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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章四節 それぞれのイマージュ  ディックと落日のモンラッシェ共和国
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第五章4-11 潜入! モンラッシュ共和国

グラン・モンラッシェ視点になります。

 

 モンラッシェ共和国の中へは、下水道を通って潜入する事にする。

 昔よく、お父様に隠れて抜け出すのに使った、私には馴染みの抜け道だ。


「グランって…… 結構お転婆だったんだな」

「なにそれ?」


「普通、お嬢様は下水道に詳しくないだろ?」

「良いじゃない、その黒歴史が今役に立っているんだから」

「まぁな~……」



 迷路のような下水道を抜け、水処理施設のドアから、街中に入る。


「それで、まずはどうするんだグラン、なにか当ては有るのか?」


「まずは勇者やっているアレクセイ兄さんの従者、アンナと言う人に会うわ。 兄さんには会えないかもしれないけど、ホームに居るアンナさんを訪ねるように言われているの、そこで今後の方針を話し合おうと思うの」


 私達は、アレクセイ兄さんがホームにしていると言う宿屋へ向かう。



 街中を歩いていると、ディックが物珍しそうにあたりを見回している。

 このモンラッシェの街が珍しいのでしょう。


 この国は、多くの種族が共存している自由貿易国家。

 基本は人族の国だけど、街には多くの他種族が店を並べている。

 多種多様な文化が混在する、独特な国だ。


 今ではシャンポール王都が最も人が集まる国になってしまったけど、

 それでも未だにこの国は、活気に満ち溢れている。

 お世辞にも奇麗な街並みとは言えないけれど、私はこの雰囲気が大好きだ。


 ディックもあんなに目をキラキラさせて、楽しそうに露店を見ている……


 もし…… これが普通の日常の中の、普通のデートだったら、どれだけ楽しかっただろう。

 ディックは私の緊張をほぐしてくれる。

 ディックは私が心細くて潰れてしまいそうな時、笑わせてくれる。

 ディックが居なければ、私はもうとっくに挫けてダメになっていたに違いない。


「グラン! どうしたボーッとして? 俺この町初めてだからグランが連れて行ってくれないと、どこにも行けないぞ」


「ディック…… ありがとね」

「ん? いきなりどうしたグラン?」

「いや、何でもない……」


 残念だけど、今は感慨に浸っている場合ではない。

 私にはやらなければならない事が有るのだから。



 私達はアレクセイ兄さんがホームにしている酒場&宿屋の店へたどり着く。

 店の名前は『ベベドール』

 どこかの種族の言葉で『酒飲み』と言う意味らしい。


「ディック着いたわ、この酒場の二階の宿をホームにしているらしいの」


 私達はアレクセイ兄さんが使っていると言う部屋を訪ねる。

 扉をノックすると、中から若い女性が顔を覗かせる。

 アンナさんとは昔に会った事が有るのだけれど、お互い見かけた事が有る程度、初対面に近い再会だ。


「アンナさんですか? 私はグランと言います。 アレクセイ兄さんからアンナさんを訪ねるように指示を貰いました」


「グラン様?! よくご無事で! アレクセイ様からグラン様の事を聞いていたのですが、この街の警備状況では難しいのではと、心配しておりました。 現在まだ公式には発表されていませんが、ジュリュック大統領は背信の容疑で拘束されていると聞き及んでいます。 ご家族の方々も皆、同容疑で拘束されたと……」


 はやり街で私は捜索対象になっているようです。


「グラン様が入国されたことは、アレクセイ様にお伝えいたします。 それと、もしグラン様がいらっしゃいましたら伝えてくれと言われた伝言がございます。 『知りたい情報が有るのなら、まず情報屋のヨハンに会いに行け』と」 


「情報屋のヨハン?」


「はい、ヨハンはこの国で一番の情報屋だそうです。 ただ…… ヨハンにとっては情報こそが武器、情報の前では善も悪も無い。 ようは金次第で敵にも情報を売っていると言う事です」


「なっ! そんな危険な相手に会えと?」


「はい。 しかし逆を返せば、ヨハンの情報には嘘が無い、信頼に足る情報となります」


「わ、分かったわ。 アレクセイ兄さんの言葉なら確かなのでしょう」


「アレクセイ様は、いま賊の頭、魔神の情報を集めていらっしゃいます。 とても危険だと言う事で、このホームに戻られるのはいつになるのか分かりません。 もしよければグラン様の宿泊される宿屋を教えてください、戻り次第連絡差し上げます」


「あの…… 実はさっきこの街に着いたばかりで、まだ宿屋決めてないの。 念のため聞くけど、うちの実家は行ったら不味いわよね?」


「はい。 グラン様の御自宅は今閉鎖されていると聞きます。 それに今の状況では普通の宿屋を借りる事も難しいかと…… その事も込みで、情報屋に聞くのがよろしいかと思います」




 私達は宿が決まったら、アンナさんに知らせる事を約束して外に出る。

 そして人ごみに紛れて、情報屋のヨハンに会いに、アンナさんに言われた店を目指す。


 しばらく街中を歩いていると。


「えっ……! 嘘っ!?」

「どうした? グラン?」


 私は今、確かに見た……

 あの後ろ姿を見間違えるはずが無い!

 あの後ろ姿は確かに『オリガ姉さん』だった!


 私はその後ろ姿を追いかけるが、人ごみに流され追いつけない!

 そして……

 オリガ姉さんの隣にいる人影を見る!


「――ッ! アレクセイ兄さん!!!」



 すると突然、昔聞いたアコーディオンの曲が、どこからともなく聞こえてくる。


  ≪タァ~ラ~♪ ラ~ラ~♪ ラ~ララ~ ―――………≫


「えっ…… なに? この曲、昔よく聞いた…… グラン姉さんが好きだった曲?」


 気づくと街の人々が皆、時が止まったように、止まっている……

 そして耳元に声が聞こえる――!


 ⦅………グラ…ン……たす………けて………⦆

 ⦅あの……人……た……けて………⦆


「なっ! なに? この声! オリガ姉さん? 姉さんなの??」





「――グラン!! おい! しっかりしろ! グラン!」

 ディックに揺さぶられ、我に返る。


「ディック?! あ、あれ? 今オリガ姉さんが?」


「グラン! 誰もいないし、なんの声も聞こえないぞ!」


「そんなはずは…… いま確かにオリガ姉さんの声が………?」


「グランが突然走り出したと思ったら、いきなり倒れたんだ! グラン疲れているんじゃないか? 情報屋に行くのは明日にして今日はどこかでゆっくり―――………」


「ダメ! 急がないと…… たぶん今、オリガ姉さんが私に何か伝えようと………」


 だけど私の体は震えが止まらない。

 あの時、川から上がったオリガ姉さんの遺体が脳裏に浮かぶ………


 ⦅オリガ姉さんは、私達を恨んでいるの?⦆

 ⦅未だに誰かに助けを求めているの?⦆



 結局その日は、私の震えが止まらず、アンナさんにお願いしてアレクセイ兄さんのホーム、『ベベドール』に泊めてもらう事にした。





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