第五章4-24 ギアスの契約
グラン・モンラッシェ視点になります。
ゲンベルク王国の竜騎士育成をベルモットとラス・カーズ将軍に任せて、
私、ディック、ナターリアはモンラッシェ共和国へ向かう。
私はナターリアから、ゲンベルク王国でのワイバーンを呼ぶ方法を見せてもらい驚いた。
私達がソーテルヌ卿から渡された『竜笛』と同じような笛を使っている。
原理は全く違う、ソーテルヌ卿の『竜笛』はマナが繋がっているけど、ゲンベルク王国の笛は、竜にしか聞こえない音で呼ぶらしい。
ただ見た目には違いが分からない、ソーテルヌ卿はあえて違和感が無い様に同じ『笛』にしたのだろうか?
ナターリアは、あの『立ち合い』でのワイバーンの混乱ぶりから『竜笛』でスターチスが答えてくれるか少し心配していたけど、問題無いようだった。
ディックからこっそり聞いた話では、ワイバーン達はファフニール様から、騎士に従う様に命令されているのだそうだ……
私達はロベリア、アキレア、スターチスをモンラッシェ共和国近くの森に放し、下水道を使い街に再び潜入する。
少しスターチスを放す事が心配だったが、ロベリア達ととても仲が良く、問題なく三匹でお留守番をしてくれそうだ。
その日は、情報屋のヨハンから紹介され、部屋をキープしてもらっていた宿屋で休む事にする。
そして翌日、ゲンベルク王国へ行くようにアドバイスを受けた、情報屋ヨハンの元へ訪れる。
「アンタらか。 ほぉ、本当に竜騎士の国ゲンベルク王国の助力を取り付けたんだな。 なかなかどうしてやるじゃないか」
そう言い、ヨハンはナターリアを値踏みしながら私達をドアの中に招き入れる。
「それで? この前俺が言った…… 今後の助力を聞きに来たって事だよな?」
「そうだ。 ゲンベルク王国の事は、アンタの助言を聞いたらいい結果になった。 他にも俺達の有益になる情報が有れば聞きたい」
「そうか…… だが、これ以上の情報は、これまで以上の覚悟が無ければ教えられない」
「金か? 前回は一つの質問につき白金貨一枚だった」
「いや、金はむしろ要らない。 必要なのは敵対しないと言う『制約の契約』だ!」
「『制約の契約』だと!」 流石のディックも目を見張る。
『制約の契約』、敵対しない事を誓うだけだが……
これを破れば命は無いと思った方が良い。
そしてこの契約は非常に危険だ!
昔、契約を結ばせ本人の気づかない所で敵対させ、殺害する手法、犯罪が横行した。
その危険な『制約の契約』を、この素性の分からない情報屋ヨハンと結べるのか?
私達三人は考え込む。
正直、今の打開策の無い、絶体絶命の私は断れない。
だけど、ディックとナターリアが、この危険な『制約の契約』を受ける謂れはない。
「わかった! その『制約の契約』を受け入れよう!」
「私もグラン様に受けた恩がある! ここで逃げ出すわけにはいきません!」
「ちょっ! 二人とも! そんな簡単に…… 命に係わる事なのよ!!!」
「よし、まぁ合格だな。 表面上だけじゃなく、しっかり信頼を勝ち取っているようだなグラン嬢」
面白そうに私達を値踏みしヨハンは言う。
『………………』 私は言葉も無い。
二人にそこまでして貰えるだけの事を、私は何もしていない。
ヨハンが持ってきた『契約書』には――
『今後、【メフィスト】【ヨハン】に敵対することを禁止する』
と書かれている。
「ちょっと待て、この【メフィスト】とは誰だ?!」
「これからお前たちに会わす俺の上司だ。 この名前を見た時点で、お前達にはもう拒否権は無い。 諦めろ!」
「―――ッ!」
「まぁそう固くなるな! もしお前たちが此処で逃げ出したら、俺にはお前らを留められる力はない。 そして【この名】をお前らに知られたからには、俺も『この方』に殺される。 俺もお前らと一蓮托生って事だ」
「…………」
一蓮托生……
ここで私達が逃げたら、ヨハンも殺されるけど、私達も追われ殺されるのでしょう。
ゲンベルク王国を味方につけた私達、そしてディックを四門守護者と知っていてもヨハンは私達が殺されることを疑いもしない……
【メフィスト】とはそれ程の人物、裏社会では力を持つ人なのでしょう。
単純に強さと言っても、腕力の強さだけが強さじゃない。
正面から戦えばディックは勝てるかもしれない、けれど強者を倒す方法などいくらでもある。
例えば四六時中命を狙われれば、ディックでも精神的に潰される。
単純な武力だけでは勝てない力が有る。
その事を私達は十分に理解している。
私達はヨハンが持ってきた『契約書』に血判を押す。
そしてヨハンが制約の呪文を唱え、契約書を上へ投げると!
≪—————Περιορισμοί(制約)—————≫
契約書は燃え上がり、私達は一瞬光に包まれ、『制約の契約』に縛られた。
『契約』が終わると、ヨハンは私達をさらに奥の部屋へ招き入れる。
奥の部屋の隠し扉からさらに奥の部屋へ、そして奥の部屋の隠し階段を降り、しばらく地下通路を歩く……
この仰々しさが、『メフィスト』と言う人物の危険なイメージをさらに引き立たせ、私達の緊張も最高潮に達したとき、最後の部屋にたどり着く。
そこは何も無い少し広めの部屋。
部屋の真ん中には素朴な椅子だけが一つ置かれている。
その椅子の前に魔法陣が描かれている。
すると――
魔法陣が突如光り出す!
「ちょっ! 転移陣?! 召喚魔法陣?!」
私とナターリアが目を見張り慌てる中、ディックは真剣な眼差しでその魔法陣を凝視している。
そして……
魔法陣から一人の紳士が現れる。
その男は黒のタキシードを着こみ、マントを羽織、杖を突く。
黒いシルクハットを持って私達に紳士的な挨拶をする。
「初めまして。 私が【メフィストフェレス】と申します」
「なっ! あ…… 悪魔か?!」
そのディックの呟きに、私とナターリアは戦慄する―――




