第五章4-9 ワイバーン捕獲作戦2
グラン・モンラッシェ視点になります。
「それでディックどうするの? どう見ても勝てないわよ」
「何か手があるはずだ! こんなどう見ても不可能なミッション、ディケムが勧めるはずない」
「やっぱり、あの『竜王の宝珠』じゃ無い?」
「そうなんだけど…… なんかあのファフニール様、少し抜けてる時が有るんだよな。 失敗したら即死のこの状況であの宝珠大丈夫だと思う?」
「む、難しい選択ね……」
そんな竜王様の悪口を言っていたのが悪かったのかも知れない。
私が小石に躓きヨロける……
そして咄嗟に体制を整えるために踏んだ足元の石が崩れ落ちる。
玉突きのように小石が中石に当たり、中石が大石を動かす。
崩れ落ちてくる石に一匹のワイバーンが私に気づき鳴き出した!
一匹のワイバーンの鳴き声が波紋の様に全体に伝わり、あたりは一面ワイバーンの威嚇の鳴き声で埋め尽くされる。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ―――!」
「キャー!キャー!キャー! ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
このままでは凄惨な未来しかない!
二人揃って餌になる酷い死しか思い浮かばない!
「え―――いままよ!」
ディックが思い切って【竜王の宝珠】取り出し頭の上に掲げる!
ワイバーン達が一瞬止まったけど、すぐに一斉に飛び立ち上空からディックと私に殺到する!
「ごめんグラン! やっぱりダメだったみたい!!!」
モンラッシェ共和国を救う為とか威勢良く旅立ったは良いけど……
初日に全滅とか……
私は頭を抱え目をつぶり、その時を待つ――
…………しかし一向にその時は来ない。
「グラン見てみろよ!」
ディックの呼び声にゆっくり目を開けると………
私達の目の前、辺り一面にワイバーンが恭順したかのように伏せのポーズで並んでいる。
「す、凄い……」
「ファフニール様、竜王の名は伊達じゃないみたいだな」
「うん。 今度会ったら謝らないとね」
するとディックがララから渡された袋から、首輪のようなものを二つ取り出す。
「ディック、それはなに?」
「これをワイバーンの首に付けてマナを流すと主従の証になるそうだ。 そしてこの紐を繋げてマナを通すと、 馬で言う馬具の手綱のようになるらしい。 あとは近場の街に行って馬屋で鞍を付けてもらおう。 もちろんこの首輪と手綱は外さないようにね」
「って事は…… 今回の移動用の為だけじゃなくて自分専用のワイバーンとしてこれから確保できるって事?」
「そうそう」
「首輪が二つ有るって事は私も一匹捕まえても良いの?」
「うんうん」
私はあまりの興奮で舞い上がる!
あの英雄譚に良く出てくる、ワイバーンを駆り空を制す竜騎士部隊。
その竜騎士たる証のワイバーンに私が乗る!?
「ねぇディック?」
「ん?」
「やっぱり…… 今回の事件が無事終わったら、ワイバーンはソーテルヌ卿に返さないとダメよね?」
「ん? グランが捕まえたワイバーンはグランの物で良いんじゃないのかな?」
「ホ、ホント?! ホントに良いの?! 後から返せって言われても返さないわよ!」
「大丈夫だろ? ディケムはそう言うのうるさく無いし」
「………………」
普通は『ワイバーン上げる』とか言わないと思う。
飼いならしたワイバーンなんて馬一〇〇〇頭以上の価値が有る。
「そんなに疑わなくてもいいよ、ララからはこの首輪の改良点が有ったら言ってくれと言われているから、後でここのワイバーンは全部ディケム達が確保するんだと思う。 これだけ居たら一匹くらい貰っても大丈夫だって!」
「ちょっ!!!」
ここのワイバーン確保って………
ソーテルヌ総隊にワイバーン部隊を作るってこと?
「そ、そんな重要な事私に話しても良いの?」
「グランは他言しないと信じているし、話したところで誰も何もできないだろ? ディケム以外の誰が一朝一夕でワイバーン部隊を作れるかって話しだ。 あの『ゲンベルク王国』の竜騎士団ですら今やワイバーン乗りは絶滅しかけているって噂だし。 それほどワイバーンを飼いならすことは難しいし時間が掛かるしリスクを伴う。 うちはファフニール様が居るからこんな簡単に手なずけられるだけの話だ」
知れば知るほど恐ろしくなる。
ソーテルヌ卿はファフニール様を守護竜としただけでも強大な力を手に入れたと言うのに、そこで満足をしない。
そして恐ろしい速度で総隊の隊員たちの強化も行っている。
人族の皆、最弱種族の人族が『三種族同盟』を経て強国と成りえた事で満足している。
しかし……
ソーテルヌ卿は本気でこの種族戦争の覇権を取りに行く気なのかもしれない。
「ほらグラン! 早くどのワイバーンにするか決めよう。 一応ララからは、群れのリーダーは避けるように言われている。 リーダーが抜けたら残った群れで凄惨な争いが起きるらしい」
「せ、凄惨な争い…… 分かったわ。 じゃぁディックあそこの一緒にいる二匹にしない?」
「あの二匹、雄と雌っぽいけど大丈夫かな?」
「ちょうど良いじゃない、私が雌でディックが雄。 仲良さそうだしあの二匹にしましょう!」
私はディックから首輪を受け取りワイバーンの首に巻き付ける。
「グラン、首輪にマナ(魔力)を流してみて、そうすれば首輪にグランの魔力が登録されるから」
ディック達は良くマナを操作すると言う。
ソーテルヌ総隊ではこのマナの操作を徹底的に訓練させられるとか。
マナ=魔力。
正直自分の中の魔力をコントロールするって漠然としていて良く解らない。
だけどこれでも私は黒魔法師見習い、魔力を出力する位の事は出来る。
首輪に魔力を通すとワイバーンと意思が繋がった感覚を感じる。
そして首輪にディックから渡された紐を取り付ける。
⦅この紐…… なにか特別な素材で出来ているみたい⦆
ここにも至難の業と言われるワーバーンを飼いならす技術が詰め込まれているのでしょう。
その紐にマナ(魔力)を流すと、先ほど首輪に魔力を登録したときと同じ感覚を覚える。
「これで、この手綱を使えば自由に飛べるはずだ」
まだ鞍が無いからお尻が痛いけれど今は仕方がない。
ワイバーンにまたがり手綱を握り少しだけ魔力を流す。
流す魔力は随時自然回復する魔力量よりも少ない微量で良い。
ワイバーンは翼を広げ一気に上空へ飛び立つ!
手綱を通して私の意志とワイバーンの意思が繋がっている、だから怖くない。
それはまるで、自分が翼を手に入れて飛び立ったかのような感覚!
⦅最高っ―――!!! 飛べるって気持ちいい―――!!!⦆
隣には少し心配げに私を見ているディックもワイバーンに乗って飛んでいる。
そして、他のワイバーン達も私達を見送るように一斉に飛び立ち、
縄張りギリギリまで一緒に並行して飛んでくれた。
私達はしばらくグルグルと飛行訓練をした後、待たせている馬車の近くに降り立つ。
「ひぃぃぃぃぃっ! た、助けて―――!!!」
馬車の御者が死にそうに驚いていたけど、私達を見てワイバーン捕獲が成功した事を知り安堵している。
馬車はそしてそのままシャンポール王国へ引き返してもらう事にした。




