第五章4-16 それぞれの思惑
私達は謁見の間に通され、ゲンベルク王国クリコフ・ゲンベルク国王に謁見をする。
「陛下、お初にお目にかかります。 私はモンラッシェ共和国ジュリュック大統領の娘、グランと申します。 そして彼は私の護衛のディックと申します」
「私がクリコフ・ゲンベルクだ。 その方らの事は騎士ナターリアから報告を受けている。 竜騎士だと聞いたが真実か?」
「陛下。 竜騎士とは少し語弊がございます。 私達は魔法使い、騎士ではございません。 ですがナターリアさんの言葉では、竜に乗れれば竜騎士だとおっしゃっていました。 その判断はお任せ致します」
「ほぉ、魔法師いだがワイバーンに乗れることは真実だと申すのだな」
「はい」
「そうか…… では竜騎士殿。 突然ですまぬが、一つ願いがある」
「願い……ですか?」
「そうだ。 その方らも薄々気づいてはいるだろう? 騎士団共が騒いでいる事を?」
「はい。 こちらに来るときに、軽い揉め事がございました」
「申し訳ないのだが…… 私も竜には乗れぬ。 この国では竜に乗れる者こそが英雄と見なされる。 私では騎士共を納得させる事が出来ないのだ、許してくれ。 そこで騎士達との『立ち合い』、を所望したい!」
「なっ! 陛下! それは――……」
「ナターリア! お前は控えておれ!」
「は、はい…… 申し訳ありません」
驚き、意見を申し立てたナターリアが、ゲンベルク王に叱責されている。
「た、立ち合いですか……?」
⦅ちょっ! なんか、物騒な話になって来た……。⦆
⦅立ち合いって、勝負の事よね? 戦えって事よね?⦆
ナターリアと私が焦って戸惑っていると、代わりにディックがゲンベルク王に答える。
「陛下! もしその申し出を受け、騎士達の支持を得たのなら、私達の望みを聞いていただけますか?」
謁見の間にざわめきが起きる。
ちょっ! ディック! 大丈夫なの?!
「もちろんだ。 一方的な要望では、その方らが『立ち合い』を受けるメリットが無い。 そなたの望みを聞き入れよう。 だが、騎士どもを納得させることが出来たのならの話だぞ」
「ありがとうございます。 それでは陛下もう一つ、私共は魔法使い、『立ち合い』では魔法を使っても?」
「それは無論だ、『立ち合い』は『殺さない事』以外にはルールなど無い、存分に死力を尽くすがいい」
「かしこまりました。 それではその『立ち合い』の件、お受けいたしましょう」
⦅えっ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――………⦆
ディックが勝手に『立ち合い』受けちゃった!
『おぉぉぉ!! 竜騎士殿が勝負を受けたぞ!』
『十数年ぶりの立ち合いだ!』
『竜騎士様の立ち合いをまたみられるとは!』
謁見の間が一気に盛り上がる!
も、もう後には引けない………
しかし、この謁見の間の盛り上がりは目を見張る。
もしかすると、この国では昔、『立ち合い』は日常茶飯事の娯楽だったのかもしれない。
「それでは竜騎士殿! 『立ち合い』は七日後と言う事でどうだ?」
「はい、我々もそれ程時間に余裕が有る訳ではありません。 ですが、この国の事を何も知らずに『立ち合い』に臨むほど無謀ではありません。 七日後の試合が程良いかと。 それで願いいたします」
「相分かった! それでは竜騎士殿の我が国での滞在は、縁が有ったナターリアの実家、六大名家の一つガモワ家で世話をする事とする! 良いな!」
『はっ! 竜騎士様のお世話、承りました!』
謁見の間の重鎮席より、ナターリアの親らしき人物が答える。
「竜騎士殿! 今日は長旅で疲れたであろう! ゆっくり休むといい」
こうして、ゲンベルク王は満面の笑みと、満悦の様子で謁見をこれまでとした。
私達は王城を後にし、ナターリアの案内で実家へと赴く。
ナターリアの実家は、ゲンベルク王国にある六大名家の一つガモワ家だと言う。
六大名家とは、シャンポール王国で言う所の大貴族、モンラッシェ共和国で言えば大財閥ってところでしょう。
あのアイベックスに乗って追いかけて来たナターリアがご令嬢だったとは驚きだ。
ゲンベルク国の王は、代々この六大名家から最も強い者を選出し王とするらしい。
そして王となった者がゲンベルクの名を継ぐのだと言う。
だから……
ナターリアが次代の王となる可能性が無い事も無いらしい…… コワイ
ガモワ邸はさすが六大名家、邸宅は王城のすぐそばの一等地、素朴な家が多いいこのゲンベルク王国で、一際大きな屋敷の一つだった。
邸宅の門をくぐると、庭にはナターリアが乗っていたアイベックスが繋がれている。
その庭の馬留に『アキレア』と『ロベリア』も留める。
アイベックスが焦っているようだが…… 気にしない。
その庭の広さから、元々ワイバーンを留める為に作られた庭なのだろうから。
そして、邸宅に入ると、ナターリアの両親と謁見の間にてゲンベルク王の側にいた男の人が何故かいる。
私達は丁寧な挨拶を受け、邸宅に招き入れられる。
そして客間を案内された時にディックがナターリアに言う。
「ナターリア、申し訳ないんだが、俺とグランの部屋は一緒にしてくれないか?」
⦅ちょッ! 何言っているの! せっかく別々の部屋用意してくれたのに!⦆
「やはりご心配ですか? グラン様の事が……」
「そりゃ~な、歓迎してくれたのに申し訳ないとは思うのだけど、今日あったばかりで全幅の信頼などあり得ないだろ? 『立ち合い』まで申し込まれているんだし」
⦅ま……まぁ…… 私を心配しての事ならしょうがないわね⦆
「確かに。 かしこまりました。 それでは私とベルモットもお供すると言う事で如何でしょう! 四人で楽しく『立ち合い』の相談でもいたしましょう」
「良いだろう。 それならばフェアだ」
私達は急遽、四人が泊れる大部屋に案内される。
そして部屋に入るなり開口一番、ディックが訊ねる!
「っで! 今更だがそのベルモットって誰なんだよ!?」
「えっ! ぼ、僕は…… あの…… その………」
「一応、私の許嫁です」
「一応って…… ヒドイよ………」
「フン! 私は貴方のそのウジウジしている所がイライラするのよ!」
「ふ~ん♪ 許嫁のベルモットとは、もう一緒に住んでいるってこと?」
「ちっ! 違います! ベルモットはゲンベルク陛下の御子息! 突然『立ち合い』を申し込む形になって申し訳ないと、自分の代理として彼を遣わしたのでしょう」
「お、王子様でしたか…… 失礼いたしました」
「いえ、現王の息子と言うだけですから。 ゲンベルクは世襲制の王権ではありません。 次の王はまた六大名家から選ばれますので……」
「それで…… その王子様が来たと言う事は、此度の『立ち合い』の件は、本当に陛下の意思では無かったってこと?」
「先ほども陛下もおっしゃっていましたが、この国では王権とは別に、竜騎士様の権威が強いのです。 ですから竜騎士様を育成する騎士団は、かなりの発言権を持っています。 突然現れた竜騎士様への不満を抑えきれなかったのでしょう」
「それにしては、楽しそうだったけど?」
「それも事実。 闘技場での竜騎士様の戦いは、国民の憧れ。 それが十数年ぶりに見られるのです! 嬉しく無い国民など居るはずが無いのです!!!」
「それだけでは無い様に見えたけど…… まぁいいや。 ナターリアもベルモットも、俺達のお世話と言うよりも、俺達からワイバーンに乗るヒントでも聞き出したいのだろう?」
「うっ………!」
「うっ………!」
「素直でよろしい。 俺達も一宿一飯の恩もある。 それなりの協力は約束しよう。 俺の事は今後ディックと呼んでくれ!」
「私の事もグランと呼んで」
「はい! ありがとうございます!!!」
みな、それぞれの思惑を胸に、七日後の『立ち合い』へ向けて動き出す。




