第五章3-22 雷帝降臨
ジャスティノによって致命傷を負わされたメリヘムは自分が消滅する事を悟る。
「ならばせめて―――!」
中級悪魔メリヘムは最愛の主人へ最後の忠義を果たす。
≪――――χρόνος・αντιστροφή(時間反転)――――≫
メリヘムが、自分の魂を供物に捧げ、禁呪【時間反転】を唱えたのだ!
「アハァ~ アハァハハハァ~ ラーヴァナ様~」
メリヘムが塵の様に砕け散り、四散するのに呼応して、【ヘルズ・ゲート】の時間が巻き戻される!
崩れていたヘルズ・ゲートがパズルを組み立てるように、破片のピースが組み合わさっていく………
南地区の廃墟と化した場所で地面に座り込んでいたギーズは、【ヘルズ・ゲート】の異変に気付く!
「バ……馬鹿な!!!」
マナを使い果たしたギーズは、同じくマナを使い果たした蒼竜を小型に戻し肩に乗せ、走ってマディラの所まで戻っていた。
マディラ達も力を使い果たし、地面にへたり込んでいる。
もう彼らに何かできる力は残っていないが、ギーズはせめてマディラの近くに居たかったのだ。
「ギーズ…… ヘルズ・ゲートが! このままじゃ魔王が出てきちゃう!!!」
ギーズとマディラは町の光景を見る。
上空では【ヘルズ・ゲート】が再生されていく。
町ではヘルズ・ゲートから漏れ出した低級悪魔と巨人族が、人が居なくなった南地区の町を破壊している……
炎と水の神話級巨人も居る。
魔王が降臨してしまえば、今、辛うじて戦線を維持している城壁も破壊されてしまうだろう。
城壁が破壊されれば、ジョルジュ王国は終わる。
この絶望的な状況を目の当たりにして、ギーズ達は立ち尽くす。
「ここまでだな……」
「ギーズ………」
「僕はそこまで傲慢じゃない、自分の出来る事と出来ない事の分別は有るつもりだ」
「うん………」
ギーズが【言霊】を応用した救難信号を上げる。
「ディケム! たのむ―――!!!」
「あとは…… どんな事が有ってもマディラだけは守って見せるから」
「ギーズ………」
そして、同時にジョルジュ城でもこの絶望の状況を見て、ジャスティノがディケムから渡されていた、救援用のペンダントにありったけの魔力を注ぎ、救難信号を送る。
「ディケム様! どうかお願いします!!!」
だがそのとき、八割ほど復元された【ヘルズ・ゲート】に鐘の音が鳴り響く。
「ゴォ――ン ゴォ――ン ゴォ――ン」
鐘の音を合図に、ゆっくりと少しだけヘルズ・ゲートが開く………
そして中から大きなドス黒い手が扉をこじ開けるように出てくる………
「ギーズ…… あ……あれは………?」
「うん…… どの魔王が出てくるか……?」
――そのとき!
ヘルズ・ゲートの前に、魔法陣が構築される!
「っあ! ギーズ見て! あれ!!!」
「あぁ! ディケムが来てくれ――…… あれ?」
魔法陣から出てくる姿は明らかに女性。
「あれは…… ラトゥール様?」
「あぁ、ラトゥール様だ。 だ、だけど…… あの乗っている竜はなんだ!? しかも竜と一緒に転移陣を動かすとか……」
それは、ギーズからしたらあり得ない光景だった。
ギーズも転移陣の仕組みをディケムから習い、仕組みだけは理解している。
そして、先日ララが九尾を転移させたと聞いていたが…… ウンディーネ様の力を借りてやっと起動させられただけだ。
ラトゥール様は今、魔神族領に居たはず。
ラトゥール様ならば、転移陣を起動させることも可能かもしれない。
だがもしラトゥール様が単独で転移陣を使ったのだとすると……
これから激しい戦闘が予想される場所へ、マナを大量消費して転移した事になる。
正直、戦闘前に簡単に転移陣を起動するなんて、ディケムくらいしか考えられない!
―――そのとき!!!
ズドォンッ!! バリバリバリバリ――――――!!!!
ズドドドドドォン!!! バリバリ――――――!!
凄まじい数の雷が、廃墟と化したジョルジュ王国南地区に降り注ぐ!
「ひっぃ! な、なに!!」
降り注ぐ落雷が、低級悪魔と巨人を殲滅していく!
そして、ラトゥールが連れて来た竜、シュガールが二体に別れて、雷を帯びた牙と爪で巨人達を切り裂いていく。
その光景はまさに破壊の化身そのモノ。
「す…… 凄い!!」
その時、ヘルズ・ゲートがさらに開き、魔王の顔が出てくる―――………
「フン! これ以上町を破壊されると、ディケム様に叱られかねん! お前はそこから出てくるな!」
「λάμψη(閃光)・αστραπή(稲妻)・βροντή(雷鳴)―――………」
≪―――― Καταιγίδα(雷霆) ――――≫
ズドドドドドォォォォ――――――ンッ!!
ズッ——ガガガガガガッ———!!
巨大な落雷の柱がヘルズ・ゲートに落ちる!!!
それはもう、稲妻と言う規模のモノではない……
大きな光の柱が天に向かい立つような!
神の落とした神罰のような!
そんな途方もない規模のモノだった。
【ケラウノス(雷霆)】の光が消えた後には何もない。
ヘルズ・ゲートも跡形もなく消滅していた。
「「「………………」」」
そのあまりの光景に、誰しもが言葉を無くす。
「ギ……ギーズ。 あれ……ラトゥール様よね?」
「あ……あぁ……… だと思う」
圧倒的すぎる破壊の力に畏怖を感じる。
その力がもし自分達に向いたのなら………
今の自分達では一瞬にして滅せられてしまうだろう……と。
「ギーズ! ディケム様の許しなく、このような所で死ぬことは許さぬぞ!」
「ラトゥール様、助かりました。 ありがとうございます」
ラトゥールのいつもと変わらぬ言葉に、ギーズもマディラも『ホッ』とする。
「ラトゥール様…… あの…… その力は?」
「あぁ先日、お前たちと同じ、ディケム様とマナで繋がることに成功した! そして雷と破壊の精霊バアルとウンディーネ様と繋がったのだ。 ついでに雷嵐竜シュガールも従属させた。 これでお前たちに後れを取る事は無いぞ!」
「後れって…… しかし、ウンディーネ様とも繋がったと言う事は、宝珠を使えば三柱の精霊を使えると言う事ですか?」
「あぁ、ディケム様と繋がる者は、二柱以上の精霊と繋がることも出来ると言う事だ! 我々はまだまだ強くなれる!」
ギーズと話しながらも、ラトゥールは片手間に落雷を落とし、敵を殲滅していく。
そして、炎の巨人が力尽き……
水の巨人が重傷を負い、戦場から逃げ出していくのが見える。
「ラトゥール様! 水の巨人が!」
「フン! あのような小物どうでも良い」
「しかし……」
「ギーズ、窮鼠猫をってやつだ! 今のジョルジュ王国の現状をよく見よ、ダメージは甚大だ。 巨人族をこれ以上追い込めば、全滅覚悟の戦いをしかねぬ。 戦争とは引き際が肝心、水の巨人に残りの兵を連れて帰らせればいい。 お前たちも先ほどまで全滅しかけていた現状を忘れるな!」
「はっ! 軽慮浅謀でした!」
この日、ジョルジュ王国は滅亡不可避の状況まで追い込まれた。
しかし、雷帝と化したラトゥールの登場により戦局は一変。
人々は、灰となった南地区の町を見下ろし、生き残れた事に感謝し……
ラトゥールを神が降臨したかの様に称えた。




