第五章3-26 幕間 蒼竜刀の鞘 その一
ギーズ視点になります。
ジョルジュ王国から戻ったギーズは一つの問題を抱えていた。
【蒼竜刀の鞘がない………】
「なぁ蒼竜、蒼竜刀の鞘って無かったのか?」
「いやすまん。 普通は鞘も一緒に作るのだが…… もうマナが残っていなかったのだ。 だがその分刀身にマナを凝縮したから、すごい刀だろう?」
「凄いのは分かるけど…… いくら普通の鞘作っても直ぐ壊れちゃうんだよ」
「当り前だろ! ワレが作った最強の剣だぞ! 普通の鞘で収まるはずが無かろう」
⦅そんな自慢げに言われても……⦆
「今オヌシ…… アホな子を見る目でワレを見たな?」
「いや…… そんな事は有りません……」
そう! 蒼竜刀の鞘をいくら作っても壊れてしまうのだ。
ディケムの鬼丸国綱もラトゥール様のゲイボルグも鞘が有る。
さらにディケムには神器『ハスターの指輪』もある。
⦅あの指輪凄いんだよな~、まぁ【神器】なんて僕には無理だけどね⦆
ちなみに、ラトゥール様にいつもゲイボルグをどこにしまっているのか聞くと……
『女の秘密を聞くものではない』と揶揄われた。
そりゃ、アーティファクト級のあの二つの武器に並ぶ刀を授けられたことは非常に嬉しい。
だがソレはソレ、コレはコレ!
このレベルの武器の鞘が無い事は地味に大変なのだ。
流石に刀身を剥き出しで持ち歩く訳にも行かず……
困った僕はディケムに『八属性の精霊金属糸の布』を作ってもらい、簡易的にその布で包んで持ち歩いている。
この布ならば何とか蒼竜刀にも耐えられるようだ。
まぁコレでいいと言えば良いのだが、やはりかさばる。
できれば鞘を作り、帯刀したい。
それにだ…… 布で包んだだけの刀を持ち歩いていると、
危険人物と間違えられ、町でよく衛兵に止められるのだ。
今日もギーズは街の刀鍛冶屋に行き、『鞘』の新調をお願いするが……
どの鍛冶屋もアーティファクト武器の鞘など作れない。
「ギーズ様申し訳ない。 せっかく四門守護者様の『武器の鞘』と言う名誉な依頼を貰ったのに、これは私の手には追えません」
今日もギーズは断れるだけだった。
そんなある日。
その日もギーズは『鞘作成』の依頼を断られ、項垂れて街を歩いていた。
「ギーズ様! 四門守護者のギーズ様ではありませんか?!」
その時、突然ギーズは一人の女の子に声を掛けられる。
⦅『四門守護者のギーズ』その呼び名は街で目立ちすぎるから止めてほしかった……⦆
「なぁギーズ様、刀の鞘を作りたいって噂は本当かい?」
『鞘作成』の依頼を断られ続けただけに、ギーズは直ぐに反応する!
だが…… 振り返って見た先に自分よりも小さな女の子を見て落胆する。
「ギーズ様…… 今明らかに落胆したよね? こんな小さな女の子に何が出来るって諦めたよね!?」
「いや…… 申し訳ない、あなたの言う通りだ。 あまりにも『鞘作成』を断られ続けたものですから、この件に関しては疑いの目でしか見られなくなってしまったようです」
「まぁ良いや、鍛冶の話で私が出て行って、疑いの目で見られなかったことが無いからね」
「すみません……」
「アハッ! 噂のギーズ様とやらは四門守護者でただ一人『魔王』の二つ名を持つ、どんな恐ろしいお人かと思ったが、なかなか人は良いみたいだ! 私は【レジーナ・シャレル】と言います」
「ん? 家名が有ると言う事は貴族ですか?」
「まぁ…… この身なりを見たら平民にしか見えないだろうね。 それに、現に今は普通の平民で間違い無い」
正直この世界に、没落した貴族など珍しくない。
もしくは、親が亡くなり兄弟の一人が爵位継承し他兄妹が平民に下ったか、戦争で死が身近なこの世界では、爵位を守るため子を沢山産むことは普通の事だ。
元貴族と聞き、哀れむ事など無い。
「はぁ…… それでレジーナ。 私にどのような話でしょうか?」
「いきなり声をかけた私の話を聞いてもらい感謝します」
⦅この人は基本ため口だけど…… 貴族としての礼儀も出来ている⦆
「私のシャレル家は、元々王国お抱えの鍛冶師でした。 ですが我家の鍛冶とは、ドワーフ王国が主流とする鍛造の技術をさらに進化させた、熱した金属を叩き鍛える技です。 そして今王国で主流となる鍛冶は鋳造。 金型に熱した金属を流し込む製法になります。 鍛造と鋳造それぞれ善し悪しがあり、一概にどちらが良いとは言えません」
「なるほど、素人の私は知りませんでした、鍛冶師にもいろいろと製法が有るのですね」
「はい、我家の鍛造はとても切れ味のいい丈夫な剣を作りますが、その製法上大量生産が出来ない。 今主流の鋳造は、大量生産は出来るがその切れ味、強度は鍛造製と比ぶべくもない」
この話、ギーズは非常に興味を引かれレジーナの話に引き込まれていた。
「この全種族が覇権を競う世では、大量の武器が必要になり、鋳造が主流になる事は必定! その事は我々も納得しているのです。 ですが鍛造の技法も失わせてはいけないと思っている! そこで私が目を付けたのが…… 少数一騎当千のソーテルヌ総隊という訳です!!」
⦅なるほど…… これはディケムと引き合わせたら面白い事になるかもしれない⦆
「そこでギーズ様! 我々シャレル家にあなたの『蒼竜刀』の『鞘』の制作、チャレンジさせて頂けませんか? そしてもし成功した暁には、ソーテルヌ公爵様に引き合わせ頂けないでしょうか?」
ギーズは少し考えてからレジーナを見据えて話す。
「いくつか質問させて頂いても良いですか?」
「もちろんです」
「ソーテルヌ公爵に引き合わせたとして、閣下がシャレル家を引き上げて頂ける確証は有りませんよ?」
「もちろんです! 会っていただいた後の事は我々の技量だと承知しております」
「鍛造師は刀身を作る事に特化していると思いますが…… この依頼は『鞘』ですが良いのですか?」
「優れた『刀匠』とは『鞘』も込みでの仕事です。 お任せください!」
「それでは…… レジーナさん、失礼な事を承知であなたの『スキル』を正直にお聞かせてください」
それまでシャキシャキ質問に答えていたレジーナが言い淀む……
「わ、私の……スキルですか!? …………。 職人、と……青魔法です」
やはり、この人は青魔法師の才能を持っているのか!
同じ青魔法師どうし、何か伝わるものがある。
「で、ですがギーズ様! 私は中途半端な混合スキル『職人と青魔法』ですが! 私以外の家族は違います! 鍛造に特化した『職人』の単一スキルです! だから――……」
「大丈夫ですよ、レジーナさん。 私は貴女にこの『鞘』の依頼をします。 もちろん私の出来る協力も惜しみません。 お願いできますか?」
「はいっ!!!」
レジーナと名乗る少女は、満面の笑みで答えた。




