第五章4-6 旅立ち
グラン・モンラッシェ視点になります。
ソーテルヌ卿との面会を終え、応接室を後にする。
公爵邸を出た所で、ディックに呼び止められる。
「グラン、そんな顔をするなって! 俺に任せろ! これでも俺はソーテルヌ総隊近衛隊のディック様だぞ! 四門守護者、赤の王! 爆炎のディック様とは俺の事―――」
「ディック! あなた、私が気づいていないと思っているの? 貴方はギーズやララの手前『近衛隊』となっているけれど、精霊と繋がっていない今はまだ、ただの黒魔導士見習いよ。 その将来性は認めるけれど、モンラッシェ共和国が危ないのは今なのよ!」
ディックが目を見張り驚くいている。
私はごく少しの人しか気づいていないディックの秘密。
実はまだ精霊と繋がれていない事を自慢の観察眼で既に看破していた。
「もしあなたが戦争に参戦でもしたら、それこそ期待値MAXで祭り上げられて、立場を四方八方塞がれて、戦死まっしぐらよ………」
「うっ…… ご、ごめん」
「いいの、ありがとう。 それでも慰めてくれたことは嬉しかったわ。 それに…… あの『サンソー村冒険パーティー』のくだり、ソーテルヌ卿が動揺するところを見られるなんて、とても面白いものを見させてもらったわ」
「『面白いもの』って…… ディケムは皆が思うような完璧な奴じゃないよ。 普通の俺達の幼馴染だ。 笑うし、驚くし、泣くし、動揺だってする。 普通の俺達と同じ若者なんだ。 それが…… 公爵だの総隊元帥だのと堅苦しい建前ばかり増えて息苦しそうだ」
「………………」
「今でも俺達はいつも夕食はみんなで食べているんだ。 その食卓はサンソー村に居た時とまったく変わらない。 素朴でアットホームですごく温かいんだ。 あのラトゥール様もディケムの両親と嫁姑みたいな時間を過ごしているんだ! 俺はあの時間がとても好きだしディケムも大切にしている」
あのソーテルヌ卿にそんな一面があるとは……
正直驚いたけど、まぁ当たり前の事かもしれない。
彼ほど自分を犠牲にして多くの命を救ってきた人はいない。
あたたかい心を持っていなければ、他人のためにあれだけの事など出来るはずが無い。
どこからあの強さが来るのか不思議だったけど……
今のディックの話でソーテルヌ卿の強さの秘密が少しわかった気がする。
「本当は誰よりもモンラッシェ共和国を助けに行きたいのはディケムだと思う。 だけど…… あいつの立場がそれを許さない。 だからアイツを酷い奴だと思わないで欲しい」
「ディックも彼らの事が大好きなのね! 酷い奴だなんて思っていないわ。 むしろ今まで散々忠告を貰って来たのを無視してきたのはモンラッシェのほう。 自業自得よ」
「グラン……」
「でも、どうしても私はあの国を救いたいの、だからその為ならばどんな事でもするの! そぅ自分で考えて決めたの」
それからしばらく、私は沢山の有力者と会いモンラッシェ共和国への援助をお願いし奔走した。
そしてモンラッシェ共和国へ向かう日になる。
まだ夜も明けぬ早朝ディックが旅支度を整え迎賓館に来てくれる。
「ディック、本当に私なんかについて来て良いの?」
「グランがモンラッシェ共和国を救うと自分で決めたように、俺も自分でグランを助けると決めた事だ! グランが気に病む事は無い」
「あ、ありがとう……」
結局私は、ディック以外の誰の援助も取り付けることが出来ず、二人だけで旅立つことになった。
こうなってしまえば、本当はディックの善意も断るべきなのでしょう……
だけど、ディックだけは一緒に来てほしと思ってしまった。
これは私の我まま、我がままで友人を死地に連れて行く……
⦅ソーテルヌ卿は私の事を許さないでしょうね⦆
執事の爺は歳と言う事もあり、隠密行動が出来そうも無いのでシャンポール王国で待っていてもらう事にした。
たぶん、モンラッシェ共和国には、私は表立って入ることは出来ない。
もし正面から入国すれば父の手紙から察するに、すぐに長老派に捕まり幽閉されるかオリガ姉さんのように殺されるのでしょう。
二人で馬車に乗りシャンポール王国の城門を出る。
そしてまだ真っ暗な街道を馬車は進む。
馬車に揺られ、ほんの数時間でブロワ村に到着する。
シャンポール王国に最も近い村。
以前は誰も立ち寄る旅人など居なかった村、でも今やシャンポール王国に入城するには、審査の為一週間以上待たされるのだとか、それで脚光が当たったのがこの村だ。
今ではこの村も大賑わい。
そしてソーテルヌ総隊の諜報部隊長メリダさんの実家、木馬亭という酒場を常設した宿舎がある。
ディックと私は朝食を木馬亭で取る事にした。
王都を離れる前に店の女将さんのヒルダに挨拶をしていきたいと、ディックのたっての願いもあった。
木馬亭に入ると早朝と言うのに店の中は大賑わい。 噂通りの繁盛ぶりだった。
「ディック! 久しぶりだねぇ! 悪いね~店は御覧の通りなんだよ。 あの奥のテーブルで相席じゃダメかい?」
「あぁ良いよ。 今日からしばらく王都を離れるんだ。 最後にヒルダの料理を食べたくて」
「相変わらずディックは嬉しい事を言ってくれるねぇ。 じゃぁ選別に料理を大盛にしてやるよ!」
「あぁ、ありがとう」
ヒルダと挨拶を交わして奥のテーブルに向かう。
テーブルには冒険者風の男女のカップルが座っているようだ。
「グラン、あまりこう言う場所は来たこと無いよな、ごめん」
「ぜんぜん大丈夫よ! ここが噂のソーテルヌ卿がお忍びで来るというお店ね」
「な、なぜそんな事を知っている!?」
「フフ~ン♪ モンラッシェ共和国の情報網を舐めないで!」
そして私とディックは相席のテーブルに着く。
「すみません、相席を……… なっ!!」
「どうぞ、グランとディック」
テーブルで朝食を食べていたカップル、ソーテルヌ卿とララだった。




