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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章三節 それぞれのイマージュ  ギーズと西方の勇者
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第五章3-21 オーバーフロー

コーダ視点になります。

 


 コーダは崩れゆく【ヘルズ・ゲート】を見上げる。

 そして力を使い切り蒼竜と共に地へと落ちていくギーズの姿を見る。


 魔王とその軍勢が顕現する、最悪の事態は避けられた。

 しかし…… ギーズとマディラ達が力を使い果たした今、

 ヘルズ・ゲートの残骸から漏れ出す低級悪魔と、南地区に残る巨人達に対抗できる戦力は無い。


 ⦅いや…… 僕には戦う力がある!⦆


 先日僕は失敗してしまった。

 しかしこの機会に挽回できれば、ギーズ様も僕を認めてくれるに違いない!



「コーダ! これ以上はダメ! もうギーズ様も力尽きました。 援軍も見込めない今、あなたもこれ以上戦えば、破滅しかないわ!」


「フリウリ…… ギーズ様達が力尽きた今だからこそじゃないか! 巨人族と戦えるのは僕だけ、今活躍すれば皆、僕が勇者だって認めて―――」


「コーダ!!! もう勇者なんてどうでも良い! あなたの望みは『ずっと一緒に居られる家族が欲しい』それだけだったじゃない!」


「フリウリ………。 そんな昔の話、覚えていてくれたのか?」


「私が…… あなたの言葉を忘れるはずが無いじゃない!!」


「フリウリ………」


 コーダはフリウリの言葉に我に返る。

 誰も自分を見てくれなかったあの時、フリウリだけは自分を見てくれた。

 フリウリだけが居てくれたら何もいらない、そう思っていた。


 ⦅だけど………⦆


「フリウリ! 僕はフリウリだけが居てくれたら、何もいらない。 だけど、助けられる人が目の前に居て、自分がその力を持っているのに逃げるのは違うと思うんだ」


「………………」


「だから…… 今回だけ、今回だけ力を貸してくれよ!」


「コーダ、私は精霊。 正直契約者以外の命は人も巨人も同じ。 いや、マナからすれば全ての命が平等で、死すら状態の一つでしかない。  だけど…… 契約者のあなたの命令は絶対。 あなたが望むのならば、私は逆らう事は出来ないわ」


「ならフリウリ、力を貸してくれ! 巨人族を排除する!!!」





 コーダがオーガを次々殲滅していく。

 今日のコーダは調子が良い、集中力が増し、ある種の『ゾーン状態』に入っていた。

 ゾーン状態のコーダはオーガ部隊に混ざるサイクロプスですら、物ともしなかった。



 城壁の上で戦場を見ている避難民たちは、力尽きるギーズと蒼竜、マディラ達を見て、もうジョルジュ王国は終わりだと絶望に暮れていた。


 しかしそこに『西方の勇者コーダ』の奮闘が目に入る。


 絶望からの希望の芽!

 城壁に避難する溢れんばかりの難民たちから、伝染するようにコーダへの応援が広がっていく。

 そしていつの間にか、地鳴りのように響く声援がコーダに向けられた!


「フリウリ! 聞こえるかい! この声援は全て僕に向けられているんだ! みんな僕を見てくれている! 僕を勇者として認めてくれているんだ!!」


「………………」


 フリウリは知っている………

 人は身勝手なモノ、この声援は自分たちを守ってくれるモノに向けられた声援。

 コーダが倒れたら次の勇者に向けられる。

 倒れたコーダには誰も見向きもしなくなる………


 だけど、私だけは貴方を見ている。

 たとえあなたが倒れたとしても、私は貴方だけを見守っている!!!




 コーダの目の前に、三匹の水龍が暴れ狂う。

 この水龍は、水の巨人が城内の水路の水に干渉して水龍に変えたものだ。


 瞬時にフリウリはその水龍へと飛ぶ!

 フリウリが水龍に触った瞬間! 水龍はコーダの支配下に入る。

 水の中級精霊の力は伊達ではない。


 コーダは三匹の水龍を纏わせ歩く!

 『水龍』はドラゴンとは違い、大きなヘビのように長い龍種。

 その三匹の水龍を纏う様はまるで、三つ首を持つドラゴン種の様に見えた。

 そしてその水龍はコーダの手足となり、さらに巨人族兵を殲滅していく!


 戦場全体を見渡せば、ジョルジュ王国騎士団はほぼ壊滅し、残りの平民で構成された一般兵は巨人族兵の格好の餌食、さながら狩の標的となっていた。

 その様は見るに堪えない、死屍累々たる有様だ。


 だがその絶望の光景の中で、三匹の水龍を支配し、『ゾーン状態』に入っていたコーダの力は圧倒的で、希望の光に見えたのだろう。


 城壁で戦場を見ていた人々から、さらなる歓声がコーダへ送られる。

 それは藁にも縋る思い、一縷(いちる)の望みをかけた人々の願い。




 コーダに希望を託す人々の思いとは裏腹に、フリウリはコーダが助かる道だけを模索していた。


 ⦅この巨人族の小隊を退けたら、活路が見えるはず!⦆


 ⦅この戦場はもう崩壊している。 ジョルジュ王国はもう詰んでいる。 コーダがいくら巨人族を局地的に倒し戦術的に勝っても、戦場全体、戦略的にはもう詰んでしまっている⦆


 ⦅コーダは今、体の調子が良くて気づいていない、戦場の戦況も…… コーダの残りの魔力(マナ)も………⦆



 フリウリは精霊、人族と巨人族の戦争の勝敗など興味は無い。

 契約者の命を守る事のみが、最優先なのだ。


 ⦅この巨人族小隊を退けたら活路が………⦆


 だが…… フリウリの思いは叶わない。

 巨人族小隊を退け、脱出への活路が見えるはずだったその先に―――


 ―――灼熱の炎が巻き起こる!


 ⦅なっ! そ、そんな………⦆


 それは…… 先ほどコーダとフリウリが恐怖で動けなくなった存在。

 一〇メートルは有ろうかという、炎が燃えさかる巨人がゆっくりとコーダを見据える。



 絶望に打ちひしがれるフリウリとは対象に、ゾーン状態に入っていたコーダは『見つけた!』と炎の巨人に挑む!


「ダメ! コーダ! アレは無理!!!」


 しかしフリウリの言葉はコーダには届かない。


 だが……

 驚くことにコーダは炎の巨人と互角に戦っていた。

 同じ力を持つ土の巨人をマディラ達が六人がかりで倒したと言うのに。


 その様は、この戦いを見守る人々の更なる期待と希望を焚きつける!


「西方の勇者が凄いぞ!」

「ガンバレ! コーダ様!!!」


 それは王都全体に伝染し、鳴り響く応援歌となり、ジョルジュ王国民全てが一体となってコーダを応援した。


 そしてそれはコーダに更なる力を与えた!

 コーダが徐々に炎の巨人を圧倒し始める!


「す、凄い! あの炎の巨人を一人で押し返してる!!!」

「いける! 勝てるぞ! 西方の勇者様!!!」


 コーダが炎の巨人を圧倒する!

 炎の巨人がよろけ、逃げ出そうとする!

 その様を見て、人々は歓喜に湧き、誰しもがコーダに大きな声援を送る!



 だが……… その時は訪れる。



 【バァッキィィィィ――――――ン!!!】

 コーダの中、例えるならば魂の中心で何かが砕ける音がした………


「っえ………! なに?」


 コーダは怯える、本能が今のは致命的な音だと訴えかけてくる。

 そしてコーダから力が抜け崩れ落ちる。


 ⦅あっ…… そんな………⦆

 フリウリは、一番恐れていた事が起きたと知る。





 ―――その時!

 倒れたコーダに一切の配慮も無く、戦場の事態だけは進行していく………


 『ゴォ――ン ゴォ――ン ゴォ――ン』


 遠くで、崩壊したはずの【ヘルズ・ゲート】から鐘の音が鳴り響く。



 そして今この場所では、倒れたコーダを見て……

 逃げ出そうとしていた炎の巨人が、千載一遇の好機とばかりに無慈悲に襲いかかる!


 だがフリウリは動かない……

 フリウリは一点を見つめ、絶望に打ちひしがれている。

 彼女にとっての全て、コーダが取り返しのつかない事になってしまった。

 それはオーバーフローによる、マナの過剰な消費。

 その過剰消費により起こる魂の崩壊が始まってしまったのだ。


 一度崩壊を始めた魂は、繋ぎ合わせる事は出来ない……



 地面に崩れ落ちたコーダ。

 その傍で自我喪失しているフリウリ。

 成す統べなく、炎の巨人に押しつぶされると城壁で見守る人々は誰しもが思ったとき―――!



 ズドドドドドォン!!!   バリバリ――――――!!!


 突如落ちた雷撃に炎の巨人が消滅する。



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