第五章4-44 【炎の剣ティソナ】と【氷の剣コラーダ】
ナターリア視点になります。
西、北、東の『ヘルズ・ゲート』を消滅させた四門守護者の方達は今、中央の『ヘルズ・ゲート』より溢れ出す悪魔を殲滅しています。
そしてディック様と私達竜騎士部隊は残る南地区に到着しました。
ここ南地区の『ヘルズ・ゲート』は助人が破壊すると聞いています。
私の予想が正しければここの助人はラトゥール様の援護を必要としない強者。
あのララさんギーズさん以上の豪の者と言う事になります。
私達が到着すると一人の魔神が悪魔を小突き回しているのがみえます。
(あ…あの人は…… ペデスクロー!)
「なっ! あなたは……」
「ちょっと! そでしょ?」
「ひぃいいいい~〜」
もしかしてとは思っていたけど…… やっぱりこの人でした。
⦅怖い……⦆
「やっと来たかお前ら。 おせーぞ! 早く手伝え俺はゲートを壊さなきゃならんのだ」
「魔神ペデスクロー。 あなたがソーテルヌ卿が言っていた助人なのですか?」
「あぁそうだ。 ラフィット様からの指令を受け取った」
『ラフィット様』その名前を聞いてディック様が魔神に問います。
「ラフィット様って…… 魔神ペデスクローはラフィット将軍を裏切ったのではないのか? ラトゥール様がお前のことを凄い形相で探している。 そのラフィット将軍の生まれ変わりのディケムがお前に指令を送ったというのか?」
「フン……まぁ時期にわかるさ。 俺の役目は小僧、お前を中央の『ヘルズ・ゲート』へ送ってやる事だ。 取り敢えずこの状況が解決するまでは共闘だ。 お前たちの目的も俺ではなく『ヘルズ・ゲート』だろ?」
「…………」 「…………」 「…………」
「それがディケムの指示ならば俺に異論は無い」
「ヨシそれでいい。 空気の読めるやつは奴は嫌いじゃないぜ小僧。 これから俺が道を切り開いてやるから、お前らはほどほどに雑魚でも狩って温存しておけ」
裏切りの魔神と謳われるペデスクローが双剣を鞘から抜く。
ディック様の話ではこの双剣はアーティファクト武器【炎の剣ティソナ】と【氷の剣コラーダ】と聞いています。
今まで数度この恐ろしい魔神と遭遇しましたが、双剣両方を抜いたのは初めてです。
その本気の剣をこれから見ることが出来るのでしょう。
敵として遭遇した時は恐ろしくて震えましたが、味方に付いてくれる今はこれほど頼もしい助人は居ません。
「この『ティソナ』は冥府、燃え盛る火炎領域に流れる火の川から作られたと言われている。 そして『コラーダ』は冥府の最下層、非嘆領域の氷の湖から作られたと伝わる。 正直悪魔には効きが悪いが低級ごときには十分だろう」
ペデスクローが『ティソナ』と『コラーダ』に魔力を注ぎ込む。
すると『ティソナ』は炎を迸らせ『コラーダ』はその刀身に氷を纏わせる。
しかしすぐにティソナとコラーダの纏った炎と氷が収束してしまう。
(っえ………?)
私にはティソナとコラーダが凄い剣には到底見えない。
むしろ黄色や白色の炎を纏わせるディック様の剣の方が凄いのでは? と思ってしまう。
確かに少しだけ刀身に火花がパチパチと弾け、雪の結晶がチラチラと舞っているように見えるけど……
前回『火の神殿』で見た時の方が力強い炎が燃え上がり凄そうだった。
でも今ディック様を見ると目を見張り気圧されています。
きっとマナを感じ取れるディック様には私とは違うものが見えているのでしょう。
ペデスクローが『氷の剣コラーダ』を悪魔に向け軽く一振りする。
すると……
悪魔に向かい地面が放射状に裂け、無数の氷の斬撃が走ってゆく。
氷の斬撃が通り過ぎた後には、斬られた事すら気づかない悪魔が凍り付いたまま散り散りに四散しました。
その剣技は一言で『美しい……』そう称賛するものでした。
魔神ペデスクローが無造作に剣を振い戦場を闊歩する。
その傍若無人の歩みを止められる者など居ません。
そして魔神の歩いた後には…… 凍り付いた悪魔だったものが四散し消滅してゆくのみ。
「…………」 「…………」 「…………」
私たちは言葉を無くし只々その美しい剣技に見入っていました。
ペデスクローの氷の斬撃はとてもシンプル。悪く言えばとても地味な攻撃に見えます。
もちろん『氷の斬撃』は物理攻撃と魔法攻撃の合わせ技で誰でも出来る事では無いのですが……
同じ魔神として名を馳せているラトール様の槍技や派手な落雷攻撃に比べると、とても地味に見えてしまう。
でも……
今ここでペデスクローの『氷の斬撃』を見て驚嘆しない者など居ませんでした。
その剣筋には無駄がなく研ぎ澄まされた一刀は力を全て無駄なく斬撃、斬る力に変換した達人の技。
「これは…… ディケムの力の使い方に似ている」
つい溢れたディック様の言葉にペデスクローが反応する。
「ほぉ……小僧。 お前良い目を持っているな。 俺はラトゥールや魔神四将のようにバカみたいな魔力量を持っていない。 だからラフィット様の剣技を学んだ。 おまえ達もラトゥールに憧れるのは良いが…… 現実を見て自分に出来る最強を目指す事を勧めるぞ」
ペデスクローは次に『炎の剣ティソナ』を前方上空に向ける。
するとティソナから火球が打ち出される。
ティソナから打ち出された火球は上空の一際目立つ中級悪魔を呑み込み消滅させた。
『ん? それだけ?』と少し思ったが…… 火球はそのままそこに留まり消滅しない。
今度はその火球から無数の『火炎の矢』が射出され悪魔に降り注ぐ!
その『火炎の矢』は逃げまどう悪魔を追尾し滅していく。
「あの『火炎の矢』なに? 追尾するのもおかしいけど……あの強力な中級悪魔が簡単に滅せられていくわ」
グラン様の疑問を聞いてディック様も呟く。
「あれは…… あの『火球』は入り口なのか? 【冥府】と繋がっているのか?」
「さすがだな小僧『ゲヘナの炎』を手に入れただけの事は有る。 地獄の力への理解力が有るようだな。 あれは『火球』じゃない一種の『門』だ。 閉じるまで無限に力を引き出せるが…… 使い方を間違えれば閉じられなくなりこの世を消滅させる恐れがある」
「はぁあああああ? ちょっとあんた、なんて危険な攻撃をしてるのよ――!!!」
モンラッシェを守りたいグラン様が魔神に文句を言っている……
⦅グ、グラン様…… 私はとても怖くて魔神にそんな事言えません⦆
「フン! 小娘。 これくらいのゲート俺様が制御できないはずが無かろう? それにな……危険度で行ったら小僧が使った【ゲヘナの炎】や【原初の炎】の方がよっぽど危険だぞ。 と言うより俺では使えないレベルだ」
「なっ! ちょっ……ディック。 なんて危いモノ使ってるのよ――!」
⦅あっ……。 ディック様が目を逸らしました⦆
「小娘…… おまえは調子が狂うな。 今はそんな事を言っている場合では無いだろう?」
そんなペデスクローとのやり取りで皆にクスッと笑みが溢れる。
「そうだ…… それくらい気を抜いてやれ。 さっきまでのプレッシャーでガチガチの顔じゃこれから挑む理不尽に打ち勝つことなど出来ないぞ」
少しだけ私たちの心にゆとりが生まれたことに気付く……
魔神ペデスクローによって潰れそうだった私達の心が救われたのだ。
そしてそんな話をしながらもペデスクローは片手間で悪魔を滅している。
さらに放たれた『火球(冥府の門)』からは、次々と火炎の矢が射出され続け悪魔を追尾し滅している。
(これが……大人の包容力ってやつ?)
「もう大丈夫そうだな。 お遊びはここまでだ一気に行くからお前らはついて来い!」
突然顔つきが変わったペデスクローが動き出す。




