだけでやっとだ。



 前方を走るペデスクローの【炎の剣ティソナ】が強く輝きだす。


「みんな気を付けろ! ペデスクローが何かするぞ」

 ディック様の言葉で私達は身構える。


 すると次の瞬間。

 ペデスクローが前方へ飛ばしていた『火球(冥府の門)』が突然膨張する――

 そしてそれをペデスクローが上空高くと飛ばす!


 (なにをやるの? あの炎は地獄の炎…… 触れば死が確定してしまう)


 震えながら見ている私の視線の先で、上空に飛ばされた『火球(冥府の門)』が弾けたように見えた。

 でも『火球(冥府の門)』は無くならず、何度も花火が弾けるように無数の『火炎の矢』を打ち出している。

 それは上空に『枝垂れ柳花火』が何発も咲き乱れているように『火炎の矢』が放射状に射出され……

 そして今度は数え切れないほどの炎の雨となって地上へと降り注いでくる。


 私達は雨のように降り注いでくる『火炎の矢』から身を護る為身構える。


 (ちょっ……こんなの無理っ! 絶対避けられないよ――)


 避ける事すら許されない状況に私が絶望していると……

 降り注ぐ『火炎の矢』は無差別な軌道は取らず悪魔だけを追尾して滅して行く。


 (えっ……ウソ? この数の『火炎の矢』も全部追尾するの?)


 それは南地区全域に雨の様に降り注ぎ悪魔だけを滅してゆく。

 『す、凄い……』 私は只々『枝垂れ柳花火』の様に咲き乱れ、美しくも苛烈な絶望の炎の雨が降り注ぐ様を茫然と眺めていました。



「ナターリア気を抜くな――! ペデスクローに置いて行かれるぞ!」


 『あっ…… はい!』ディック様の叱咤で私は我に返る。

 しかしペデスクローは既に遠く屋根の上を疾走し『ヘルズ・ゲート』へと一直線に向かっている。

 ペデスクローを遮る悪魔は既に降り注ぐ『火炎の矢』で消滅し、彼を止められる敵は誰も居ない。



 ペデスクローの【炎の剣ティソナ】と【氷の剣コラーダ】がまた強い光で輝く!!!


 最初にペデスクローが振るったのは【氷の剣コラーダ】。

 ペデスクローが『ヘルズ・ゲート』へ疾走しながら詠唱する。


 【冥府に流れし五つの川、最下層にて凍てつく悲嘆の川よ、その力をいま示したまえ】


  ≪――Αιώνιαπαγωμένη-φ(コキュートス)υλακή(永久氷獄)――≫



 『氷の剣コラーダ』から氷の斬撃が放たれる。

 氷の斬撃は大きな氷の津波へと変わり通過した軌道全て凍て付かせ『ヘルズ・ゲート』へと押し寄せてゆく!

 そして氷の津波に呑み込まれた『ヘルズ・ゲート』は凍り付き『永久氷獄(コキュートス)』へと閉ざされた。




 『ヘルズ・ゲート』を『永久氷獄(コキュートス)』へと禁牢(きんろう)させたペデスクローはそのまま止まらず疾走する。

 『永久氷獄(コキュートス)』の斬撃、氷の津波で作られた氷塊の上を駆け一足飛びで『ヘルズ・ゲート』へと駆け上る!



 ――そして!

 ペデスクローが【炎の剣ティソナ】を構え氷塊を飛びながら詠唱する。


 【冥府に流れし五つの川、燃え盛る炎の大河よ、その力をいま示したまえ】


  ≪――ποτάμι-της-κόλ(プレゲトーン)ασης(冥府の炎河)――≫



 『炎の剣ティソナ』から(ほとばし)る炎が少しだけ揺らいだように見えた。


 『えっ? ………不発?』と皆が思ったとき………


 『炎の剣ティソナ』が『ヘルズ・ゲート』を無抵抗のバターように切り裂いてゆく。


「なっ! ちょっとウソでしょ?」

「バッ、バカな…… 『ヘルズ・ゲート』を斬った!?」

「うそ……ありえない」



 ディック様が信じられないものを見たように目を見張り、只々ペデスクローを見据えている。

 でもその口は笑っている……


 ペデスクローの剣技は派手さが無いだけにシンプル、しかしそれは凡人の剣が無駄を省き鍛錬に鍛錬を積み重ねやっと辿りついた高み。

 ディック様の目が自分の理想とした剣術を見つけたように輝いていました。




 私達の目の前で二つに切り裂かれた『ヘルズ・ゲート』が消滅してゆく。


「待たせたな小僧たち。 これでラフィット様の指令は終いだ、あとはお前達がやり遂げてみせろ。 とりあえず…… 事が終わるまではこの南地区の悪魔は俺が駆除しておいてやるから」


「ありがとう。ペデスクロー ……………。あのぉ……」

「…………ん? なんだ?」

「もし生き残れたら…… 俺にあなたの剣を教えて貰えないか?」


「ちょっ……ちょっとディック! 何を言っているのよ」


「はぁ? お前…… 流石にそれは無理だろう。 ラトゥールに殺されるぞ。 ほらバカな事を言ってないでさっさと行ってこい。 シッシッ!」



 ディック様が突然とんでもないお願いをしてペデスクローにあしらわれているけど、あの目は本気で決して諦めないと顔に書いてあります。

 グラン様も驚いているけど……

 もしペデスクローがソーテルヌ卿の命で動いたのが本当なら、私には無い未来ではない気がしました。



 それからは…… さっきまであれほど頼もしくてカッコ良く思えていた魔神ペデスクローが、一仕事終えたら急にふざけた大人に変わりました。

 私達はからかわれながらシッシッと軽くあしらわれ……

 追い立てられるように最後の『ヘルズ・ゲート』へと向かいます。




 四つの『ヘルズ・ゲート』を消滅させ、残る最後の『ヘルズ・ゲート』を守る結界は消失しました。

 私達はモンラッシェ共和国の中央に禍々しくそびえたつ、一際大きな『ヘルズ・ゲート』を見上げ気合を入れます。

 これを滅っすればモンラッシュ共和国は救われる。



「さぁこれで最後だ。 グラン、ナターリア行こう!」

「うん」

「はい」


 グラン様と私はディック様の後を追いかける。



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