第五章4-42 帯電領域
ナターリア視点になります。
四門守護者雷帝ラトール様の【雷霆】におびえ、私達は東地区を目指します。
チリッ チリッ チリッ……
体に微量に帯電している電気は、これ程ラトール様が居る北地区から離れていていても消えません。
信頼していないわけではないけど……
いつか自分達にも落雷が落ちてくるのではないかという恐怖は拭えない。
そして私たちは東地区に到着すると、ここではベルモットの隊が悪魔と戦っていました。
私達は直ぐにベルモットと合流するため向かいます。
「ベルモット――! 我等に合流してディック様をお守りしてください」
「ナターリアわかった! 先ほど西にも北にも光の柱が立つのが見えた。 ヘルズ・ゲートが消滅したように見えるけど作戦は順調なのだよな?」
「はい 作戦は順調です」
私の肯定の返答にベルモットの小隊は安堵しているようです。
そして私たちは今自分たちが居る東地区の『ヘルズ・ゲート』を見上げる。
「しかし間近にみてあらためて思うが…… あんな途方もないモノをどうやって滅しているというのだ?」
ベルモットの質問に珍しくセルゲイが答える。
「ベルモット…… まさに我々は井の中のかわずだったよ。 四門守護者……アレはやばい。 俺もその戦いぶりを直に見るまでは信じられなかったが、今は畏怖しかない」
「あなた達話は後です。 とにかく今はディック様をお守りする事が最重要任務です。 グラン様に続きますよ、ディック様に決して悪魔を近づけさせてはなりません―――!」
「「おおぅ!!!」」
北門の時と同じようにアキレアの『火炎の息』が悪魔共を蹂躙している。
『なっ――! こ、この短期間にアキレアに何が起きたのだ!?』
悪魔達を蹂躙していくアキレアの火力、威力、範囲にベルモットもはたじろいでいる。
しかしながら西門、北門の『ヘルズ・ゲート』は消滅したが、時間が経つにつれ中央の『ヘルズ・ゲート』からとめどなく悪魔が溢れてきている。
西地区と北地区を見ればヘルズ・ゲートが消滅した今も『四門守護者』が中央のゲートから溢れ出てきた悪魔に対処しているのが分かる。
しかしまだ四門守護者を召喚していないここ、東地区の悪魔の数が今までの比ではない!
アキレアの『火炎の息』が悪魔を滅しているけど、これまでの様には簡単に道は切り開けないでいる。
時間が経つにつれヘルズ・ゲートから溢れ出す悪魔は数を増し、より格の高い強力な悪魔が出てきているように思える。
そして悪魔達も西地区・北地区のヘルズ・ゲートを破壊された今、追いこまれたように必死に身を挺してゲートを守っている。
グラン様はディック様の横に並びロベリアの『吹雪の息』と『猛吹雪』の魔法攻撃で道を切り開くために奮闘している。
ディック様の『アキレア』の成長が著しすぎてあまり目立ってはいなかったけど、グラン様の『ロベリア』の成長も凄い事になっている。
『………………』
その姿を初めて見るベルモットは目を見張っている。
しかし私達ゲンベルクの竜騎士も負けてはいられない!
いまここ東地区に来ている竜騎士隊は、五騎ずつで編隊を組んだ小隊が四小隊、計二〇騎集まっている。
北地区に居た二小隊もラトール様の指示に従い東地区に来たからだ。
「ベルモット! セイゲル! ディック様とグラン様が前方の悪魔に集中できるよう、私達ゲンベルクの竜騎士隊がサイドの悪魔に対処します! 陣形を整えますよ」
「「おおぅ!!!」」
ディック様とグラン様を中心とした我々の部隊は楔のように悪魔の軍勢の中を突き進んでいく。
そしてあともう少しで魔法陣までたどり着ける!
――そう思ったとき。
東の『ヘルズ・ゲート』から雪崩れるように悪魔が溢れ出した。
さらにその溢れ出した悪魔の一体一体が今までの悪魔よりも格段に強い。
今まで着実に魔法陣まで突き進んできた私達の足はここで止まり防戦一方になってしまった。
「クッソ! あともう少しなのに」
「ナターリア。 何か手はないのか――!?」
「みんな、ここが正念場だ。 気合を入れろ――!」
だけど気合だけでは一時しのぎの対策にしかならない。
数と力の暴力に押され、このままではジリ貧という焦燥感の中私達は手詰まりに陥っていた。
その私たちをチラリとディック様が見てしまう……
(あ……ダ、ダメです! ここでディック様の力を使わせてしまっては……)
私達の窮地を見てしまったディック様が決心したようにを一度目つむり――
呪文の詠唱に入ってしまう。
(あぁ……やめて下さい。 私たちのせいで作戦が失敗してしまう……)
「ダメ!!! ディック! ここであなたの全力を使ってはダメよ。 あなたの仕事は中央の『ヘルズ・ゲート』を滅する事。 ここで全力を使ってしまえば結局最後に作戦は失敗に終わるだけよ!」
「でも…… だからってこのままじゃ……」
グラン様の叱咤でディック様が思いとどまってくれた。
けれどもこのままじゃ私達の力ではこれ以上進むことができない事も事実。
チリッ チリッ チリッ……
私達がどうにも身動きが取れなく行き詰っていた…… その時。
チリッ チリッチリッ チリチリチリチリッ――……
(えっ……なに? なんなの!?)
ズドォンッ!! バリバリバリバリ――――――!!!!
ズドドドドドォン!!! バリバリ――――――!!
突然、天から落雷が降り注ぐ!
「キャッ――――!!!」
「ひぃっ! な、なにが起きている?」
「なんだ!? あのメチャクチャな数の落雷は……」
ゴロゴロ…… ゴロゴロゴロロ……!!!
ズドォンッ!! バリバリバリバリ――――――!!!!
辺り一面に降り注ぐ落雷が、私達の前に立ちはだかっていた悪魔達が次々消滅させていく……
「ラ……ラトール様? うそ…… 北地区のラトール様が援護に来てくれたの?」
「いや……あれを見ろ! ラトール様は北地区から動いていないぞ」
「そんな馬鹿な事が有るはずが…… あれほど離れた北地区から、これ程正確に悪魔に落雷を当てる事など出来るはずがない」
目の前で起きている事を理解できない私たちは、ラトゥール様が居た筈の北地区を見渡す。
するとそのあり得ない光景を私達は目にする。
今モンラッシェ共和国の西、北、東地区。この国の半分以上の広範囲に落雷が降り注いでいる。
ラトゥール様は今も自分が担当している北地区から動かず、北地区の悪魔を殲滅しながら西地区で疲れ切っているララさんのサポートをしている。
それなのに更に私達のいる東地区のサポートまでしてくれている。
「…………」 「…………」 「…………」
それは言葉を失う圧倒的な光景でした。
(それにしても……どうやって?)
落雷はラトール様が直ぐ近くに居るかのように、目の前の悪魔だけを正確に次々と滅しています。
東地区全体に降り注いでいる落雷も無造作に見えて、その実緻密に狙いを定めて悪魔だけに落ちているようです。
「し、信じられん……」
「しかし…… どうやってこれ程広範囲の悪魔の位置を正確に把握しているんだ?」
ベルモットが素直に疑問を口に出した言葉は、ここに居る皆が思ったことでした。
その時…… 体に帯電している静電気が『チリッ』と強くなりました。
そして――目の前の悪魔に落雷が落ちる!
ズドォォォ――――ンッ!!
「この帯電は…… もしかするとラトール様の結界なのかもしれない。 きっとこの国全体に微量に電気を帯びさせて悪魔の位置を把握しているのよ」
それはとても恐ろしい事でもあっりました。この国全てがラトール様の支配領域と言う事。
ラトール様のさじ加減一つでこの国全ての生き物を滅することが出来ると言う事でもあります。
私は一つ疑問に思っていたことがありました。
『なぜ初めに召喚するのが近衛隊筆頭のラトゥール様では無いのだろうか?』と……
しかしそれは北地区ならば西も東もサポートできる、ラトゥール様が三つの地区を全て管理する為だったみたいです。
⦅と言う事は…… 南地区の『助人』とはラトール様の援護を必要としない強者と言う事?⦆
でも正直なところラトゥール様は……
中央の大きな『ヘルズ・ゲート』の地区は結界に阻まれて手を出せていないけど……
北から一番遠い南地区すらも雷が落ちていることから、モンラッシェの国全体をその支配領域に置いているようです。
ラトゥール様は転移する配置など必要ないくらい圧倒的で、そのデタラメな強さに私は憧れました。




