第五章4-0 プロローグ
多種多様な種族が行き交い、欲望と享楽の混沌が織りなす過剰な自由貿易都市。
【モンラッシェ共和国】
ここはそのモンラッシェ共和国のスラム街をさらに裏路地に入ったある場所。
一般人は決して近づいてはいけない場所にその隠れ家は有る。
二人の男がその隠れ家の中に入って行く。
隠れ家の中は、荒くれ共の巣窟だ。
二人の男は荒くれ共の一番奥に居る人物に話しかける。
「ペデスクロー様。 モンラッシェ共和国の勇者『アレクセイ・ブラドフ』が今夜出るそうです。 場所は東の教会」
「メフィスト、ご苦労だった。 ならば今宵は俺も出よう……」
「えっ! ペデスクロー様が自らですか?」
「ヨハン、ペデスクロー様の決定に口出しはいけません」
「は、はい! すみません!!」
ヨハンと呼ばれる男が、メフィストと呼ばれる男に、叱られている。
この二人は主従関係、そしてペデスクローが雇い主、もしくはさらに上の主人と言う所だろう。
そしてペデスクローが荒くれ共に号令をかける。
「お前ら! 今夜出るぞ! 『勇者アレクセイ・ブラドフ』を討て!」
「「「「おぉぉぉぅ!!!」」」」
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場所はモンラッシェ 共和国の東にある教会。
三人組のパーティーが教会を訪れる。
「シスター、神父様は居るかい?」
「これは、勇者アレクセイ様! どうぞ中でお待ちください。 直ぐに神父をお呼びします」
三人は、モンラッシェ 共和国の勇者パーティー。
パーティーリーダーのアレクセイ・ブラドフ(男)は勇者。
オリハルコンの剣を持つタンク寄りの剣士だ。
そしてその従者二人、アンナ・サフィナ(女)とユーリ・セロフ(男)。
アンナ・サフィナは白魔導士。
ユーリ・セロフは槍使い。
二人ともまだ駆け出しの見習い従者だ。
教会の神父が勇者アレクセイに挨拶をする。
「アレクセイ様、このような夜更けにどのようなご用向きでしょう?」
「あぁ、夜分に申し訳ない。 だがこの頃、街に悪魔の出没が多発している事は聞いているだろう? そこで私はずっと調べているのだが、この教会に『ゲート』が有る事が分かったんだ。 早急に対処しないと危ないと思い、夜分にもかかわらず来させてもらった。 『ゲート』の封印をさせてもらえないだろうか?」
「おぉ…… なんという事! この神聖な教会に汚れた悪魔共の『ゲート』が! 直ぐにお願いします!」
勇者一行は、迷いなく教会の屋根に登り、アレクセイの指示の元、アンナとユーリが魔法陣を描く。
仕上げに勇者アレクセイが呪文を唱えた時……
ドオォォォ―――ッン!
魔法陣に火炎球が着弾しかき消される!
「なっ! お前たち! 近頃、我々の魔法陣を壊し回っていると聞く賊か!」
従者二人、アンナとユーリが前に出て賊に問いかける!
だが賊の一味は、何も言わずに問答無用に勇者一行に襲い掛かる。
賊の数は二〇人、それに対し勇者パーティーは三人。
圧倒的数の有利で、勝負は決したかに見えたが……!
『次元斬!』 ズガッ―――ン!!!
勇者アレクセイの奥義で、五人の野党が吹き飛ばされる。
勇者がオリハルコンの剣を抜いた途端、一気に形勢が逆転する。
「なっ! なんだと……、 一瞬で五人を……」
『次に吹き飛ぶのは誰だ?』 アレクセイは剣を構える!
盗賊達は動くことが出来ず、ジリジリと後退していく。
だがアレクセイは賊に一切の躊躇いも無く、さらに奥義を放つ!
「この神聖なモンラッシェ共和国を汚すクズどもめ! 探す手間が省けた! 吹き飛べぇ――! 『次元斬!』」
ドゴッ―――ン!!!
だが……
勇者の蹂躙劇が始まると思った矢先、またしても一人の男の登場で風向きが変わる。
その男は、腰に二つの剣を下げる双剣使い。
アレクセイの渾身の奥義『次元斬』を片方の剣だけを抜き、片手だけで軽々と弾いた。
「ばっ……馬鹿な、俺の奥義を弾ける奴が、賊なんかに居るわけがない!」
月明りがゆっくりとその男を照らし出す。
「なっ! 魔神族だと!?」
「フン! ここは自由貿易都市、数少ない他種族が共存する街だ! 賊に魔神族が居てもおかしくは無いだろう?」
「い、いくら魔神族だとしても、勇者と認められた俺の奥義を、名も無い賊が敗れるはずが無い! お前はなんだ?!」
「そぅ言われてもな…… まぁどうでも良い、お前のような小物はここで…… ッ!」
賊の男が話している最中に、アレクセイは『次元斬』を放つ!
しかし今度の『次元斬』は教会の屋根に向けて!
教会の屋根は激しく崩れ落ち、爆煙が吹き荒れ、煙が立ち込める!
その隙にアレクセイは直ぐに引く!
「アンナ! ユーリ! 逃げろ!」
「えっ! アレクセイ様 そんな――」
躊躇する二人の従者を強引に両脇に抱き寄せて、アレクセイは次々に屋根を飛び移り、走りながらそこら中に『次元斬』を放ち、逃走の方向をかく乱する。
「チッ! あの勇者…… 無差別に屋根を破壊しやがって! これどうせ、俺のせいになるだろうな……」
「お頭! 追わないのですか?」
「まぁいい。 騒ぎが大きくなった、見つかると今後の動きが面倒だ、引くぞ!」
「「「はっ!」」」
賊の頭は引き際の早い勇者に舌打ちをし、即座に撤収する。
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全力で逃げたアレクセイのパーティー三人は、いつもホームにしている宿屋に逃げ込む。
肩で息をするアレクセイに従者ユーリが問いかける。
「アレクセイ様…… それほどまでにあの魔神は強かったのですか?!」
「あれはヤバイ! もし俺が全力でやったとしても、もう片方の双剣を抜かせる事も出来ずに両断されていただろうよ」
「そ……そんな!」
「なぜ…… なぜあんな化け物がこの町に居る? どうする、あの化け物に対抗できる奴なんて、『アルザスの奇跡』以外人族には居ないのではないか?!」
「そ……そこまでの化け物ですか!? なら、早急にモンラッシェ大統領に報告して、ソーテルヌ公爵に応援要請を―――」
「無理だ! モンラッシェ共和国はまだ同盟軍に加盟していない。 同盟を結んでもいない国に、自国の英雄を送れるはずが無い!」
「そんな、それではこの国は……」
「モンラッシェ共和国は、共和国とは言うが、現実はモンラッシェ一族の派閥が牛耳っている国。 その中で唯一、現大統領が改革推進派として同盟への加盟を訴えたが、結局は派閥で孤立してしまい同盟には至っていない。 人族の勢力が増した今、このモンラッシェ共和国は非常に危ない立場にあると言うのに、既得権益にしがみつく馬鹿どもは、その事が見えていないんだ!」
「アレクセイ様、この国から逃げますか?」
「ユーリ! なんて事を! この国には私達の家族もいるのよ!」
「しかし、アレクセイ様が敵わない奴なんてどうすれば………」
「二人とも落ち着け! 俺は大統領の娘、グラン・モンラッシェ嬢と旧知の仲だ。 彼女は今、シャンポール王国へ留学している。 そこにはソーテルヌ公爵がいる。 あの抜け目のない親子、大統領と娘のグランならば、ソーテルヌ公爵と接触していないハズが無い。 何とか連絡を取ってみよう」




