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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章四節 それぞれのイマージュ  ディックと落日のモンラッシェ共和国
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第五章4-2 情報収集

グラン・モンラッシェ視点になります。


 

「ねぇララ、相変わらず『玉藻』は可愛いわね」

「ありがとう! 玉藻も喜んでるわ」


 ララの肩に乗る玉藻が、ララの頬に頭をこすりつける。


「その子…… うちのモンラッシェ共和国には、昔から有名な玉藻神社に伝わる九尾のお話が有るのだけど…… まさかその九尾じゃ無いわよね?」


「えっ! そ、そ、そんな…… まさか…… この子はマルサネ王国のアダテで保護したのよ、違うと思う……けど……」


「なんでそんなに動揺するのよ! 玉藻も視線そらすし…… まぁ、もし同じ九尾だったとしても、だから神獣を返してなど、人さまが言える権利など無いから安心して」


「う、うん………」


「神獣と言えば、ジョルジュ王国の話し。 ギーズが【蒼竜】を手に入れた事までが話題になっているけど……  私の情報ではジョルジュ王国は巨人族との戦争で半壊、バンジャン陛下が崩御され、第一王子のプシエール様では無く、第二王子のルーミエ様が、王位を即位したと聞いたのだけど…… 何処までが本当なの?」


「うっ…… 流石ですねグラン。 ()()()()()()()だけど、全部本当です」


 ⦅やっぱり! それにしてもララ達もなんてチョロいのでしょ⦆


「グラン…… いま『なんてチョロいのでしょ』と思ったでしょう? 顔に全部出てますよ! 今日にでも公式発表されるから認めただけですから」


「うっ………」


 ララとグランのやり取りが脱線しそうなので、ディックが付け加えて話の方向を修正する。


「今日にでもルーミエ様のジョルジュ王国国王としての即位が発表されるらしい。 それと同時に魔法学校をお辞めになる事も発表されるそうだ」


「え……?」


「本当ならば、あと数カ月で御卒業予定でしたから、即位の発表を遅らせ、卒業してからの即位としたかったようだけど…… 先ほどもグランが言ったように、ジョルジュ王国は半壊した様子。 復興の為、数カ月の時間も惜しいそうよ」


「そうですか…… あのジョルジュ王国が半壊とは、にわかに信じられなかったのですが、本当だったのですね」


「うん」


 ジョルジュ王国とモンラッシェ共和国は隣国。

 グランも子供の頃から何度も訪れた、なじみのある国だったそうだ。

 隣国に巨人族領、魔神族領と強国に囲まれている事も有り、軍事面でも相当強固な国のイメージだったのだとか。

 そんなジョルジュ王国が半壊したなど、同じように強力な他種族領に囲まれるモンラッシェ共和国のグランとしても、信じたくない情報だったのだろう。

 ただ、国の在り方として、ジョルジュ王国は軍事的対抗、モンラッシェ共和は共存と選んだ対抗手段は全く違うのだが。


「それじゃ…… こんな詩がいまジョルジュ王国では流行っているらしいのだけど…… 知ってる?

【蒼き竜を駆りし英雄地に落つるとき、地獄の門は開かれた】

【しかし天は人々の祈りを聞き入れ、雷光纏し御使を遣わした】

【御使いは雷竜を駆り天の裁きで魔を焼き尽くし……人々に安寧の時を与えたもうた】

 この詩に思い当たる事は有る?」


「なにそれ……?」


「なんか、今回の戦役で人々が絶望に打ち拉がれた時、神の御使いが降臨されて、悪魔を神の雷で焼き尽くしたとか…… それを伝承として歌っているらしいのよ。 神の御使いが降臨とか『なにそれ?』って感じでしょ?」


「それ…… たぶんラトゥール様ね」

「ラトゥール様?」


「うん…… ギーズ達が戻ったら、色々公表するけど。 今回、ギーズの蒼竜以外にも、色々あるの」


「軍事機密?」


「いえ…… どうせ公表するから良いけど。 ディケムが『破壊と雷の上位精霊バアル』様を従属させたわ」


「破壊と雷の上位精霊バアル様……ですか」


「それに伴い、ラトゥール様が、バアル様とウンディーネ様と繋がり、雷嵐竜シュガールを従属させたらしいの。 そして先日、ギーズの助人としてジョルジュ王国へ向かい『ヘルズ・ゲート』を滅したと聞いているわ。 ギーズからの報告では、雷を纏って雷嵐竜に乗る姿は、雷帝とも、神が降臨したとも思える様相だったとか」


「ラトゥール様が雷帝…… 今まででも別格の強さでしたのに……」


「うん、さすがラトゥール様って感じよね。 それにしてもさっきの詩」

「詩?」


「【蒼き竜を駆りし英雄地に落つるとき………】ってたぶんギーズよね。 ラトゥール様を引き立たせる為とは言え、自分が落ちるのを唄われるのは嫌よね」


「う、うん……」 三人共ギーズに同情した。



「それでグラン。 こちらの情報は教えたけど、そちらはどうなのよ?」

「どうとは?」


「モンラッシェ共和国の同盟国への加盟の件よ」


「………。 お父様は同盟への加盟表明してるのだけど、相変わらず他の老獪なモンラッシェ一族は首を縦に振らないの、むしろ今、父は孤立状態に陥っているわ」


「それは、二年前から全く変わっていないと言う事? 人族の現状はこの二年で驚くほど変わったのよ。 もう他種族の顔色を窺ってどっち付かずの曖昧な立場では居られなくなったのよ!」


「ララ…… グランもソレは分かっているよ、だけど儘ならないのが大人って………」


「ディック! 分かって無いわ! もう、そんな悠長なことを言っていられる時間が無いの! このままではモンラッシェ共和国はマズい事になる! ジョルジュ王国の巨人族侵攻と魔族が連携している節があると、うちの諜報部メリダから報告を受けているわ。 ディケムがそれを私に伝えたと言う事は、グランにそれとなく伝えてほしいと言う事。 もし今モンラッシェ共和国が攻め込まれたとしても、同盟を結んでいない我々は、助けに行くことは出来ないのよ!」


「助けに行くことは出来ないとは?」


「ディック! 今、同盟国のジョルジュ王国が攻め込まれた事で、各国が危機感を覚えているわ。 そんな時、同盟しても居ない国に援軍を送る事なんか、他の同盟国が許さない。 それでは同盟の意味が無くなり、さらに他の同盟国を危険にさらす事になってしまうから」


「そ、そんな……」


 ディックも蒼白な顔をしているが、グランは蒼白を通り越して青くなっている。


 しかし、グランもその事は重々承知なのだ。

 だから二年も前から動いている、それでも本国の老獪共は動かない。


 ソーテルヌ総隊の力は今や、かなり大きな物になっている。

 しかし、助けられる力が合ったとしても……

 助けに行ってはいけない立場という大人のルールがそれを邪魔をする。




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