第五章3-19 シルフィードの加護
ジャスティノ視点になります。
ジャスティノはパメラと一緒にルーミエ王の警護をしながら戦場を見ていた。
そして自分の妹が、あの強大な敵、神話級巨人と対峙するところを城から見ている。
あの巨人は、ジョルジュ騎士団を壊滅に追いやったこの戦争のカギとなる敵、土の巨人だ!
ジャスティノは祈るように妹を見る。
しかしマディラは仲間たちと協力し合い、月の上位精霊ルナ様を使い、あの土の巨人を瞬殺する!
「よし! マディラ、凄いぞ!」
兄としてこれほど嬉しい事はない!
鳥肌が立ち、興奮は抑えられない!
だが、思わず他国の王の前で声を上げてしまった事に気づく!
自分の行動を省みて、思わず王に謝罪しようと思ったが……
ルーミエ王もパメラさんも大声で喜んでいた。
ルーミエ陛下が呟く。
「シャンポール王国からの援軍要請を断り続けた引け目もあり、父の手前ギーズを正式に呼ぶことができなかったのだが…… こじつけでも、なんでも良い、無理矢理彼を呼んで良かった! もう見栄や引け目などどうでも良い、対等の立場など望むまい。 ジョルジュ王国の命運は彼らにかかっているのだから」
自分の妹が、同盟国の命運をかけて戦っている。
町中の声援の中心に、マディラが居る。
素直に妹と総隊の皆が称えられる事を誇らしく思った。
――だがその時!
『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――………』
王都に巨人が叫ぶ声が響き渡る!
そして………
王都全体を使った魔法陣によって【ヘルズ・ゲート】が召喚される。
「っな! なんなのだ!? あれは………」
「あれはヤバイ…… もう人の領分でどうこう出来るものじゃない!」
⦅ジョルジュ王国は終わった………⦆
皆がそう思った時――
ギーズ様だけは諦めていなかった!
蒼竜に乗り天を駆ける姿は、まさに【青の王】
全ての者が天を仰ぎ、手を握りしめギーズ様に祈った。
――そして!
ギーズ様は【ヘルズ・ゲート】を破壊、魔王の降臨を阻止した!
そしてマディラ達も結界を張り、その衝撃波からジョルジュ王都を守って見せた。
だが!
ヘルズ・ゲートによる破滅は免れたが……
崩れゆく【ヘルズ・ゲート】の残骸から、低級悪魔が漏れ出す。
そして、町にはまだ炎の巨人も居る。
城外には水の巨人さえまだ居る。
しかし、ギーズ様は力を使い果たし、蒼竜と落ちていくのが見える。
マディラ達も町を守り倒れ伏す。
総隊の皆が動けなくなってしまった今、現状は絶望的だ。
私はヘルズ・ゲートに立ち向かうギーズ様の後ろ姿と、
エルフ戦役で見たソーテルヌ閣下の後ろ姿を重ね合わせる……
英雄とは、自分のできることを成した人だと言うが……
誰が他人の為にこれ程までボロボロになりながらも、絶望に立ち向かえるのだろうか?
なぜか込み上げてくる涙を必死に堪える。
⦅妹のあの姿を見て、奮起しなければ男じゃない!⦆
『せめて低級悪魔くらいは俺でも………』 ジャスティノは奮起する!
ジャスティノの視線の先には、蝙蝠のような低級悪魔の群れが、一直線にこの王城を目指して向かってくるのが見える!
「ジャスティノ! あなただけでも逃げてください! あの数は無理です!」
「パメラ! 妹があれだけ頑張ったのです、ここで私が逃げ出したら後で合わせる顔が無いでしょ!?」
「…………。 ジャスティノ卿。 出合った時にあなたには酷い事を言ってしまった。 謝罪します。 あなたは情に厚く誇り高き騎士だ! ジョルジュ王国へのご助力、感謝します!」
「フフ。 でしたらパメラ卿! お互い生き残れたら、酒の一杯でも奢ってくださいね!」
「あぁ! 約束しよう!!!」
ジャスティノとパメラは覚悟を決め絶望の戦いへと挑む!
その時ジャスティノの背後に緑色の精霊が顕現する。
「シ……シルフィード様?」
「ジャスティノとやら、ギーズはほぼマナを使い果たしました。 よって私も今はほぼ力が残っていない。 だがギーズからの命令です、最後に少しだけあなた達に加護を与えましょう!」
シルフィード様がそう言うと
ジャスティノとパメラの剣、盾、鎧が風を纏う。
―――そして!
ジャスティノとパメラが浮く!!!
「え?!」
「エルフ族が使う『フライ』です。
これで羽根が生えた悪魔にも遅れは取らないでしょう!」
「そして…… これで終いです!」
そう言いシルフィード様が最後の力を使い、城全体に風の結界を作り出す!
「あぁ……もうこの程度の結界しか張れませんか、ジャスティノ! あとは貴方に任せるほかありません、ギーズの期待に応えなさい!」
「はっ! シルフィード様 過分なご助力ありがとうございます! 必ずやルーミエ陛下を守って見せます!」
シルフィード様は頷いた後、金粉がはじけたように四散して消えた。
その直後、低級悪魔の群れが結界にぶつかる!
シルフィード様はこの程度の結界しか作れなかったと言っていたが、
流石は上級精霊の作った結界!
粗方の低級悪魔はこの結界に触れた瞬間、消滅していく!
だが群れの中に混じる中級に近い悪魔が風の結界を抜ける。
それをジャスティノとパメラが撃退していく。
「パメラ! 凄いですよシルフィード様の加護! この程度の悪魔なら触れただけで消滅させますよ!」
「ジャスティノ! 油断するな! 後ろにヤバいのがいるぞ!」
その直後、ジャスティノとパメラは背後に居る悪魔の気配に戦慄する!
「…………。 ったく……精霊の加護とは厄介な。 マーラ様の復活より前に、ラーヴァナ様が復活するはずだったのに! メフィストを出し抜けた筈なのに!! あの役立たずの巨人どものせいで……」
⦅マーラ? ラーヴァナ? 両方とも最上級の魔王の名じゃないか!⦆
「せめて役立たずのこの国の王でも滅しておこうと来てみれば、この有様……… もう面倒臭い!面倒臭い!面倒臭い!」
突如背後に現れた悪魔は、ジャスティノとパメラに見向きもせず、一点を見つめてブツブツと呟いている。
『あれは………女? 中級悪魔なのか?』
『あぁ、だが何故中級悪魔が? 崩壊したヘルズ・ゲートからは低級くらいしか出て来られないはず!』
ジャスティノとパメラが小声て話していると……
悪魔がこちらを見て笑う。
「フフフ~ 知りたぁ〜いぃぃ? わたし最初っからこの町に居たの、あなたが生まれるずっと前からぁぁぁ〜 私が時間をかけてやっとヘルズ・ゲート完成させたのぉぉぉ〜にぃぃぃ〜 あの野郎! 私の苦労を簡単にぶち壊しやがってぇぇぇぇ!!!」
悪魔は感情をコロコロ変えて悪態をつく……
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
気に入って頂けたら嬉しいです。




