第一章24 実践訓練1
「さて、今日は実戦訓練じゃ!」
「ゔぇ? ………実戦?」
「コラ、ララ…… なにが『ゔぇ?』じゃ! お前たち少したるんでおるようじゃの、ラローズだけがこの強化訓練のメインでは無いのだぞ、ララ、ディック、ギーズは今日から鍛え直しじゃ!」
「こ、こら……ララ! なんてことを――!」
「ひぇ、そんな事言われても………」
そんな事で今日から実践訓練を組み込んでいく事になった。
「対戦相手は妾が精霊召喚魔法で召喚する。 精霊召喚魔法はマナから召喚獣を作る疑似生命体。 殺してもマナに戻るだけじゃ。 安心して倒すがよい!」
「さてこの訓練、ディケムは一番忙しくなるぞ! 三人にマナを補給と自分でも攻撃じゃしかしディケムの魔法は、自分の器の五%での出力限定じゃ」
「ご……五パーセント?!」
「当り前じゃ、もしオヌシがマナにつないで直接ぶっ放すと大変なことになるからな!」
「………ハイ」
⦅ディック達は、マナに繋ぐの意味をよく分かってないようだ⦆
「ラローズは精霊魔法以外禁止じゃ、 精霊魔法師として初心者だが、魔法師として一度通った道じゃ、経験でカバーできるじゃろ ……まぁ~がんばれ!」
「ハイ……… ヒドイ」
「ディック、ギーズ、ララは、ディケムとのマナの繋がりを意識するように、あとは…… とにかく死なぬように頑張れ」
「おう!」 「ハイ!」
「ふぇ…… なにそれ、コワイ……」
⦅ララだけは泣きそうだ⦆
俺たちは広く開けた、戦闘訓練場へ移動した。
そこには王国騎士団第一部隊全員が集まったのではないかと思うほどの人だかりだった。
人族には召喚魔法師は希少だ、この王国騎士団第一部隊にも一人も召喚魔法師は居ない。
召喚獣が呼び出される光景は、あまり見たことがないらしく、騎士達はこぞって見物に来ている。
実際の召喚魔法を知らなければ、敵が使ってきたときに対処が難しい、だからラス・カーズ将軍も騎士たちに見学する事を推奨している。
「では行くぞ! 初めの召喚獣はこれじゃ!」
戦闘訓練場の中心に水色の魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣が光り出し、徐々に魔法陣より召喚獣が現れる。
【ジャイアント・ジェリーフィッシュ】
魔法陣から出てきたのは、浮遊する巨大なクラゲだ。
大きさは傘の部位だけでも三メートルは超えている、さらに触手は四メートルを超え、二本だけ六メートルほどの触手がある。
全体的に半透明のゼリー状だが、二本の長い触手は帯電しているように見える。
触手をヒラヒラさせながら、ゆっくり漂っている。
ジャイアント・ジェリーフィッシュの登場に、周りの騎士たちは大盛り上がりだ。
召喚魔法を見られた事と、海がないこの地域に巨大クラゲが出てきたことが皆の琴線に触れたみたいだ。
野次馬の騎士たちは置いておいて、見世物の俺たちはどうやってこのクラゲを攻略するかだ。
ジャイアント・ジェリーフィッシュの情報は、本で読んだことがある。
主な攻撃は長い二本の触手、触れるとサンダークラスの電撃ダメージを食らい、追加で毒も付与される。
厄介なのは、重力に影響されない浮遊能力だ。
人は無意識に重力による慣性を加味してここに落ちてくるだろうと目測を付けて攻撃するものだ。
巨大クラゲの浮遊能力は、人の慣性の感覚を狂わす、攻撃が急所を外してしまうのだ。
俺は巨大クラゲの情報を全員に伝え、攻略にかかる。
俺は基本マナの補給と、全体をコントロールする司令塔に徹する。
皆に指示を出す。
「ラローズさんは水球でクラゲの傘を攻撃!」
「ディックとギーズは火炎魔法で攻撃!」
「ララは後方で皆に【防御】と【加速】をかけた後は、状況を見て【回復】と【異常回復】をたのむ」
「ラローズさん以外は、俺が魔力を供給する、枯渇を気にせずぶっ放せ!」
「「「――了解!」」」
ラローズさんの水球が、巨大クラゲに飛ぶ―― だが遅すぎで避けられる。
ディックとギーズの火炎球は、クラゲにまったく当たらない。
ちなみにギーズは青魔法使い、魔物の技をラーニングして使うのだが…… まともな戦闘などまだ行った事がない、よってラーニングした魔法もまだ無い。
ギーズが使っているのは、黒魔法師の火炎球だ、よって本業の黒魔法師ディックの火炎球より格段に威力もスピードも弱い。
これは………、全く戦闘になっていない!
そして………、攻撃された巨大クラゲが怒り狂う!
――ヤバイ!
今の俺たちのパーティーは弱点だらけだ、最も致命的な弱点は皆が魔法使いという事。
せめて一人でも盾役が居れば、少しはパーティーらしくなるのに………。
「みんな! ヤバイ、巨大クラゲが襲ってくるぞ! ディック! 土魔法で壁とか作れないか?!」
「――ゴメン持ってない!」
「誰か前衛の盾役出来る人?」
「………………」
「誰も居ない! ヤバイ、ダメだ! 全員逃げろ―――!」
その日は逃げ回って終わった………。
「さて~ 今日の総評じゃ! まぁ初めての実戦ならしょうがないじゃろ! フフフ」
ウンディーネの笑い声で、俺達はげんなりする。
「ひどかったがそれでいい、今日の反省と、明日はどうするか自分たちで話し合え」
「始まってから全員が、魔法使いって事に気が付きました…… もう詰んでませんか?!」
「壁作れる人居ないの?」
「居ないね………」
「ディック覚えろよ!」
「そんな簡単に覚えられたら苦労せんわ!」
「ララはそら飛ぶ支援魔法とか無いの?」
「なにそのファンタジー、飛ぶとか無理でしょ?」
「ギーズ火を吐けよ!」
「僕だけ雑!」
「………お前ら遊んでいるじゃろ?!」
「アゥ………ゴメンナサイ」
「今晩中に全員で何ができるか把握しておくこと! ――あとディケム! オヌシ勘違いしているようだの!」
「へ? 何がでしょう?」
「まぁ、今まで基礎しかやらせてこなかったから、応用なぞ出来るはずもないか……」
「ディケムよ! 妾のこの体と、お前の回りで飛んでいる水球の違いは何じゃ?」
「ウンディーネとマナから変換して作った水球では? です」
「では、なぜ先ほどの戦闘で、水球を使わなかった?」
「………ウンディーネが敵役だから使えないのでは…… です」
「オヌシ、妾と契約する前から、水球作っておったではないか?」
「………あ!」
「基礎訓練のために、あえて放っておいたが、概念が間違っている。 妾の形をしたこの体と、オヌシが作っている水球は同じものじゃ。 基本、精霊に体という概念は無い。 オヌシは妾が敵役をやっているから、自分はウンディーネを使えないと勝手に思い込んでしまった。 水球を二つ目作り出した時のことを思い出すのじゃ!」
「え!? って事は―――!!!」
俺は水球を一つウンディーネに変えた、目の前にウンディーネが二体居る。
「おぉぉぉぉ!!」 「すごい!」 皆が目を見張る!
まだまだ――!!!
続けて、残りの七個の水球もすべてウンディーネに変えた!
「マジか!」 「うそ!」 「信じられない!」 「!!!!!」
「そうじゃ、そしてオヌシが妾を使えるという事は?」
「俺は精霊魔法も使えるし、前衛のゴーレムも作ることが出来る!」
「その通りじゃ! ただ一つだけ忠告じゃ。 妾一体の消費マナは少し大きい、マナとのライン供給が息を吸うように自然に出来れば問題ないが…… 意識しないと出来ない今のオヌシでは九体全部を妾にするのは、燃費が悪すぎてお勧めできぬぞ」
「うっ……… 早く言ってください………」
俺は疲労でしゃがみ込み、すぐにウンディーネを水球に戻した。
その晩、俺たちは明日の戦闘訓練に備えて、遅くまでお互いの魔法について話し合った。
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