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第一章25 実践訓練2


「さて今日も始めるぞ、覚悟は良いな!」

「今日は期待してください!!」


 戦闘訓練場の中心に水色の魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣が光り出し、徐々に魔法陣より召喚獣が現れる。


 【ユニコーン】


「今日はユニコーンじゃ!」

「ちょ!………え? ジャイアント・ジェリーフィッシュじゃないの?!」

「アホか! 敵がわざわざお前の予想通りの魔物を召喚するとでも思っているのか? いやむしろ戦いとは、相手の予想を裏切ってこそじゃぞ」


「あぅ………………」


 昨日の巨大クラゲは、攻撃しなければユラユラ漂う、ゆっくりめの魔物だった。

 だけど……ユニコーンはすでに角を立てて、あごを引いて、戦闘態勢で俺たちに飛びかかろうと狙っている。


 ユニコーンは、頭に角を一本生やした、馬型の一角獣だ。

 大きさは三~四メートルほどで、馬より一回り大きいサイズだ。

 攻撃は角を使った物理攻撃と後ろ足での蹴り、その脚力からのスピードとパワーが一番厄介だ。


 俺はすぐにウォーターゴーレムを三体作り出す。


 ウォーターゴーレムって水のゴーレムってタンクとして使えるの? と思うだろうが......

 水は固いのだ。 動くから柔らかいように思えるが、注射器の中に入れた水を凹ますことは難しい。

 水は面の攻撃に対して強い。

 さらに、俺の作ったウォーターゴーレムは、粘性を持たせている、それにより貫通性の攻撃にも強くなっている。

 ようは、物理攻撃耐性を持つスライムと同じだと思えばいい。


 予想通りユニコーンの突撃は、ウォーターゴーレムが受け止めきれている。


 ユニコーンは物理攻撃特化の魔物だ。そして……… 伝説では清らかな乙女に思いを寄せるとか……… ホントか?

 俺は、ユニコーンの情報を皆と共有して、対策を指示していく。


「ラローズさん、ディック、ギーズ、 俺がユニコーンを止めますので、止まったユニコーンを一気に高火力で攻撃してください!」


「ララは悪いけど囮になって!」

「―――ゔぇ!」

「伝説では清らかな乙女に思いを寄せると言われているんだ!」


 皆が所定の位置に着くと、ユニコーンがララだけ(・・)を見つめている。

 ゆっくりとララを見定めたユニコーンが―― 一気にララに飛びかかってくる!


 俺は、ララの前に水の壁を十枚ほど作り出す。

 ユニコーンが水の壁を一枚、また一枚と打ち破るが…… 五枚ほどでスピードが殺され、六枚目の壁に角が突き刺さりそこで止まる。

 すかさずウォーターゴーレムで組み伏せ、そこに皆が一気に攻撃を仕掛けた。


「今だみんな! ゴーレムごと一気に攻撃!」


 ゴーレムの使い勝手の良さは、気にせず敵と一緒に攻撃しても良いところだろう。


 ゴオッ──!!!! ドオオオン!!


 ラローズさんの水球攻撃、ディックとギーズの火炎玉(ファイア・ボール)で、ユニコーンとゴーレムは砕け散った。



「――よしそこまで!! 見事じゃ!」

 ウンディーネの試合終了の合図で、見物の騎士たちのどよめきが満たし、歓声が上がる。


「「「「「おぉぉぉぉ――!!」」」」」


 ………なんか、訓練というよりも、見世物になっている気がする。


「オヌシ達、今日は合格じゃ!」

 ウンディーネが俺たちの前に来てほめてくれる。


「ディケムは本の虫じゃが、その本で得た知識は最大の武器じゃな。 ジャイアント・ジェリーフィッシュも今回のユニコーンの情報も、よく知っていた。 大変結構じゃ! これからもこの調子で一日一回は実践訓練じゃ、」


「「「「――ハイ!」」」」



 戦闘後の総評が終わった後、凄い勢いでラローズさんがクレームに来た。


「そう言えばディケム君………『清らかな乙女』のくだり、私納得いかないのだけれど――!!」

「へ?………」

 でもそこは俺じゃなくてユニコーンに責任があると思います………。





 こうして俺たちは1年半の間、毎日欠かさず騎士団と一緒に特訓に励んだ。

 そして【アルザスの悲劇】から約二年、とうとうアルザス渓谷にいる、魔族軍カヴァ将軍の軍隊に動きが見られると急報が来た。



「そろそろだと思っていたが、やはり来たか………」


「はい、ウンディーネ様の教えていただいた推測通りでした。 おかげさまで我々は、魔族軍カヴァ将軍撃退に向け、最善の準備をすることが出来ました。 王国を代表して感謝申し上げます」


 ラス・カーズ将軍がウンディーネに深々と頭を下げる。


「ウンディーネ様。 私にカヴァ将軍に対抗する手段、ウォーターエレメントを与えていただき感謝いたします。さらに精霊魔法の使い方の助力も、重ねて感謝いたします」

 続けてラローズさんも、ウンディーネにお礼を言いに来た。


「うむ、ラス・カーズ、ラローズ。 オヌシたちはこの一年半の間、出来る限りの努力をした。 だがデーモンスライムは強敵じゃ。 そして……… 妾の言いたいこと(・・・・・・)は分かるな」


「はい、大変お世話になりました! 我々はこれより魔族軍カヴァ将軍撃退に向け、王都に戻り、すぐに出撃いたします」


「ウンディーネ様、この戦いで我々がどれほどの時間を稼ぐことが出来るか分かりませんが……… 人族の未来の希望、ディケム君達をよろしくお願いいたします」


「っえ!? お、俺たちも戦いに行くんじゃないのですか?!」


 俺の質問にラス・カーズ将軍は首を横に振り答える。


「ディケム君! 君たちはまだ若い、若すぎるんだ! 今回の戦いは私たち大人の戦いだ」


「………でも! 一年半の間一緒に訓練してきたじゃないですか! カヴァ将軍の対策も一緒に練ってきたじゃないですか! 一緒に戦えばきっと勝てるはずです!」


「ディケム君、確かにこの一年半で我々もかなり強くなった……。 しかし我々は二年前カヴァ将軍と戦ってその力を知っている。 もちろん俺たちだって、ただ死にに行くつもりはない! 勝ちに行くがね」


「だがそれは、後ろに君たち次の世代が居てくれるからだ。 次に希望を繋げられると思うから、私たちは戦えるんだ」


「そんな………」


 ラローズさんが俺を包むように、ギュッと抱きしめてくれる。


「ディケム君、これは私たちが初めから決めていたことなの。 だからウンディーネ様は、マナの多いこの場所を私たちに教えてくれた。 そしてあり得ない方法で私にウォーターエレメントを与えてくださった。 ここまでしてもらって、大人たちが頑張らなかったらカッコ悪すぎるでしょ フフフ」


「皆さん、最初からそのつもりで………」

「あたりまえだろ! 少しは大人がカッコいい所見せないとな ハハハ」



 俺は、騎士団の皆さんが、デーモンスライムに勝つために、訓練しているものだと思っていた………。

 でも今思えば、彼らの行動は俺たちにデーモンスライムの攻略方法を教えるために、日々一緒に訓練していたように思える。



 そうしてラス・カーズ将軍率いる王国騎士団第一部隊は、本国に帰っていった。



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