第五章3-27 幕間 蒼竜刀の鞘 その二
レジーナ視点になります。
私の名はレジーナと言う。
代々鍛冶師の家系、祖父の代では王国専属の鍛冶師として、『シャレル』の家名をいただき、騎士爵の爵位を貰っていた。
しかしその後、武器の大量生産、鋳造技術が主要技術になり鍛造技術の我家は衰退し、騎士爵も失った。
騎士爵は失ったが、『シャレル』の家名は取り上げられた訳ではない。
だから私は誇りをもってレジーナ・シャレルと名乗っている。
祖父が頂いた『シャレル』の家名と言う栄誉を恥じる事は無いはずだ!
それに、貴族だった祖父母からは、今後貴族になる為の礼儀作法も教えてもらったのだ。
廃れた技術の鍛造の工房は、もちろん町の中心などで商売など出来ない。
山奥に工房を作り、包丁やハサミを作って、町のお店に置いてもらっている。
自慢ではないが、顧客には町の高級料亭などが多いのだ。
工房は父の『スベン』、兄の『クラウス』、私の三人で仕事をしている。
父と兄の技術は、身贔屓と言われるだろうが、神がかった技術だと思っている。
だけど私は………
中途半端な混合スキル『職人と青魔法』だった。
父は『大丈夫だ、祖父も同じだった!』と慰めてくれるが、
それこそ身贔屓と言うものだ。
私はこの父と兄の技術を、このまま包丁作りだけで終わらせたくない。
もっと大きな仕事で世に知らしめたい!
その事を口にすると、『包丁作りをバカにするな! 職人にとって包丁も刀も同じ! 作る物に順位など無い!』と叱られる。
でも…… 私は知っている。
父も兄も、本当は祖父の様に国の為に働きたいのだと。
そんなある日、私は街で噂を耳にする。
『四門守護者のギーズ様が、アーティファクト武器『蒼竜刀』の鞘を作れる職人を探している』と。
「兄者! 町の噂を知ってるか? 四門守護者のギーズ様が、アーティファクト武器『蒼竜刀』の鞘を作れる職人を探しているらしいぞ!」
「あぁ聞いている。 町一番の鍛冶師『カール』の所も、その他の有名な鍛冶師がことごとく失敗したと聞いる。 アーティファクト武器とはどれ程のモノなのか、見てみたい!」
「兄者はその話を聞いて、その『鞘』を作ってみたいとは思わないのか?」
「思わない訳ではないが…… 四門守護者様がこのような山奥の工房に来るとは思えない。 出向いて行ったとしても、こんな弱小鍛冶工房に依頼をくれるとはとても思えない。 俺達は他の鍛冶師とはスタートラインから格差が出来てしまっているんだ」
「兄者! 私は兄者の技術を尊敬している! だけど……そのチャレンジする前から諦める性格だけは嫌いだ!」
「レジーナ……」
「父上! 兄者! 約束してくれ! もし私がギーズ様の仕事を取ってくることが出来たのなら、真剣にその仕事に取り組んでくれると!」
「レジーナ、それは約束するまでもない。 俺達は職人! その依頼が包丁だろうとアーティファクト武器の『鞘』であろうと、どの仕事にも手など抜くことは無い!」
「その言葉忘れないでよ! 必ずギーズ様の仕事取ってくるから、楽しみにしてなよ!」
レジーナは、父と兄の約束をと取り付け、急いで町に出かける。
勢いのまま町まで駆けて来てしまったレジーナだが……
レジーナはギーズの顔など知らない。
とりあえず、町の鍛冶師が集まる金物問屋街に向かう。
⦅ギーズ様は四門守護者の一人だけど、颶風の魔王の二つ名を持つ……⦆
⦅魔王ってヤバくない? 普通勇者とかにそんな二つ名付けないわよ!⦆
平民なんぞが話しかけただけで、切り殺されるのでは無いだろうか?
そんな不安を抱き、町を歩き回る。
すると……
金物問屋街の大通りに面した大きな鍛冶工房から、項垂れて出てくる一人の青年を見つける。
とても若くて、ヒョロっとして、青を基調としたバード調(吟遊詩人)の服を着ている。
ちょっとお洒落な優男っぽさがある、普通の青年だが……
その背中には布で包んだ刀を帯刀している。
⦅魔王?! では無いわよねさすがに。 やっぱり魔王ならゴリッゴリ体型で身長は2メートル超えるわよね!? 第一魔王は項垂れないでしょ!?⦆
すると、その優男が出て来た鍛冶工房の職人が、わざわざ店の外まで出てきてその男に詫びている。
「ギーズ様! 本当に申し訳ない。 せっかく四門守護者様の『武器の鞘』と言う名誉な依頼を貰ったのに、これは私の手には追えません」
⦅えっ! いた!? 本当にこの優男が魔王なんだ!⦆
レジーナは、魔王の二つ名を持つギーズのあまりにも普通な様相に目を見張る!
⦅直ぐに声をかけなきゃ!⦆
レジーナはこの千載一遇のチャンスに、自分の運の良さを神に感謝した。
そして自分の運命全てをかけるつもりでギーズに話しかける!
「あ、あの……ギーズ様! 四門守護者のギーズ様ではありませんか?!」
突然知らない女の子に声をかけられ、ギーズはキョトンとしていた。
⦅えっ! 本当にこの人がギーズ様なの? 強者の覇気とか全然無いんだけど!⦆
ギーズのあまりの平凡さにレジーナはさらに不安を深めながらも、
思いの丈を全てギーズにぶつけた!
自分の紹介、生い立ち、鍛造と鋳造の違い、自分の夢……
ギーズの人当たりの良さもあり、レジーナは時間を忘れ自分の思いを熱弁した。
そしてギーズも嫌な顔一つせず、紳士的にレジーナの話を聞いてくれた。
レジーナは、自分の話をこれほどまで真剣に聞いてくれる人と今まで会ったことが無かった。
全てのプレゼンを終え、やり切った満足感がレジーナを満たす。
⦅これでダメなら……… 求めるモノが相容れなかったと諦めるしかない⦆
そして―――
「レジーナさん。 私は貴女にこの『鞘』の依頼をします。 お願いできますか?」
「はいっ!!!」
レジーナはギーズの依頼を見事勝ち取った!




